128.嵐のソルスチル街
リサとの話し合いの結果、好き放題研究して良いのは私が監督しているタイミングのみ。
それ以外は責任者であるリューテシアの指示にしっかり従う事。
そうリサに厳命した上で話し合いはお開きとなった。
再び、時を越えていく。
私達の拠点は地下にあるので、拠点にいると外の天気が分からない。
「やっほーリューテシア。今日はもしかして雨かしら?」
駅に停留した蒸気機関車の客車から降りてきたリューテシアを見付け、私はそう訪ねる。
時期的に雪の可能性もあったが、蒸気機関車の屋根等に雪の溶け残りが見当たらないので、そう当たりを付けてみた。
「ん? 酷い雨よ、雨って言うより嵐ね。ソルスチル街で資材や食料の搬出入を終えて戻って来た所だけど、この調子だとここいら一体全部巻き込むような大規模な嵐かもしれないわ」
「……ソルスチル街の辺りも?」
「そうね。あそこは海に近いから、一番嵐の被害が大きくなりそうね」
……嵐か。
丁度良いかもしれないわね。
「うん。ちょっと、ソルスチル街に向かいましょうか」
「えっ? 今から?」
「だって、地下に引き篭もってたら嵐が過ぎちゃうじゃない。嵐が来るなら、防波堤の実力を目で確認しておきたいのよ」
私の主導で作った防波堤だが、実際に嵐の直撃を受けている所を確認してはいない。
問題がありそうなら、その箇所を修繕・改善する必要がある。
「でも、リュカ達は運転してきたから疲れてるわよ? 運転させるなら明日でも……」
「あら。運転士と運転助士ならここにいるじゃない」
「……何処によ」
私と、貴女。
そう指で指し示す。
「客車から降りてきたって事は、運転してないんでしょ? それじゃ、久し振りにリューテシアには石炭を投げ入れる作業をして貰おうかしら」
「えー……」
「文句言わない。防波堤はソルスチル街の人々の命を守る防壁でもあるのよ? 嵐が来る日は選べないんだし、私の目で確認出来るチャンスはこれが最後かもしれないじゃない」
このロンバルディア地方での私の足元が踏み固まったので、安心して未来へと飛べるようになった。
その為、客観的には私がロンバルディア地方に存在しているのはおよそ一週間~一ヶ月に一日のみ、というかなり稀な状況である。
未来へと飛んでいる最中に嵐が来たとしてもそれを私が確認する手段は無いし、何時嵐が来るか、なんてのはそれこそ御天道様次第である。
私が存在している時間軸に丁度嵐が到来している、というのはレアケースなのだ。
「どうせ普段はリュカ達に運転任せて運転してないんでしょ?」
私の指摘に対し、リューテシアは言葉を詰まらせる。
どうやら図星だったようだ。
「腕が鈍ってないか、私の目で確認してあげるわ。ほら、さっさと行くわよ」
「ちょ、ちょっと待って! この荷物はここで降ろさないといけないのよ!」
「そんなの、貨物車を切り離してリュカ達に明日辺りにやって貰えば良いじゃない。寝台車両だけ繋いでおけば良いのよ」
リューテシアを蒸気機関車へと追い立てる。
運転席へ私は腰掛け、とんぼ返りするかのようにソルスチル街へと向かうのであった。
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拠点の外は、完全な闇に包まれた夜であった。
殴り付けるような荒々しい風が枝や石ころを舞い上げ飛来し、蒸気機関車を叩く。
「うわー……帰ってくる頃より強くなってるわ……大丈夫かしら」
「んー、この調子だと線路上に障害物が転がってるのが容易に想像出来るわね」
「じゃ、帰りましょう?」
「何言ってんのよ。その為に蒸気機関車にブレードを付けて来てるんじゃない」
ブレード――別名、排雪板という代物である。
蒸気機関車の前方に取り付ける文字通り雪を排除する為のアタッチメントだ。
しかし、今回取り付けてあるのは線路に接触するスレスレまで位置を下げた物である。
下り坂に遭遇すると高低差の都合で線路に接触してしまう程の低さだが、ここからソルスチル街までは敷設時に水平になるよう心掛けて敷設したので平面のみであり高低差は存在していない。
なので、安心してブレードの位置を下げられたという訳だ。
排雪板という名前だが、今回はこれを使用して線路上に転がった小石や枝を弾き飛ばしてしまおうという魂胆である。
これを潜り抜ける程の小さな石や枝であらば、その程度を踏んだ所で脱線はしない。
脱線の危険性のある大きさの障害物だけを排除するのだ。
「そんな訳だから、もっと石炭追加して。向かい風だから思ったよりスピードが出ないわ」
「むー……! 私は肉体労働苦手なのに……」
ブツクサ言いつつも黙々と石炭を炉に投下するリューテシア。
そうは言っても、私とリューテシアであらばまだリューテシアの方が肉体労働向きである。
体格差というのはそれだけ大きい要因なのだ、私なんて未だに小学生レベルの身長を抜け出せていないのよ?
