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114.衝撃吸収と和食

タキオンドラゴンちゃん、クリスマスイブにリア充性活送ってた全員に殲滅のタキオンスパイラル!!!

 翌朝、耳障りな甲高い警笛音が地下拠点に響き渡る。

 誰だ、我が眠りを妨げる者は。


「起きろ」


 私を安らかな眠りへと導く安寧の衣が剥ぎ取られる。

 誰だ、我が眠りを妨げる者は。


「掛け布団、設置(セット)


 ものぐさスイッチの音声認識を利用し、再び私の上に布団を出現させる。

 むう、布団が冷たいがこのままじっとしていればその内体温で温かくなるだろう。


「起きろって言ってんでしょうが!!」

「はーなーせー」


 今度は布団を引っ剥がされた挙句、羽交い絞めにされて寝床から引き摺り出された。

 誰だ、我が眠りを妨げる者は。


「さっさと動きなさいよ。日の昇ってる間ずっと寝太郎生活なんて不健康生活、友達として絶対に許さないからね」

「……分かったわよ、働けば良いんでしょ働けば」


 リューテシアに対し行き場の無い憤りをぶつけながら、時間跳躍機能を使い、私は一週間後まで飛ぶ。

 さて、飛んだこの時間軸ならルナールとリサの体力もある程度回復しているはずだ。


「リュカ。それじゃあルナールとリサには石鹸の作り方を教えてあげて」

「えっと……水酸化ナトリウムの作り方も教えた方が良いですか?」

「ゆくゆくはね。でも今回は単純に石鹸の作り方だけを教えてあげて。それと、分量間違いや手作業での作成が慣れるまで、そこの作業機械を使っての作成は禁止ね、あれは慣れた上で使う物だからね」


