146.汎用人型強化外装「フレイヤ」 蘇りし偽神の双翼
偽りの戦女神、降臨
「警告はしたわよ――なら、家畜以下の死を覚悟しなさい」
M2で駄目だった、というのは分かっている。
重機関銃に分類されるあの銃で抜けないなら、私の持ってきた銃火器じゃ全部駄目ね。
銃火器で駄目なら、今の魔力残量で使える手札はもうこれ位のモノだ。
フレイヤの持つ「矛」を起動させるべく、音声認識でショートカットを起動。
これ一発を撃つには膨大な魔力、チャージ時間が必要だ。
しばらく、時間を稼ぐ。
選択の余地は無い。なけなしの魔力残量をフレイヤの主兵装へと注ぎ込む。
必然、機体内に響く警報音。
エネルギー残量が残り僅かである事を通知する音声アナウンスだ。
起動と同時にコレか。カツカツの貧乏運用……まるで、この世界に来た時の私と同じね。
あの時も、フレイヤのエネルギー残量が空同然になってたっけ。
……いや、あの時とは違う。
今のフレイヤは、無用の長物と化してはいない。
リューテシア達が託してくれた魔力のお陰で、ギリギリとはいえ、動く事は出来る。
あの子達が、私に力を与えてくれた。
今の生活を守る為、居場所を守る為に。
信じて付いて来てくれた。だから私は、その信頼に答える!
「術式展開、ゲイルスラスター!」
もう敵の射程距離に入っている。
私の持つ最強の主兵装が起動するまで、敵の攻撃は全てかわす!
フレイヤの高機動力を支える術式に魔力を注ぐ。
フレイヤに取り付けられたスラスター部位から万因粒子の供給を受け突風が巻き起こり、フレイヤに僅かな浮遊感が与えられた。
――こと戦闘において、巨体というのは単純明快な強力さを誇る。
身体が大きければ攻撃の範囲も広がり、自重が重ければその分破壊力が出せる。
だが、このフレイヤは人の体格を大きく逸脱しない程度に小さくしてある。
理由は、簡単。
人の大きさの範疇に収まるという事は、人の規格で使う兵装をそっくりそのまま流用出来るという事だ。
これこそが最大にして最高の利点。
汎用性が高いという事は、状況を選ばぬという事。
ものぐさスイッチとフレイヤ、この二つが私の翼。
知識はあれど力無き私を補佐するべく生み出された外部端末。
この双翼が揃ってこそ、私の真の力は発揮される。
「PSG1、設置」
ものぐさスイッチから大口径狙撃銃を引きずり出して構える。
生身の私の華奢な身体では、銃の反動を殺せずに照準を定めるのが困難であった。
だが、フレイヤに乗った私にはもうそんな物は存在しない。
機体の重量で反動を殺し、銃火器のスペック、理想的な射程距離、空気抵抗……戦う為に必要なその全ての情報が頭の中に流れ込んでくる。
最速で最適を選択し、実行していく。
盾で後衛を守りつつ、盾の隙間から放たれる魔法の雨霰。
その一発一発が中級魔法にも匹敵するであろう、重い一撃。
あの数をまともに受けたら、流石に辛いわね。
左前方、2メートル級の火炎弾。2時の方向へ回避。
氷針が接近、側面スラスターを噴かせて回避。
正面、横薙ぎの風の刃。スラスターの出力を上げ跳躍。体勢を変え、前転しつつ飛び越える。
着地。足元に魔力反応感知、前方へフルブースト。直後、後方から大地の槍が天へと延びた。
ゲイルスラスターを小刻みに、繊細に操作し機体を左右へ振る。
右、次は左、即座に転進、その後一気に前進。
小刻みに姿勢制御、スラスターの出力に振り回されぬように自動制御だけでなく時折マニュアル操作も織り交ぜつつ攻撃の散弾を回避していく。
地面を滑らせ、舞うかの如く、フレイヤの機体を躍らせる。
炎弾を、氷槍を、風刃を、地牙を、雷剣を。
攻撃の密度は濃いが、当たらない。当たる気がしない。
今の私は、そんな程度の攻撃じゃ傷一つ与えられないわよ!
盾自体を銃火器で破壊する事は不可能。
だけど、進軍や攻撃の為に僅かに開いた隙間。
その無防備な隙に、容赦無く精密な射撃で銃弾を叩き込む!
