13.原子結離炉
金剛石、即ちダイヤモンド。
宝石の中の宝石、数多の権力者が自らを着飾る為に捜し求め、競って身に付けた宝石の王とも言っても過言では無いだろう。
宝石というものは、大きな物を小さく加工は出来るが、小さな物を大きくする事は出来ない。
それ故に、巨大な宝石というのは天文学的な価格で取引される。
たかが石ころなれど、真に貴重な宝石であらば比喩でも何でもなく、命の一つや二つ容易に買える程の価値があるのだ。
このダイヤモンド、別に私が元々持っていた訳ではない。
そんな研究に不要な代物、私がいた研究施設には無かったからね。
……このダイヤモンドは、先程私が作ったのだ。
――原子結離炉。
私の世界から持ち出した、この世界の人々からすればオーバーテクノロジーも大概にしろという代物。
『神』の背中を見た人々が、その神の御業を自らの手で再現するべく研究され続けた結果生まれた、
元の世界の最先端技術の結晶、それがこれである。
大きさは上下左右それぞれ1メートル弱の六面体であり、蓋を開けると中に炊飯器のような窯状の空間がある。
この中に物質を入れ、計算式と完成形のデータを入力する事で動作する。
原子結離炉が行う事は単純明快。
中に入っている物質を原子レベルまで分解し、その後原子を結合させ、物質として再成形する。
ザックリ言ってしまえばそれだけの機能なのだ。
だが、出来る事にも限界はある。
まず第一に、これは『命』を生み出せない。
神を目指し、神の力を掌握するべく研究され続けた結果がこれだが、未だに生命の創造には至れていない。
タンパク質等を使い分解再生成、良く出来た肉塊を生み出す事は出来る。
だが、そこに魂が生まれる事は無かった。
魂が無いのであらば、それはただの死体にしか過ぎない。
無論、移植手術の臓器作成には使えるだろう。だがそれだけだ、そんな事の為だけにこれを使うのは余りにも効率が悪い。
そして第二に、これはあくまでも分解、再構築する為の道具だという事。
結果を出す為に、必ず材料が要求される。
無から有を生み出す、神のみに許された『創造』を行う事は出来ない。
水を作りたいなら水素や酸素が必要だし、水素や酸素から肉や魚といった何の脈絡もない物を生み出す事は出来ない。
だが、要は材料さえあれば生命以外のどんな物でも生み出せるのだ。
そしてその材料は、以前鉱山跡地に行った際にこっそり拝借させて貰った。
ズリ山の中に、大量の炭素があったからね。
ダイヤモンドも、所詮は突き詰めてみれば炭素の塊にしか過ぎない。
原子結離炉の効力で、炭素を分解して炭素に組み替えたのだ。
だが一度使った以上、もうこれは実質お払い箱だ。
理由は単純明快、動作させるのに馬鹿馬鹿しい位魔力を食うのよね。
今回の変換に関しては、私の世界で蓄えたエネルギーを使って成し遂げたけど、再充電する手段がこの世界に無い。
そこそこ魔力を持ってる人間の命を100人位食い潰せばもう一回使えるだろうけど、無理ね。
だから、現状一発限り。再充電の目処が立たない限り、これはもう二度と使えない。
さぁ、この世界で現金を手に入れる手段は用意した。
後はこれを実際に現物の金へと変えるだけだ。
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翌日、アレクサンドラと共にファーレンハイト行きの馬車へと乗り込む。
何でも、そんなとんでもない金剛石を持っていると知ったら余りにも心配で一人で行かせられないと、半ば強引にくっ付いてきてくれるようだ。
心配性だなぁこの勇者は、有り難くはあるんだけど。
馬車内にてファーレンハイトへの旅路は、馬車で片道2週間だと聞かされた。
って事は往復で1ヶ月かぁ、遠いなぁ。
まあどうせ私がファーレンハイトに行くのはこれが最初で最後になるだろうし、我慢するしかないか。
馬車に乗っていくしかないのか、我慢するしかないか。徒歩は無謀過ぎるし。
ミキサーに掛けられるのを覚悟した私だが、幸いにも杞憂に終わった。
ファーレンハイトへと向かう道は、仮にもこの世界における最大首都へと続く道なのだ。
そんな主要街道が整備されていない訳が無く、揺れこそするものの、かき混ぜられる事は無かった。
良かった、本当に良かった。
それにしても聖王都ファーレンハイトか、知識としては持ってるけど元々敵国だったせいで情報に乏しいのよね。
さて、どんな国なのか。期待して馬車に揺られるとしますか。




