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147.教会最強VS出来損ないの戦女神

「随分好き放題暴れてくれたな! この落とし前はつけさせて貰うぞ!」


 コーネリアは手にした剣を正眼に構え、赤緑の双眸でこちらをキッと睨み付ける。


「好き放題暴れてるのはそっちの方でしょ? 国を挙げてこんな軍勢差し向けて、私達が一体貴方達に何をしたっていうのかしら?」

「国王陛下に対し侮蔑の言葉を浴びせた。貴様等を討伐するのにそれ以上の理由など必要無い!」

「それもそっちが最初に無理難題突き付けてきたからでしょう? あんな内容強要されれば、悪態の一つや二つ言いたくもなるわよ。売り言葉に買い言葉ってやつね」


 ルーク、ルドルフ、アランの話を聞いていれば、ふざけるなと言いたくもなる。

 事実、アランは怒り散らしていたのだから。

 民は税を国へ納め、国は民を守る為にその税を運用する。

 これが国と民のあり方であり、どちらか一方が蔑ろにされてはならない。

 税を搾り取り、それでいてロンバルディアの地に住む人々の警護を放棄した聖王都には最早何も言う権利は無い。

 国が守ってくれないから、自分達で自衛しているだけだ。


「――どの道、この回答に対してはキッチリ鉄槌食らわせてやるから覚悟しときなさい」

「ふん。たかが一般兵相手に格の違いを見せ付けていい気になるなよ。所詮貴様は猿山の大将でしかないという事を身を持って知るが良い!」


 言い切ったコーネリアの足元が爆ぜる。

 コーネリアの踏み込みの勢いが余りにも強過ぎた為に、踏み込んだ足元が削れたのだ。

 肉体強化の術式――いや、それだけじゃない。

 そこに風属性の術式まで混ぜ込んである、恐らく私のフレイヤに搭載されているゲイルスラスターと類似した術式だろう。

 早い――!

 まるで弾丸の如く迫るコーネリア。

 迫る剣閃をフラガラッハで弾く。初撃より重い。フレイヤの体勢が崩れる。

 体勢を立て直すべく、スラスターを稼動させ中空へと退避。

 が、コーネリアはまるで空中に足場でもあるかのように軌道を変え、宙に逃げた私へと追撃を仕掛けてきた!

