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124.――時を越えて

ひょえー!

なげぇー!

 ――時を越える。


 着々と、私達の周りの環境は向上し、足元が固まっていく。

 科学技術と無縁の、魔法技術一辺倒で発展したこの世界。

 鉱山跡地は最早ここが元々鉱山であった頃の面影はほぼ消失し、最早地下に埋没した集落と言っても過言では無い状態となった。

 この拠点を足掛かりに、オリジナ村、果てに海岸へと到着し。

 ソルスチル街の建立、ストルデン村へと連結し、ファーロン山脈を横切る仮設通路も開通した。

 勇者アレクサンドラの働きにより、ルシフル村へと通じる路線も開通し。

 個々が力を併せて日々を過ごすだけだった寒村、その村同士が鉄道網という強固な移動手段で結託。

 距離は離れていても、まるで隣家を訪ねるような気軽さで移動出来るようになった。


 ――――時を越える。


 幾星霜。

 私が世界へと垂らした知識という雫は、最早私がいなくとも世界へと染み込み根付いていく。

 こうして時を越え、未来へと進んでいる今も尚、だ。


 私の体感で数ヶ月程度経ったが、この世界では一体何年経過しただろうか?

 ここ最近、日頃の応対をリューテシアを通じて行っているのでイマイチ実感が沸かない。

 リューテシアはエルフという魔族の中でも長寿な部類の為か、この程度の時間経過では何も風貌に変化が現れない。

 今日もこうして、リューテシアと話ながら近況の報告を受けている。


「――そうそうミラ。何でもルークの話だと、この間遂にファーロン山脈を越える鉄道が開通したらしいわよ?」

「あら、そうなの? 最低十年単位は掛かるような作業だったはずだけど――そうか。もうそんなに経過してたのね」

「折角だし、その時間跳躍ってやつを一端中断して行ってみない?」

「……そうね。気分転換には丁度良いかもね」


 私が飛び越えた年月の間、どれだけこのロンバルディア地方が栄えたのか。

 そろそろ一度確認しておくのも悪くはない。



―――――――――――――――――――――――



 大広間に出ると、何やら見知らぬ人物が二人存在していた。

 こちらに気付いた二人が、親しげに私の元に駆け寄ってくる。

 というか誰だこの美男美女は。

 二人揃って整った顔立ちだし、相当な美形であるルークやリューテシアの隣に並べてもなんら見劣りしないレベルだ。

 男の方は体格がリュカを一回り小さくしたような感じであり、筋肉もしっかりと付いており、世の女が放っておかないであろう事は疑う余地が無い。

 女の方はリューテシアより少し背丈は小さいが、胸の方はリューテシアと同等……いやそれ以上かもしれない。

 純朴そうな笑顔を浮かべており、その笑顔を向けられたら容易く男共の守りは陥落するだろう。


 当然ながら、二人共私より圧倒的に背丈が高い。


「――あれ? ミラ姉ちゃんだ! うわー、すげー久し振りだなー!」

「おはようございます、ミラお姉ちゃん」


 随分と毛並みの良い尻尾を揺らしながら、元気そうに答える。

 ……んんー?

 もしかしてこの二人、ルナールとリサか?

 

「――はぁー……二人共しばらく見ない内にえらい育っちゃって……誰かと思ったわよ」


 半ば感心、半ば呆れ混じりの溜息を漏らす。


「二人共、技術的にも結構成長したわよ? ルナールの方はルークから剣を教わったみたいだし、リサの方ももう一端の魔法使い名乗れる位にはなったと思うわよ」

「へぇ……ならそろそろ、リサにも魔力充填作業やって貰おうかしら?」

「ううん、ルナールとリサの二人共行けると思うわよ?」

「ん? ルナールもなの?」

「ええ。ルナールはルークから剣だけじゃなくて魔法も教わってるみたいだしね。お陰でルーク同様、魔法剣士になっちゃってるわ。時々、ソルスチル街の警備やら近隣の魔物退治に出向いてるみたいよ」