「盾兵、陣形を崩すな! 魔法で飛んでるならそう長くは飛べないはずだ! 撃ち落とせ!」
「盾の間隔を開けるな! 距離を詰めて密着させろ!」
指揮官と思わしき物の怒声が、フレイヤの音声収集に引っ掛かる。
ええそうね。確かにそんなに「長時間」は飛べないわよ、スラスターの過熱でオーバーヒートしかねないからね。
狙撃銃を用い、盾の隙間を抉じ開けるように相手を誘い、機体を揺らし、開いた隙間を縫うように銃弾を叩き込む。
だが、盾は崩れない。
盾兵自体は盾の真後ろに隠れているのだから当然だ、盾兵自体を倒さねば盾の布陣は崩せない。
盾が邪魔で中々攻撃が入らない、なのにフレイヤの残存エネルギー量だけがじわじわと削られていく。
フレイヤ本来の装甲がダウンしたままなので、あの程度の魔法攻撃でも大きく回避運動を取らざるを得ない。それが原因で、余計な粒子消費を迫られる。
盾を突破出来ない事は承知で銃火器による攻撃で茶を濁すが、それも流石に限界だ。
フレイヤがシステムダウンしたら、もう私に打つ手は残されていない。
思わず舌打ちする。
減っていく残存エネルギー、チャージの終わらぬ兵装。
じわじわと削れていくエネルギーに加え警報音が相俟って焦燥感が募っていく。
まだか。まだか――!
エネルギー切れは=そのまま私の死へと繋がる。
さながらこのエネルギーゲージは私の命の灯そのものだ。
湧き上がる焦りを捻じ伏せ、冷静に戦況を観察し、的確に回避と牽制の射撃を撃ち込み続ける。
少しでも攻撃を加えれば、相手の攻撃の手が鈍る。
こんな銃火器じゃ決定打にならないのは分かってる。それでも、一分でも、一秒でも。
時間を稼ぐんだ……切り札がその手に舞い込むまで――!
視界の端、全天周囲モニターの視認性を邪魔せぬよう、薄い表示で浮かんでいるショートカット郡。
何もかもが魔力不足で空ッ欠の状況。
その中でただ一箇所、蓄積し続けていたゲージが――満ちる。
表示が、Stand byからReadyへと変わる。
背中に保持していた「切り札」を即座に右手で構え、照準を定める!
「その盾がどれだけ固いか知らないけど、これを止められると思うなよ!」
ものぐさスイッチ内に収納してある銃火器など、元々脇を固めるサブウェポンでしかないのだ。
私の本当の主兵装、見せてやるわよ!
回避にエネルギーを回してたせいで時間が掛かったが、チャージ完了!
狙い一点! 正面を中央突破!!
「兵装解除、術式展開! 超電磁加速砲! ぶち抜けェ!!」
超電磁加速砲の砲身が火を噴く!
電磁加速によって放たれる、物理兵装。
何の仕掛けも無い鉄塊に術式を刻み込み破壊力を向上、更にその砲弾を電磁力によって加速して射出。
音速など容易く突破したその砲弾、放たれた砲弾は空気抵抗など物ともせず、狙い一点真っ直ぐに伸びる。
その後ろを後追いするかのように衝撃波が走り、大地を切り裂き砕き巻き上げる!
この一撃の威力は高層ビル群を数棟纏めて倒壊させ、山すら抉り穿つ!
私の持つ、最大の破壊力の一つ。
魔法と科学が融合した産物、フレイヤ最強の矛!
そんなチャチな盾で止められる道理など、無い!
着弾、盾が割れるのではなく削れる。
その後ろにいた兵は死の足音すら聞く事無く絶命し、衝撃波が余波だけで兵の腕を、足を、刎ねる。
直後、着弾地点に土の柱が立ち昇る。
風に巻き上げられた木の葉のように、幾人もの兵が宙へ放り出されるのが見えた。
「兵装解除、抜剣! フラガラッハ!」
陣形が崩れた、今が好機!
超電磁加速砲を再び背部に戻し、腰部に備えたもう一つの切り札を抜き放ちながら、巻き上げられた土砂に構わず、最短距離をスラスターで突っ切る!
超電磁加速砲が間接攻撃の兵装であるならば、この万因粒子圧縮循環型光学剣、フラガラッハは近接戦闘用の兵装。
魔力により形成されているので刃渡りは可変式であり、1~2メートル範囲で変動する。
一応それ以上に伸ばす事は可能だが、長くすればする程エネルギー消費量が大きくなるので、基本スペック状で運用するのが基本となる。
――今は、余りにもエネルギー残量に乏しい為、刃渡りは20センチ程度と余りにも貧弱な有様である。
流石に破壊力は超電磁加速砲程ではないが、その一刀で鉄筋コンクリートの柱程度であらば容易く溶断する。
あれだけ厚い鉄盾だと流石にエネルギー残量の問題で切断に時間が掛かるので砲撃を使ったが、懐に潜り込めたならこちらの方が早い!