 チッ、フレイヤの空中機動に追い付いてこれるのか。

 多分あれは、空中に空気の壁のような代物を作ってそれを足場にしてるようね。


「フン! 空を跳べるのが自分だけと思うなよ! この世界に人類の真の平和を齎す為、その礎となるがいい!」

「民衆に餓死を強要しておいて平和だなんて随分笑わせてくれるわね」

「民衆だと? この地にいるのは聖王都、そして精霊教会に楯突いた無法者しかいない! ましてや混ざり者など人にあらず!」


 鍔迫り合いの距離まで肉薄する。

 単身切り込んで来るだけあって中々やるじゃない。

 このレベルの戦力が、最初の時点で来てたら危なかったわね。


「人類の真の繁栄に、人ならざる汚らわしい魔族の血など不要!!」

「…………」


 ――人ならざる、か。

 リュカを、ルナールを、リサを……リューテシアを。

 何の罪も無いあの子達を否定し、独善的な正義の名の下に排しようというのね。


「……なら、貴女の言葉を借りて私も反論させて貰おうかしら」


 成る程、大体理解した。

 目の前のコーネリアという人物は、最早修繕不可能なレベルまで思想が捻じれきっている。

 こういう手合いに反論する意味など無いが、それでも友達を悪様に言われては黙ってはいられなかった。


「――世界の真の繁栄に、汚らわしい愚物の旧時代的思想など不要よ。塵芥と成り果てなさい……ああ、ごめんなさい。多分塵も残らないわね」


 でも、もう何度もこの言葉を思い浮かべただろうか。


 ――遅過ぎるのよ。


 フレイヤが完全復活を果たし、周りにまだ(まりょく)が大量に存在しているこの状況。

 この程度の戦闘能力なら、遅れを取る気は無い。

 それでも今までと比べれば遥かに強敵なのは間違いない。


 粒子残量を惜しまず、全力で討たせて貰うわ。

 貴女の敗因。

 それは自ら打って出る決断が、余りにも遅過ぎた事。

 それは有象無象を引き連れ、エサ(・・)をフレイヤの前に並べ立ててしまった事。

 そのせいで、私のフレイヤの粒子残量が回復してしまったのだから。

 事切れた敵兵達から切り離された魂、その全てを背負った翼状のデバイスから吸収。

 コーネリアが来るまでの間で、かなりの数の兵が死んだようだ。

 再びエネルギー残量が100%付近まで復帰する。

 多勢に無勢、されど有象無象。

 有象無象も数の暴力、本来は押し潰せるはずだったのだろうけど。

 それはフレイヤにとっては有利な条件でしかない!

 命を喰らえば喰らう程、より輝きを増し更なる死を振り撒く。

 陳腐な例えだが、正にそれは死神の所業。

 さぁ、これで私はまだまだ飛べる!


「原子結離炉、設置(セット)!」

『原子結離炉、フレイヤとの接続を確認。余剰粒子を原子結離炉へ転送開始します』


 ものぐさスイッチ内、エネルギーを使い果たして無用の長物と化していた原子結離炉もフレイヤに連結。

 フレイヤのバッテリー余剰分は原子結離炉へと転送。

 原子結離炉は、フレイヤの予備バッテリー同様内部に魔力を溜め込んで置ける。

 敵意を見せたこの地にある命の一片たりとも残さず、このフレイヤが全て喰らい尽くす!


 私に喧嘩を売ったらどうなるか。

 それをこの一戦で見せ付ける、思い知らせる!

 私達の日常を、もう二度と脅かす気が起こらない程に!

 徹底的に、圧倒的に、無慈悲に、容赦無く!