 それはそれは。

 話を聞いてる感じだと随分とルナールはソルスチル街に馴染んでいるようだ。

 世界全体ではともかく、少なくともここロンバルディア地方では半人半魔に対する風当たりは大分軟化しているようだ。

 時が問題を解決してくれる、というやつだろうか。


「ミラお姉ちゃん! 私、遂にアレが出来るようになったんだよ!」


 もう我慢出来ない! とばかりに目を輝かせながらリサが私に要点を濁して報告してくる。

 そんなリサの様子を、ルナールとリューテシアが溜息交じりの遠い目で見ている。


「アレって、何よ」

「水素爆発!」


 可愛らしい表情から飛び出す、随分と物騒な単語。

 何の事かと思ったら、以前調子に乗ってアレクサンドラから大目玉を食らったアレか。


「リューテシアお姉ちゃんと相談しながら、ちょっとガラス瓶に手を加えて使い易くしたんだ! お陰で魔物退治にも使えるようになったんだよ!」

「あれは使えるって言いません!」


 キラキラと目を輝かせながら説明するリサを一喝するリューテシア。


「……なあリサ。あれ使うのもう止めないか? 俺、何時巻き込まれるか怖くてしょうがないんだけど」

「それはお兄ちゃんが爆発の範囲内に入っちゃうのが悪いんだよ! 離れてれば安全だってミラお姉ちゃんも説明してたでしょ!?」

「だったら離れられる爆発範囲にしてくれよ!?」


 兄妹喧嘩……という程激しくはないが口論を始めるルナールとリサ。

 話が進まないので、適当に切り上げてくれると助かるのだが。

 そう思っていると、私の考えを酌んでくれたのか。リューテシアが二人の仲裁に割って入る。


「はいはい二人共それ位にしておきなさい。ミラがこの間完成したファーロン山脈を横切る路線を視察したいみたいだから、蒸気機関車の準備お願いね」

「分かったぜ! リュカ兄ちゃんも呼んでくるよ!」


 ルナールは一目散に作業部屋へ向けて直進していく。

 どうやらリュカは作業部屋で作業中のようだ。


「――なら、ルナールとリサに中枢部への立ち入り許可設定を今の内にやっておこうかしら。蒸気機関車、準備に時間が掛かるでしょ?」

「そうだけど……ねえミラ。一緒に作業を見てて良いかしら?」

「ん、別に良いわよ」


 リューテシアを連れ、中枢部の術式を操作してセキュリティ内容を操作していく。

 とはいえ、大した事はしていない。

 ルナールとリサの魔力情報は既に登録してあるので、今回はその権限レベルを上げてやるだけだ。

 この中枢部への立ち入りを許可し、操作を終える。


「――ミラがしばらく時間を飛んでる間に一人で調べてたんだけど、この中枢部ってとんでもない魔法陣の塊だったのね」

「あら、今頃気付いたのかしら?」

「気付いたのはちょっと前よ。もしかしてこの中枢部……というか、この地下拠点。『時』の魔法とでも言うべき術で覆ってない?」

「ええ、そうよ。効力はかなり落としてあるけど、確かに『時』の術式を使ってるわ」


 崩落したら元も子も無いからね。

 薄い膜を張るかのようにこの地下拠点は保護してある。

 火山活動が見られるこの場所では、地震が発生し得る。当然の処置だ。


「そうか……じゃあやっぱりあの見慣れない術式がそうなのね」

「ただ、気付いてもまともに使えるとは思わない方が良いわよ? この拠点の術式も、本来の力から相当なデチューンを経てやっとこさ使えてるレベルだからね」

「まぁ……私個人で使えるようなモノじゃないのは分かってるけどさ」


 中枢部でリューテシアと雑談を交えつつ。

 時間跳躍で消耗したバッテリーを中枢部のバッテリーと交換して回復する。

 今後は、やり方を覚えて貰ってルナールやリサにも魔力供給をして貰おう。

 バッテリー交換が終わった辺りで、ルナールから蒸気機関車の発車準備が完了したとの報告を受ける。

 駅へと向かうと、そこにはルナールとリサに加え、リュカも出発準備を整え私達の到着を待っていたようだ。


「お疲れ様。久し振りねリュカ」

「そ、そうですね……ひ、久し振り、です」


 随分年月が経ったが、親しい仲でもリュカの吃音は相変わらずである。