敵陣に潜り込み、眼前の敵兵を、寸分の狂い無く、舞うかの如く、容赦無く。
胴を、首を、両足を、腕を。溶断し、刎ね飛ばす!
私の為じゃない、私達の為に!
誰かに命じられた訳じゃない。私の意志で、私はこの力を振るう!
死を振り撒く悪しき力を、守る力に変えて!!
「じ、陣形を立て直せ! 敵の武器は短い! 槍兵! 一斉に突け!」
最前列は死傷率が高いので精鋭を配置し辛いが、盾の後ろにいた彼等は錬度の高い主力の兵なのだろう。
そうである事を物語るかのように、呼吸を合わせ四方から同時に突き出される槍。
正に槍衾。
その迫る鋭利な殺意はフレイヤを貫く――事は無かった。
脚部のブーストを吹かし、宙へと跳躍。空へと逃げる。
――遅い。
この数秒の攻勢で、数十人の命を奪えた。
仇成す敵を殺し、命を奪い。そして食らう!!
「喰らい尽くせ! 魂魄簒奪!!」
背部、翼状の術式端末が輝きを放つ!
命を喰らう悪しき術式が発動し、今まで私が殺した者の命を吸い上げ、一気にフレイヤへと流れ込む。
警報音は止み、エネルギー残量が急速に回復していく。
滞空している間に光学剣を一度納剣、粒子供給。
再び抜剣。
よし――! 粒子密度も刀身の長さも回復した。これでやっと戦う土俵に上がれた!
回避重視の立ち回りは変わらぬが、もう防戦一方では無い!
「剣技・崩龍!」
スラスターを駆使し空中で独楽の如く高速回転、回転力を乗せてフラガラッハを一閃! 槍兵達の身体を一刀で両断する!
力無く地面を転がった槍の柄を踏み付けへし折りつつ、着地する。
攻める手札は回復した!
「何をしている!? 攻撃を続行しろ!」
「し、しかし! 懐に潜り込まれたら破壊力の大きい魔法では味方に被害が出ます!」
強固な盾の前衛を食い破り、一気に陣形内部に切り込んだお陰で、乱戦に持ち込めた。
この状況では鈍重な盾など役には立たない! ならば態勢が立て直されるまで――切り刻む!
「剣技・爪竜」
竜の爪を思わせるような荒々しく、そして力強い斬撃。
「剣技・月閃」
三日月を彷彿させる黄金色の軌跡を残す斬撃。
矢継ぎ早に放つ剣技の数々が次々に敵兵の命を絶っていく。
「剣技・獣打」
盾兵に体当たりされそうになったので、斬る事より敵の体勢を崩す事に特化した剣を見舞う。
フラガラッハの熱を受け、構えていた盾が表面から三割程溶解する。
……流石鉄の塊、やっぱりレールガンで攻めた判断は間違いじゃなかったわね。
「紫電一閃! ライトニングブラスター!」
雷の魔力を充分に宿した魔法剣を放つ。
横薙ぎに振り抜いた、充分な魔力を込めた一閃は盾諸共相手を焼き切り、約百メートルという射程内にいた敵兵全ての命を刈り取っていった。
十を喰らいて百を撃ち、百を喰らいて千を斬り――
私の周囲にある魂、純粋な魔力の結晶を蒐集、魂魄簒奪術式を用いてエネルギーへと転換する。
魔力切れによってシステムダウンしていた兵装が、数多の兵を喰らい、魔力を得た事で次々に回復していく。
矛が息を吹き返したなら、次は盾だ。
「術式展開! イージスヴェール!」
機体の全身を、虹色の魔力が皮膜のように包み込む。
虹彩の輝きを戦場に振り撒く、フレイヤの姿。
これを見た戦場の兵士達は一体、何を思うのだろうか?