「どれだけ強がろうが、所詮貴様は一人。多勢に無勢――」

「――ヴァーティカルフレア、ライトニングフォール、レイジングテンペスト、シェイドリベリオン、起動!」


 地を奔る業炎の噴流。

 撃ち貫く無数の雷槍。

 薙ぎて両断する暴風。

 喰らい飲み込む深淵。


 ――地表が、地獄へと変わる。


 どれもが人一人を殺めて尚余る途方も無い破壊力を有し、その一つ一つが千の命を容易く葬る。

 圧倒的殲滅力が、同時に(・・・)軍を飲み込み崩壊させていく。

 肉体という器を砕き壊し、私が欲する純粋な魔力を、次々に喰いちぎって行く。


「なっ……!?」


 地上の光景を目の当たりにし、目を見開くコーネリア。

 まるで信じられないような物を見たかのような動揺が見て取れた。

 ああ、そういえばこの世界では機械制御が存在してないから、不思議がるのも当然か。


 人が魔法を使う時、通常では一度に一つの魔法しか使えない。

 片手で一度に二つも三つも作業が出来ないのと同様に。

 だから複数の魔法を使いたい時は、上手く複数の魔法を混ぜ込んで一つの魔法として使う必要があるのだ。

 ……生身でやるのであらば。

 だが魔法の詠唱・発動という工程をプログラミングし、マルチタスクによる並行処理。

 電子演算という科学技術によって、魔法という現象は更なる次元へと進化を遂げた。

 人の手では不可能な、魔法と科学の融合によって辿り付いた境地。



 ――多重魔法展開。



 私自身には、戦えるだけの力は無い。

 その戦う為の力として、フレイヤは存在している。

 フレイヤ(これ)の粒子残量が尽きない限り――


 私は、強豪無比なる最強の剣士。

 私は、道を究めし屈強なる武道家。

 私は、決して外さぬ百発百中の狙撃手。

 私は、万象を退ける孤高の大魔法使い。

 私は、一個の意志となった万軍。


 この知識の元となった者達の命の輝きに賭けて。



 ――私は、勇者や魔王とだって渡り合ってみせよう。



「この――化け物め!」


 地上の有様を見ても尚、戦意を失わないコーネリア。

 その気合だけは褒めてあげるわ。

 なら、発動準備が終わるまで遊んであげるわ。


 一閃、一閃。

 その一振りが弧を描き、必殺の威力を持って私へと襲い掛かる。

 早い。そして重い。

 翠の弾丸の如き苛烈な攻め。

 その手も緩まず、私に隙を与えず、防御以外の行動をさせぬよう縛り付けて来る。

 攻撃は最大の防御、を地で行く戦い方だ。

 類稀なる才能、というのを感じさせるだけの実力を、目の前のコーネリアという女は持っている。

 人の身でこれ程の速さに到達出来るというのは、素直に賞賛しよう。

 だが、賞賛は送れども勝算はこちらが握っている。

 教えてやる義理は無いけれど、こっちは機械制御で同時に魔法を行使出来るのよ?

 防戦一方に見えるけど、私が同時進行で攻撃手段を準備してない訳無いじゃない。

 久し振りの全力戦闘だから、もっと貴女と戦ってブランクを埋め、鈍った勘を取り戻そうと思ったけれど――残念、時間切れね。


 ――パネルのStand by表記が、Readyへと変わる。

 発動に必要な魔力量、蒐集完了。


 ――こっちは、限定・恐慌烈風(ちゅうとはんぱ)じゃない。

 正真正銘、最大の術式。

 超電磁加速砲(レールガン)光学剣(フラガラッハ)切り札(ジョーカー)だが、これから使うのは鬼札(ワイルドカード)

 人の身で抗う事は不可能。

 天災、超常現象、天文学的、驚天動地。

 一撃で全ての戦況をひっくり返す、神の一手ではなく盤面から破壊する暴力。


 その異様な魔力に気付いたコーネリア。

 彼女は視線を空へ向け、その表情から一気に血の気と余裕が抜け落ちていく。

 天空に描かれるは、魔力の軌跡。巨大な魔法陣。

 敵陣中央上空に描かれた魔法陣は、私やコーネリアは愚か、今正に迫り来る本隊の大半を悠々と飲み込む程の規模にまで膨れ上がっていた。

 発動に必要な膨大な魔力は敵兵の魂で補った。


 空が、茜色に染まっていく。

 大丈夫よ、世界を壊さない程度に出力は抑えたから。

 このロンバルディアが消し飛んだら、リューテシア達が暮らす場所がまた無くなっちゃうからね。


 千を喰らいて――


「終末の赫炎、万象を焼き払え! 業火顕現!」


 ――万を討滅す。


「プロメテウスノヴァ!!」


 貴方達が沢山(まりょく)を用意してくれたからね。

 魔力を贅沢に使った、この一撃で葬ってあげるわ。

 確実に殺す、必殺の術式。

 決して防がせない。

 防御は、無意味。

 それをコーネリア自身も感じ取ったのだろう、故にコーネリアが回避しようと行動するのは当然の考えだった。

 あんなものに巻き込まれては溜まらないとばかりに、先程まで見せていた気概は何処へ行ったのか。

 戦線を放り出し、脱兎の如く逃げの一手を打った。


限定(リミテッド)身体加速(アクセラレーション)!!」


 防げない、そして回避もさせない!

 それでこそ必殺の一撃というのよ!


 フレイヤに搭載された、「時」の力を解析する事で生み出した最高位の術式――限定(リミテッド)身体加速(アクセラレーション)

 フレイヤ、そして搭乗者である私自身の体感時間を加速させ、通常では不可能な反応速度・機動性能を実現させる、「時」という世界の法則に手を掛ける、上級をも上回る禁呪の一つ。

 この術式の発動もまた、膨大な魔力を必要とするが、この場でなら使える!

 逃げ出すコーネリアの前へと先回りし、攻撃を仕掛ける事でこの戦場から離脱されないよう足止めする!