体格的にはリューテシアの方が体力あるんだから、キリキリ働いて頂戴な。
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貨物車を引いておらず、寝台車両のみを連結しただけの蒸気機関車の足取りは軽い。
しかしながら吹き付ける向かい風が速度を削り落とし、ソルスチル街への道を阻んでいる。
運転席には嵐の叩き付ける音と鉄の足音が響くのみで、炉から漏れる真っ赤な明かりが私とリューテシアを照らしていた。
リューテシアの機関助士としての腕前は大して衰えておらず、私が指摘する事も見当たらない。
そんな状況なので、私もリューテシアも特に喋る事もなく、黙々と蒸気機関車を稼動させていた。
「――本当に、変わっちゃったわね」
沈黙が包む車内で、リューテシアが切り出す。
「変わったって、何がよ?」
「昔を思い出したのよ。昔、ミラがそう言ってたじゃない。ミラがこれからする事は、間違いなくこの世界を変える。良くも悪くも……ってさ」
ああ、そう言えばそんな事も言ってたっけ。
「本当に、凄く変わったわ。あんな洞穴暮らししてた所から、都市って言える位の規模の街を作り上げて。ロンバルディアなんていう広大な土地の集落を線路で繋いで、最短四日で往復出来る距離にまで縮めて。凄く便利になったわよ、あの頃と比べて」
「そうね。線路敷設に関わったのは三分の一位だし、街はほぼルドルフさんの功績だけどね」
「私達も奴隷の身分から解放されたし、迫害されてた半人半魔の人々もソルスチル街に住んでる人達に受け入れられる位に馴染んできたみたいだし、ね」
「私からすれば、生まれや見た目で差別とか馬鹿馬鹿しいからね」
人も、魔族も、半人半魔だって。
同じ魂を持つ生き物で、単に器が違うというだけだ。
差別する理由が無い。
「それで? ミラが言ってた、程々に働いて、衣食住に困る事無く自由に暮らしたい……っていう願い。それは達成されてるの?」
「……ん、まぁまぁね」
「これでまぁまぁなのね……」
「ルークも、リュカも、ルナールも、リサも。勿論リューテシア、貴女も。大分知識と経験を積み重ねて、出来る事が増えてきたけれど。私からすれば出来る事より出来ない事の方がまだまだ多いのよね」
「そうは言ってもねぇ。これ以上とか具体的に何をすれば良いのよ?」
「簡単よ。魔法だけ、科学だけじゃなくて。魔法と科学、その両方を混ぜ合わせた考え方を出来るようになれば良いのよ。そういう意味では、私が見た感じだとリサが一番その考え方に近付いてると思うわよ?」
「あんな道に私達が進めって言うの!?」
えっ?
何でリューテシアは怒ってるのだろうか?