 もう、リュカの吃音は一生付き合っていく症状のようだ。

 別に、日常生活に問題が無いのならどうでも良いのだが。


「じゃ、さっさと出発しましょうか。私が時間跳躍で未来に飛んでも、蒸気機関車の速度とソルスチル街までの距離は変わってない訳だしね」

「そうね。移動には時間が掛かるし、リュカ。お願いね」

「は、はい」


 リューテシアが指示を出すと、リュカ、ルナール、リサの三名が蒸気機関車へと搭乗する。


「――あら? リューテシアが乗るんじゃないの?」

「あれから何年経ってると思ってるのよ。もう運転に関してはリュカは一人前よ。ルークは……最近ソルスチル街方面の仕事が忙しいからあんまり蒸気機関車の運転に関われてないけど……代わりに、ルナールとリサの二人に今は教えてる最中よ。それも結構上達してきたけどね」


 ほう、そうなのか。

 私が最後に蒸気機関車に乗った辺りでもう既にリュカは運転技術が成熟してたし、不思議では無いか。


「それでリュカに教鞭を押し付けて自分は客車で高みの見物って事ね。リューテシアってば随分したたかになったわね」

「ミラ程じゃないわよ♪」


 満面の笑顔で私を突き刺してくるリューテシア。

 客車に搭乗したのをリュカが確認し、蒸気機関車を出発させる。

 アプト式の歯車がしっかりと路面を捉え、傾斜を物ともせずに前進する。

 黒煙を吐き散らかしながら、蒸気機関車はロンバルディアの大地を猛進していくのであった。


「――この辺の風景は何も変わらないわね」

「この辺りは私達以外は誰も住んでないし、そう変わらないわよ」


 車窓から変わらない風景を眺めて、蒸気機関車はオリジナ村へと向けて進む。


「……ここはオリジナ村ね。何か、ちょっと家屋増えてないかしら?」

「ソルスチル街と線路で繋がってるから、行こうと思えば簡単に行けるからね。オリジナ村だけじゃなくて、ストルデン村とルシフル村にも少し居住者が増えたみたいよ?」


 鉄道網によって距離が縮まった結果、辺境の村に住むというデメリットが薄れたのだろう。

 その影響か、オリジナ村の規模が以前と比べて少し大きくなっている。

 何か、ルドルフの家があった場所にちょっとした豪邸が立ってるが気にしない事にした。


 オリジナ村を通過した後、ここからは長い長い直線が続く。

 ここを走り抜ければ、ソルスチル街へと到着する。


「――ん? こんな場所に駅なんて無かったわよね?」

「レイウッド駅ね。それと奥にあるのがレイウッド村よ」


 私が引き篭もっている間に、新たな村落と駅が新造されていたようだ。

 どういう場所なのか、リューテシアが補足してくれた。


「この辺りって、線路を敷設する時は掠める程度に切り抜けたけど。南の方に森林が広がってたじゃない? ここで木々を伐採すれば材木資源をファーレンハイトから運ぶ必要が無くなるからって、新しく村を作っちゃったのよ。ある程度纏まった丸太が集まった時点で、ここで伐採した木材を蒸気機関車で各集落に配分してるのよ」


 ああ、ここはあの森林地帯なのか。

 確かに理に適っている。

 薪を作るなり、家屋を建てるなり、木材はあればあっただけ使い道があるからね。

 そして、木材は運搬も大変だ。

 馬車を使ってファーレンハイトからロンバルディアに運び込むのも手間が掛かる。

 ロンバルディア内で完結出来るなら、その方が良いだろう。


 木こりが多くても十人弱程度住んでいるだけであろう、小さな村落を抜けて蒸気機関車はひた走る。

 日が傾く頃、遠目に見え始める巨大な外壁。

 近付くにつれ、その全貌が顕になる。


「――ねえ。あそこがソルスチル街よね?」

「そうよ」

「私が前来た時より二倍位の規模に膨れ上がってる気がするんだけど」


 二倍程度、は過小評価した上での表現だ。

 下手すれば三倍位にまで膨れ上がっている。

 ソルスチル街は、私が引き篭もっている間に大都市と言っても過言ではない規模に成長していた。


「人が入り切らなくなっちゃったから、大きくなるしか無かったのよ。土地には困ってなかったしね、ファーロン山脈切り崩しの合間合間で少しずつ拡張してたら、こんなになっちゃったのよ」