――万因粒子式炸裂装甲 イージスヴェール。
機体を覆うように万因粒子を展開し、被弾時に万因粒子を炸裂させる事で物理・魔法問わず機体へのダメージをシャットアウトする。
超電磁加速砲、光学剣がフレイヤの矛なら、このイージスヴェールこそがフレイヤの盾。
魔力の消費量を無視すれば、基本的に万因粒子が尽きぬ限り……この世界の基準で言うなら、中級魔法以下に対しては無敵と言える堅牢な防御力を誇る。
上級魔法となると無傷とは言えぬが、それでも大半のダメージを軽減出来る。
少なくとも、寄せ集めの兵如きに抜ける程ヤワな障壁ではない。
「このままでは貴様等全員死ぬぞ! 同士討ちを恐れている場合ではない! 今すぐあの女を仕留めろ!」
とうとう、こちらに向けて強力な魔法を放ち始める。
残念、その判断を下すには数分程遅かったわね。
同士討ちの危険性という動揺を乗せた魔法の威力など、イージスヴェールを破れる可能性など万に一つも無い。
回避するより、被弾しつつ突っ込んで攻撃を加えた方がエネルギー消耗的には割が良い。
そう考え攻撃を続行しようとした、その時であった。
フレイヤから新たな警報音が鳴り始める。
粒子残量切れの警報音とは違う……ロックオンアラート。
これは――魔力量推定、上級魔法と断定。
魔法部隊が複数人集まり、強大な術式を発動しようとしている。
一人に扱える魔法など、勇者や魔王クラスでなければ微々たるもの。
だが準備に準備を重ね、その力を連結させれば、大きな力となる。
あれは――イージスヴェールでも無傷とはいかないわね。
この一帯の兵士……およそ千人弱を丸ごと切り捨てる覚悟で来たか。
でもその判断も、遅いわね。
その判断を一番最初から出来たなら、私を倒す事が出来たかもしれないのに。
まだ完全には溜まってないが、魔法を妨害する為に解き放つ!
一度上空にゲイルスラスターで跳躍。座標認識、発動点はここから10時の方向、距離2キロメートル!
「剣旋の烈風、万象を切り刻め! 風牙招来! リミテッド・フィアフルストーム!!」
限定・恐慌烈風が発動。
発動地点となった、魔法部隊がいる地点から半径1キロ圏内が嵐に包まれる!
嵐の内部には無数の風の刃が飛び交っており、どうやら林の中に隠蔽するようにこの魔法兵達は伏せられていたようだが、木々を幹ごと両断する風の刃の前には兵達の身を守る盾になどならない。
風が吹き抜ける都度、兵達の指が落ち、腹が割かれ、肉が削がれていく。
凄まじい風速故に発生する轟音で何も聞こえないが、この嵐の中では阿鼻叫喚の地獄絵図が展開されているのは間違いない。
外周部ならともかく、発動地点にいた魔法部隊の生存は皆無。後はミキサーに入れられた肉塊同様、血風を吹き散らせながら挽肉になるまでなます切りにされるだけだ。
もっと威力を上げられた状態なら、苦しまずに死ねたんだろうけどね。
なまじイージスヴェールを抜ける威力を出そうとした事と、こんな馬鹿な命令を下した上司を恨みなさい。
着地。
再び攻撃を加えようと行動を開始した、その直後。
フレイヤがこちらに向けて高速接近する魔力反応を感知する。
人影を捉える――早い!
伸びる剣閃をフラガラッハで受け止め、フレイヤの機体重量を乗せて相手を薙ぎ飛ばして距離を取る。
そこにいたのは、およそ二十代程度と思わしき若い女性であった。
翡翠を思わせる深緑の髪を靡かせ、赤と緑のオッドアイでこちらを睨み付けている。
片手には魔力を帯びた剣を所持しており、あれで私のフラガラッハと打ち合ったのだろう。
この世界での剣は、所詮は何処まで行っても鉄の延長線上でしかない。
なのに溶断していない所を見ると、中々強力な魔法剣のようである。
「あら、どなたかしら?」
「――コーネリア・リューン。貴様を討つ者の名だ、覚えておけ」
「おお、コーネリア様!」
「精霊教会の最高戦力が来てくれた!」
動揺し混乱に満ちていた敵兵達が、そのコーネリアと呼ばれる女性を見付けた途端、安堵感に包まれ始める。
恐慌状態に陥って貰った方がこちらにとってありがたいのに、冷静さを取り戻してしまった。
ふーん、成る程ね。
どうやら相手方の切り札御登場って訳ね。
「――ミラよ。貴女に討たれてやる義理は無いわね」
粒子残量も回復出来た。
なら、こっちもそろそろ本気で行かせて貰うわよ!!
何か世界観間違ってるように見えますが正常です
ミラはここではない別の世界からやってきた
ミラがいた世界が現実世界だなんて一言も言ってないです
あえて言うなら宇宙戦艦とか巨大ロボットとかそういう世界