「……リサが妙に水素爆発に執心なのは分かるけど、そんなに怒る事かしら?」
「あの子が時と場所を選んでればね……!」
「それは、躾と性格の問題じゃないかしら?」
あんな子が内面に爆発物に対する興味を持っていたのは意外ではあったが。
「まぁ、リサの問題は置いておくとして。ああいう考え方ってのは重要よ? 魔法では出来ない問題を科学ならあっさり解決したり、その逆もまたしかり……その二つを混ぜて考えられるようになれば、世界はもっと、もっと豊かになっていくと思うの」
「世界を豊かにして、ミラに何の得があるの?」
「んー? 世界が豊かになれば、世界の生活水準が上がるじゃない。私がしたいのは気楽な平民生活であって、貴族の暮らしなんかじゃないのよ。貴族の暮らしなんて、余計なしがらみまみれで面倒臭いじゃない。平民の生活で気楽に過ごしたいなら、平民全体の生活水準を上げないといけないじゃない」
「そりゃそうだけど、それを成す為に一体何百年掛ける気なのよ?」
「少なくとも、私の体感ではそんなに掛からないのは確かね。充分現実的な範囲だと思ってるわよ?」
魔力問題が解消されたので、私は未来限定の時間跳躍が行えるようになった。
浸透していくまでの時間を私が未来へ跳ぶ事で加速させる。
実際の時間軸では百年単位の出来事でも、こうすれば私の体感時間を大きく縮められる。
「――はぁ。私、何時までこんな事してるんだろう?」
「嫌なら別にここにいる必要無いのよ? もう貴女は自由の身なんだから」
「んー……それも何だかねぇ。気付いたら、私の生まれ故郷で過ごした時間よりここで過ごした時間の方が長くなっちゃってたし。今更ここを離れるのもねぇ……」
「――おっと。そろそろかしら?」
リューテシアとダラダラ会話をしていたら、もうかなり近くにまで到達していたようだ。
蒸気機関車の照明を点灯させると、ソルスチル街の外壁が見えてきた。
少しずつ速度を落とし、ソルスチル街入り口まで接近する。
アポ無し来訪なので、蒸気機関車の汽笛を鳴らして合図を出す。
約十分程度待つと、蒸気機関車を受け入れるべく門が開け放たれた。
徐行運転でソルスチル街内部へと入る。
「知らない内に駅が進化してるわね」
「雨の日の運搬作業だって何度もあったからね」
駅へ到着すると、以前とは大きく変わった様子に素直に驚く。
高い天井が取り付けられ、全長は一キロにも及ぶかという程のドーム状へとソルスチル街の駅は進化を遂げていた。
フロアの広さも拡大されており、荷物の積み降ろしが容易に行えるようになっていた。
そして何よりも大きく変わっている点が一つあった。
「――線路が二本になってるわね」
「ああ、この路線ね。ネイブル村まで延びてるわよ。何でも、この蒸気機関車が走る本線とは別に、トロッコが走れる路線が欲しかったらしいわよ。蒸気機関車は毎日走ってる訳じゃないからね、事故防止の為に線路を一本増やして、ネイブル村とソルスチル街を繋いだそうよ。トロッコの速度でも、この二つの集落の間であらば一日あれば往復出来るからね、お陰でソルスチル街がファーレンハイトの恩恵に与る事が出来てるみたいよ」
「ま、どうせ何時かは必要になるしね。線路を増やしたのは良い判断だと思うわよ」
「って、そんな事より。防波堤の様子を見に来たんでしょ?」
「おっと、そうだったわね。リューテシア、ちょっとだけ蒸気機関車をバックさせるわよ」
駅が発展してたのは素直に喜ばしいが、こと防波堤の観察においては少々問題だ。
風雨から人や荷物を守る為に駅を覆ったのだろうが、そのせいで視界が悪くなってしまっている。
海と防波堤を見るには不都合だ、なので駅から出るべく少しだけ蒸気機関車を後退させる。
雨ざらしの中確認する気も無いので、防波堤の様子は寝台車両のガラス越しに確認する事にした。
「――案の定すっごい波ね……」
「ええ、そうね。でもこの様子なら大丈夫そうね」