「もう完全に、ソルスチル街は都市になっちゃったわね。ロンバルディア地方というより、世界中の都市と比較しても十本の指に入るんじゃないの?」

「そうだね、入るかもしれないわね。暮らしてる人は、半人半魔の人も結構多いのよ?」

「そうなの? わだかまりは結構解消してきたのかしら?」

「リュカやルナール、リサが先陣を切って頑張ってくれたからね」


 そうなのか。

 私がいない間も、各々頑張って活動していたのだなぁ。


 蒸気機関車が、ソルスチル街へと突入する。

 中の町並みも、大分変わっていた。

 海側を見れば、以前は建造途中だった防波堤が完全に完成していた。

 というか、防波堤だけでは飽き足らず、灯台らしき代物も建設されていた。

 街側を見れば、こちらは以前は平屋ばかりだった街が、今は二階建て、三階建ての建物が中心になっている。

 外観だけのハリボテではなく、中までしっかりと詰まった完全な都市の風貌だ。


「――おっと。何かしら?」


 リューテシアの予定では、このソルスチル街も通過する予定だったようだが。

 本来の予定に無い停車時間が発生する。

 その原因となった人物が、駅からこの客車へと乗り込んできた。


「――本来予定に無い蒸気機関車の運行、もしかしたらと思いましたが。どうやら予想は当たってたみたいですね」


 ブロンドの髪をオールバックに撫で付けており、多少目元に皺が増え、口元には以前には生やしていなかった髭を蓄えていた。

 だが、風貌が多少変化していても、目鼻立ちの整った美男子である事はなんら変わっていなかった。


「あらルークじゃない」

「こんばんわリューテシアさん。それと、お久し振りですミラさん」


 柔和な表情で再開の挨拶をルークと交わす。

 以前の若い頃の甘いマスクは失われたようだが、これは劣化ではなく成長だろう。

 むしろ年を取った結果、イケメンからダンディへと変化したように思える。


「久し振りねルーク。随分と年を取ったみたいね」

「そういうミラさんは、昔となんら変わらない見た目ですね」

「当たり前でしょ。未来に飛んで来てるんだから、私の体感だとまだ数ヶ月しか経ってないわよ」


 会話をそこそこに、ルークが客車へ搭乗した後、再び蒸気機関車は運行を再開する。


「この間、ファーロン山脈を横切る鉄道が開通したって報告してくれたでしょ? 折角だからミラに見て貰おうかなって思ったのよ」

「そういう事ですか」


 事のあらましをリューテシアからルークに伝えつつ、蒸気機関車は走行を続ける。

 そろそろ、夕日が海に沈む。

 そんなタイミングで、次の集落が見えてくる。


「――って事は、ここはストルデン村かしら?」

「そうですね、ここはストルデン村です」

「前と比べて、巨大な畑が出来てるのが大きな違いかしら?」

「この辺りだとファーレンハイト北部と気候が大して変わりませんからね。ソルスチル街の住人が増えてきたので、食料も生産しようという事になったのですよ」


 ルークからの説明を受けつつ、ストルデン村を通過する。

 右側の視界が完全に山肌へと変わる。

 私が引き篭もる前は工事中だったので、私がここに立ち入るのはこれが初めてである。

 左側の車窓から広がるのは、一面何処を見ても海、海、海である。

 もう完全に日が落ちてしまったので、暗い水面が広がるばかりだが。


「所で、この線路は何処まで続いてるのかしら?」

「この先のネイブル村までですね」

「また新しい集落が出来てるのね」

「ファーレンハイト領内に無許可で線路敷設をすると、流石に王都に睨まれてしまうのは避けられませんからね。ですから、この線路の終端となる土地一帯をルドルフさんが買い上げたのですよ。私達から見れば垂涎の土地ですが、ファーレンハイト側から見れば辺境であるロンバルディア地方に最も近い、辺境中の辺境ですからね。ルドルフさんも端金で買い叩けたと喜んでいましたよ」

「私有地の中なら、線路敷設しても文句は言われないって理屈でファーレンハイト領内まで線路を引き込んだらしいわよ」


 ルドルフ、結構無茶苦茶やってるわね。

 儲かってるのかしら?