「貴様正気かァ!? あんな術を発動すれば、貴様とてタダでは済まんぞ!!」

「あー、被害が出るのは仕方ないって考えてるわ。コラテラルダメージって奴ね」


 何で私が、わざわざソルスチル街の壁の上に立って身を晒してたと思う?

 何で私が、わざわざ貴重な弾丸を用いて最初に銃撃を仕掛けてたと思う?

 それは、相手に私を視認して貰い、攻撃出来る距離にまで固まって近付いて貰う為。

 それは、突出する兵力を潰して足並み揃えてここまで来て貰う為。

 その目論見通り、全て予定通りに侵攻してくれた。予定地点に固まってくれた。

 お陰でキッチリ、プロメテウスノヴァにて殲滅出来る状態に出来た。

 ここまで機動力の高い敵兵が居たのは予想外だったけど、まあ面倒だからアレに一緒に巻き込んで葬ってしまいましょうか。

 だから術式が発動するまで、コイツはここで釘付けにする!


「道連れ覚悟の玉砕か! この、狂人が!!」


 ……道連れ覚悟の自爆? する訳無いでしょ。


 追い詰められた獣の如く、コーネリアの抵抗の激しさが増す。

 当然だ。プロメテウスノヴァ(あんなもの)を食らえば間違いなく死ぬのだから。

 翠の飛刃、天から降り注ぐ翡翠の矢雨。

 飛び交う魔法攻撃をかわし、離脱しようとするコーネリアを徹底的にこの地に釘付けにする。

 確かに早い。ここにいる軍勢に持ち上げられるだけの事はあるじゃない。

 だけど残念、限定(リミテッド)身体加速(アクセラレーション)によって時間を加速させた私からすれば、満身創痍で飛び回るハエ未満の速度にしか感じない。

 立ち塞がる私を退けるべく必死の抵抗を続けるが、その攻撃を容易くいなし、コーネリアをこの場所に留める。

 大気中の温度がじわじわと上昇し、明確に近付く足音。


 ――頭上に浮かぶ、絶対的な死が顕現する。

 発動の予兆として自然発火が発生する程の熱量まで膨れ上がった、白炎の光球。

 アレを受けてしまったら、完全な状態となったフレイヤでもタダでは済まない。

 良くて戦闘不能の致命傷、悪ければ機体諸共私は消し飛ぶだろう。

 無論、比較的軽装なコーネリアなど言うに及ばず。退避時間は潰したわよ、これでもう貴女は逃げられない。


 ま、私は逃げるけどね。

 さようなら、コーネリア。多少のリハビリにはなったわよ。



「――時間跳躍(タイムジャンプ)



 白に染まる世界が切り替わり――



―――――――――――――――――――――――



 宇宙(そら)に浮かぶ、太陽の模倣。

 ロンバルディアの地に、原初の新星(プロメテウスノヴァ)の術式が発動した。

 数千万度に到達する、炎という表現が陳腐にすら思える、天文学的熱量の顕現。

 瞬きの間程度しか持たぬ、ゼロコンマに過ぎぬ時間。

 ただそれだけの時間、発動しただけで。爆心地となった地表に敵と呼べるモノは存在していなかった。

 盾も、装甲も、魔法障壁さえ無意味。

 血肉も骨も灰となり、足場すら溶解し、クレーター状に大地諸共。差別分け隔て無くその全てを蒸発、霧散させた。

 余剰エネルギーの熱風が大地を舐め、その余波だけでファーロン山脈の山岳樹林を焼き尽くし、見渡す範囲の残雪全てが水蒸気となり消し飛んだ。

 この世界において禁呪と呼ばれ、恐れられたその破壊力。



 ――それは勇者や魔王の物語で伝えられる、大衆からすれば夢物語でしかない、伝説の力の顕現であった。



地下拠点にて蛍光灯代わりというあんまりな使用法をされていた原初の新星(プロメテウスノヴァ)

出力差のせいでまるで別物です。

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