ものぐさスイッチのカメラ機能を利用して、防波堤付近を拡大して確認する。
……うん。波が一部内湾部分まで飛び込んできているが、その勢いはほぼほぼ殺がれて無害な物となっているようだ。
「――んん?」
「何? どうかしたのミラ?」
ものぐさスイッチが魔力反応を感知したようだ。
この反応の仕方は――
「……ふぅーん、暇人なのね」
「……誰が?」
リューテシアが何の事なのか飲み込めず、首を傾げている。
「防波堤は嵐の海に晒されても、ちゃんと機能してるみたいね。これならソルスチル街は波の脅威から身を守る事が出来そうね。よし、懸念は解消された事だし、駅構内に蒸気機関車を泊めて今日はもう寝ましょうか」
あの様子であらば嵐の直撃を受けてもソルスチル街は無事に済むだろう。
そう確信出来た私は、リューテシアと共に寝台車両にて枕を高くして眠るのであった。
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翌朝。
久し振りにソルスチル街の街中を見物するべく、蒸気機関車から降車し街中へと降りる。
以前のまばらな建物平屋ばかりの状況は既に無く、二階建て、三階建てが当たり前の建造物が規則正しく道に沿って連なっていた。
嵐の後故に足元は若干ぬかるんでいたが、往来を行き交う人々や荷車が地面を踏み固めている為か、靴がめり込む程に酷い、という状態では無いようだ。
そして街を行き交う人々だが、以前は若い屈強な作業員が大半でその中に商人、魔法使い、傭兵が若干混じっている程度であった。
だが街としての機能が備わってきた為か、老人や子供といった街の機能に特に関わらない人物や、若い女性や半人半魔の人といった様々な人が増え、街並みだけでなく人口のバランスが大きく変化していた。
防波堤から少し離れた位置に船を浮かべ、漁をしているのが見える。
また、防波堤にて釣竿を垂らし、釣りに勤しんでいる者も見える。
海に面している街らしく、積極的に海洋資源を回収しているようだ。
丁度昼飯時らしく、街の至る所から魚の焼ける良い匂いが漂っていた。
食欲をそそる香ばしい匂いが鼻腔を突く。
「……よし、お昼ご飯にしましょうか。リューテシアもお腹空いたでしょ?」
「うん。なら、そこの店で食べましょう」
リューテシアの指し示した、大衆向けの食堂へと足を踏み入れる。
店内に入ると昼飯時の為か、テーブル席はほぼ満席の状態となっていた。
幸い、部屋の角に面した二人用のテーブルが丁度開いたようで、前の客の食器を手早く片付けたウェイターが私達を席へと案内する。
案内に従い、席へと腰掛ける。
壁に掛けられたメニューの一覧を一瞥し、オーダーを決める。
「私は、ホッケの塩焼きで良いわ」
「……果物が無い……」
「申し訳ありません、当店は果物の取り扱いは行って無いですね……」
リューテシアが不満気に口を尖らせたのを見たウェイターが、苦笑いを浮かべつつ頭を掻く。
「ファーレンハイト領まで伸びる路線が開通したのに、果物は届いてないの?」
「何分、青果は痛み易いですから。線路による運搬は確かに速いのですが、そこに至るまでの馬車の道中に耐えられないんですよ。ここは海に面した街なので、当店に限らず新鮮な魚料理が主体となっています、魚料理は如何ですか?」
「だってさリューテシア。果物が食べたいなら自分で育てたのを食べてなさい。注文は何にするの?」
「うーん、なら私はホタテのバター焼きで」
「かしこまりました。ホッケの塩焼きとホタテのバター焼きですね。オーダー入ります!」
注文を復唱し、ウェイターがキッチンの奥へと姿を消す。
「――所でさミラ。昨日、防波堤を見る為に外の様子を見てたじゃない? あの時、一体誰に対して暇人なんて言ったの?」
「ん? ああ、アレね。この世界で精霊っていう存在に言ったのよ」
「精霊!?」
驚愕の余り大声を上げるリューテシア。
そんな彼女の声に驚いたのか、一斉に店内の視線がリューテシアに集まる。