 石鹸の作り方は材料さえ揃っていれば難しくはないが、単純でもない。

 水酸化ナトリウムという劇物を使っている以上、配合量を間違える訳にはいかない。

 ましてや、コレは主にルドルフを通じて第三者へと大量に販売している物だ。

 ミスがあっては信用問題に関わる。

 それに加えて水酸化ナトリウムの製作方法まで教えたら小さな子供では頭がパンクしてしまうだろう。

 ゆっくり、一つずつ覚えていけば良い。

 時間ならたっぷりあるのだから。


「なあなあ、リュカ兄ちゃん。石鹸ってあの風呂場にあったヤツだろ? アレ作るのか?」

「う、うん。ちょっと待ってて、材料を用意するから……」


 倉庫から石鹸の材料となる油や水酸化ナトリウムといった品々を引っ張り出し、ルナールとリサの二人に対し説明を始めるリュカ。

 説明役は慣れていないのか、時々挙動不審になるが説明の内容自体には不備は無い。

 これならリュカに任せても問題無さそうだ。

 そう判断した私は、三人の横でちょっとした改良作業を行うのであった。



―――――――――――――――――――――――



「……ねえミラ。馬車なんか分解して一体何をしてるの?」

「ちょっと馬車を改良してるのよ」


 私を探して作業部屋を訪ねてきたリューテシアにそう説明する。

 この馬車は、以前ルドルフに頼んで買い付けて貰ったこの世界の一般的な馬車である。

 尚、後ろではリュカ主導の下、ルナールとリサが石鹸の攪拌作業中である。


「この世界の馬車って、サスペンションが付いてないのよね」

「さすぺんしょん?」


 サスペンションとは衝撃を車両に直接伝えずに吸収緩和する緩衝装置の事を指す。

 ゴムタイヤなんかもゴムの弾力性を利用して衝撃を緩和するサスペンションと言える。

 もっとも、この世界にはゴムタイヤは無いようだが。

 今回取り付けるのは、弾力性のある鉄を螺旋状に形成した鉄……つまり、バネである。

 これを車輪と馬車の搭乗部分の間に設置し、後は組み直して完了。

 やってる事はこれだけだし、一からの製作ではなくただの改良にしか過ぎない。

 だが、たったこれだけの事をしていないが故にこの世界で馬車移動した際には酷い目にあった。

 あんなシェイカーに入れられて混ぜられるような走行は二度と御免だ。


「これを付けるだけで、馬車の揺れが大分マシになるはずよ。馬車に乗るなら、サスペンションが付いてなきゃもう私は乗りたくないわね」

「……ふーん……こんなの付けたら余計揺れそうな気がするけど」

「論より証拠……って言いたいけど。私達が馬車に乗る用事が思い付かないわね」


 どうしても手に入らない代物は、オリジナ村のルドルフが仕入れてきてくれる。

 塩やにがり、海産物といった海の代物はソルスチル街まで行けば手に入る。

 食料を除く、竹や鉱石の類は元鉱山であるこの地下拠点である程度までは入手出来る。

 木材も、ソルスチル街まで至る際の大陸横断線路の道中で林間を切り抜けた場所があるので、そこで必要なだけ伐採すれば良い。

 馬車を使って遠出するような用事が現状ほぼ存在しないのだ。


「あと、地味に追加点があります。車軸と車輪を微調整して、車輪を交換する事で線路の規格と合うようになりました」

「……馬車がトロッコにもなるって事?」

「ええ、そうよ」


 役立つかは知らない。

 何の意味も無いかもしれないが、こうしておけば便利になりこそすれ不便にはならないだろう。


「よし、これで完成。これで馬車を使う用事がもし出来ても安心ね」


 一から作るのではなくただの改良なので、作業は一日で終了した。

 ルナールとリサの様子を見てみると、分量計測にて躓いている模様。

 分量間違えると水酸化ナトリウムが溶け残ってしまうので、ここは妥協は許されないポイントだなぁ。

 こればっかりはなあなあで済ませられないので、二人には頑張って貰わないとね。

 働かざる者食うべからず。ここに来て暮らす以上、ちゃんと働いて貰うわよ。



―――――――――――――――――――――――



「遂に――! 遂にこの時が来た!!」


 地下拠点での夕食時。

 今、私の目の前には私が待ち望み続けていた食事の数々がある。


 魚の煮出しが効いた出し入り味噌。

 具は以前海岸にて入手したわかめ、抽出したにがりに農場で量産した大豆を利用して製造した豆腐!

 これらを組み合わせて作った、お味噌汁!

 寄生虫対策として一度冷凍した後解凍、薄く切り揃えたマグロの刺身!

 ストルデン村付近にて採取した生ワサビの摺り下ろしを添え、年単位で熟成させ搾り出した濃褐色の醤油!


「これぞ、THE☆和食! だけど――」


 悔しい。

 非常に悔しい!

 過去を鑑みても、ファーレンハイト、ロンバルディア、レオパルド、ラーディシオン……

 この全領地の植生全てを含めても、私が望んでいるある植物、それが自生している箇所はレオパルドのごく一部にしか存在していない。

 そして現状、レオパルドの地は魔族に占有されているという。

 人間が立ち入れる訳が無く、人間の間に流通している訳も無い。


「――どうして米が無いのよ!!」


 稲、ライス、銀シャリ。

 そう、ご飯が無いのだ!

 味噌汁に刺身という完璧なおかずを用意しても、ご飯が無ければ和食としては片手落ちというレベルではない!


「レオパルドの湿地帯にあるのは分かってるのよ……! ねえリューテシア! ちょっとレオパルドまで行って種籾を採取してきて頂戴!! 魔族の貴女なら出来るはずよ!? 和食完成の為には必須なのよ!!」

「なんでミラのわがままの為だけにそんな世界の反対側まで行かないといけないのよ! それにクレイスさんにここで待ってるって言ったのに一人で遠出する訳に行かないのよ!」

「お願い! レオパルド領にいっても怪しまれないのは魔族である貴女だけなの! 貴女だけが頼りなの! 私を捨てないで!」

「引っ付かないでよ! 普段やる気無い癖して何が貴女をそこまで駆り立てるのよ!?」


 米は大事だ! 日本人のソウルフードだ!

 懇願し、腐った女上等の態度でリューテシアに引っ付く。


 しかし力でリューテシアには勝てない。

 健闘虚しく、引っ剥がされて私の戦いは敗戦を迎えるのであった。

真のデュエルキングとは孤高の存在なのだ!

女など邪魔だ!

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