「――っと。ミラ、そろそろネイブル村に着くわよ」


 少しずつ、蒸気機関車の速度が落ちていく。

 ソルスチル街にて停車した以外は、全ての駅をスルーしてきた。

 停車せず、早朝から駆け抜けた弾丸旅行もここが終点である。

 程なくして、蒸気機関車は建設された駅にて完全にその足を止めた。


「到着ね。ここが現状、蒸気機関車の終点の一つ。ネイブル村よ」


 駅に降り立ち、リューテシアから説明を受ける。

 この鉄道網の終点は三つある。

 一つがこのネイブル村、もう一つがグレイシアル村。

 グレイシアル村というのは初耳なのでリューテシアに聞いた所、以前アレクサンドラが伸ばしてきたルシフル村へと通じる線路を更に延長していった先にある村だとの事。

 位置的には、ルシフル村から更にファーロン山脈伝いに西へ進んだ先にあるらしい。

 ファーレンハイトより、レオパルド領の方が距離的に近い場所だとの事だ。

 この数年でめっちゃ伸びてるわね。

 一応、険しい山脈の事を考えなければファーレンハイト、ロンバルディア、レオパルドは地続きだと言えなくは無い。

 そこまで西に伸びていると、何時かレオパルド領内まで線路が延びそうだ。

 人には踏破不可能の場所だが、蒸気機関車ならあるいは。

 ……山を突っ切らないといけないから何百年先になるかは分からないけど。

 それに、どう足掻いてもラーディシオン領と繋がる事は無さそうだが。

 尚、三つ目の終点だが。これは言うまでも無く私達の地下拠点である。


 ネイブル村の地へ降り立つ。

 ルドルフが買い取ったという土地の中に、密集するかのように家屋が立ち並んでいる。

 とはいえ、住居となっている家屋は全体の三分の一程度のようだ。

 のこりの家屋は、全てが巨大な倉庫となっている。

 このネイブル村は、ファーレンハイトとロンバルディアを繋ぐ中継地点のような村なのだろう。

 それを考えれば、この建物の構成比は納得と言える。


「以上。これが、ミラが地下拠点で未来に飛びながら引き篭もってた間の成果よ」

「……何というか。ルドルフさん、はっちゃけ過ぎじゃないかしら?」


 ソルスチル街を興したのも、その街に住む作業員の日当を払ったのも。

 ファーロン山脈を切り崩すという大事業に投資したのも、このネイブル村の土地を買い取ったのも。

 ぜーんぶルドルフの財から出ているのは間違い無い。


「それは、僕も同意ですね……この鉄道が開通した以上、もうこれ以上の出費は無いとは思いますが……ここまでの投資分を取り戻す勝算がルドルフさんにあるのでしょうか?」

「商人の考えてる事を私達が考えても、答えなんて出ないと思うわよ?」


 ……多分、ルドルフはかなり遠い未来を見越しているのかもしれない。

 このファーロン山脈を切り崩し、ソルスチル街からネイブル村までを繋ぐ路線を敷設した功績。

 それは全て混じり気の無い純度100%、ルドルフの功績だ。

 それを考えれば、未来にはあるいは……


「それで、こうして終点のネイブル村まで到着したんだけど。これからどうするの?」

「……そうね。もう一つの終点っていうグレイシアル村って所まで行ってみたいけど、今日はもう無理ね。今日は一日、寝台車両で休んで行きましょうか」


 久し振りに地上に出て、蒸気機関車による旅を楽しむ私。

 その旅の初日の行程は、こうして終わりを迎えるのであった。

もうちょっと旅は続くよ

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