周囲の客にリューテシアがペコペコと頭を下げると、客達の視線が再び散開する。
「精霊って、ひょっとして人間達の間で精霊様って呼ばれてる、あの精霊?」
「ええそうよ。昨日の嵐の晩、荒れてる海なのか荒んでる風なのかは知らないけど、勢いを少しでも和らげようと頑張ってたみたいね」
「……ミラって、精霊が見える訳?」
「見えないし感じないわよ。でも存在を計測出来るってだけよ」
フレイヤと連動する事で、ものぐさスイッチは魔力反応を探知する事が出来る。
精霊とは魂そのもの、つまり高純度の魔力体である。なら魔力反応として強く現れる。
私はリューテシアにものぐさスイッチを示しながら説明する。
「精霊ってのは、要は肉体という器から解き放たれた人間の魂の事よ。幽霊と大差ないって訳ね」
「ミラって、精霊なんていう目に見えないモノまで知ってるのね」
「そりゃね。私がいた所では主だった研究の一つだったからね」
魂の研究がひいては、あの男が提示した理想に至る為の踏み台になる事は明白だったし。
それ故に、魂という存在に関しては相当踏み入った領域まで研究が積み重なっている。
「普通、死んだ魂は肉体という器を失った事で風化していくのを免れないんだけど、強固な自我に膨大な魔力を持った……それこそ英雄とか呼ばれるようなレベルの存在ね。そういう輩が己を保ったまま世界に存在し続ける事があるのよ。そういう連中は、肉体という枷から逃れた事でエルフの千年って寿命を鼻で笑う、それこそ一万年とか平然と生きるようになるわ。魂の寿命ってのは、肉体の寿命より遥かに長いのよ」
「……本当に、精霊って幽霊みたいなものなのね」
「ええ、そうよ。ただ幽霊なんかと違って、精霊はかなり自我がしっかりと保たれているのが特徴。だから、精霊は自らの意思で動くし、昨日の夜みたいに嵐を何とか和らげようと努力する事なんかもあるみたいね。ま、よっぽどの存在である人物でないと精霊にはならないんだけど、それでも天災を鎮めるなんて大それた事、到底出来るとは思わないけどね」
そんな精霊という存在に関しての余談を話していると、注文の品を持ったウェイターが私達の席へとやってきたので会話を中断する。
キツネ色に焼き上がった、食欲をそそるホッケが私の目の前に現れる。
また、リューテシアの頼んだホタテのバター焼きもバターの香りが充満し、胃袋にダイレクトアタックを仕掛けてくる。
添えられた箸を使い、ホッケの骨をはがし、弾力のある白いプリプリの身を口に運ぶ。
脂の良く乗った、噛む都度旨みが溢れる、上等なホッケであった。
こんなに美味しいのに料金は良心的。これは海岸沿いという条件だからこそね。
「ねえミラ、果物を長く保管する方法って無いの?」
ホタテを口に頬張りつつ、リューテシアが訪ねてくる。
「あるにはあるわよ。でも、原型を保ったまま長期間保存するのは不可能と考えて良いわ」
「つまり、形が変わって良いならあるって事?」
リューテシアの問いに是と答える。
「リューテシアは、どうして食べ物が腐るかって考えた事あるかしら?」
そう訪ねると、リューテシアは小首を傾げ、目を伏せつつ長い沈黙の後に答える。
「……何でなのかしら?」
「どうして腐るか、その原因が分かれば原因を排除出来る。原因を排除すれば、腐るという結果には到達しない。これも、科学の一種よ」
果物を腐らせずに保存するというのは、保存食に対する知識が必要だ。
……そうね、折角だし保存食の講義をするのも良いかもね。
どうせするなら、一気に知識を拡大しておきたい。
保存食に関する知識など、出し惜しみする理由が無いからね。
今後の方針が固まり、食事を終えた私達は代金を支払い食堂を後にする。
さて……こういう案件はこの街に詳しいであろうルークに頼むのが道理かしら?
そう考えた私はルークに頼み事をし、リューテシアと共に一度地下拠点へと戻るのであった。




