107.箱庭農場と発酵食品、調味料を添えて
今後の線路敷設に関する作業を指示する監督役として、ルークを再びソルスチル街へと残し私達は地下拠点へと戻ってきた。
ルークには引き続き魔石製作を頼んでおいたので、今度ソルスチル街へ向かった時に完成した分を引き取るとしよう。
「ねえ、ミラ。魔石の設置ってこうで良いのよね?」
「ええ、それで合ってるわ」
「み、ミラさん。壁はこんな感じで良いんですよね?」
「ええ、これで大丈夫よ」
私達は今、実験農場を更に進化させ、完璧な箱庭農場とするべく農場に手を加えていた。
畑をブロック毎に区画分けし、外壁を竹と三和土を併せた強固な断熱壁で覆う。
各ブロックには以前貯水槽を作った際に同時に配置した配水管が網の目のように張り巡らされており、バルブを捻る事で各ブロック毎に簡単に水遣りを行う事が出来るようになった。
天井部分にはガラスで蓋がしてあり、室内の空気が外に漏れ出ないようになっている。
天井部分がガラスな理由は、既にこの農場の上部に設置されているプロメテウスノヴァによる光源を遮らないようにする為の配慮である。
そして室内には私達が黙々と作り続けた魔石を設置し、この室内の温度を調整出来るようにする。
魔石は中枢部で一括管理出来るように術式を構築し連結、温度操作を行えるようにした。
魔石が用意出来た分だけ、ブロックを作り配置していく。
畑を半分程覆った辺りで、手持ちの魔石が尽きてしまった。
ソルスチル街に今年最後の物資搬送を行うついでに、ルークから出来た魔石を受け取る。
ルークから作業の進捗状況を聞いた所、やはり山を切り開くのはそう容易い作業では無いようだ。
酷い時は作業員総出で掛かって一日1メートル進めば良い方だ、という難所もあるという。
分かってはいたが、やはり作業の進みは遅い。
それと、ストルデン村まで到着した時点で線路敷設ルートとは別に、人が通れる程度の小さな通路を先んじて切り開いているという。
ファーロン山脈を越えれば、その隣はファーレンハイト領だ。
急な物要りになった時、オリジナ村経由で蒸気機関車で運んで貰うより、こっちのルートを使って運んだ方が早いとの事だ。
蒸気機関車は、最短でも二週間に一度しか走らせていないし、確かに急な物資が必要になった時は新しく切り開いた道の方が早いだろう。
それに、最初にこの道を切り開いておけば今後蒸気機関車が走る為に必要な本道を切り開く際の足掛かりにもなる。悪くない。
そんな報告をルークから受け取り、私達は本格的な冬到来の前にルークをソルスチル街から引き上げさせ、拠点へと戻っていく。
何でも、山の切り崩し作業は時間が掛かるので、まだ線路敷設に着工する程の距離が出来ていないそうだ。
その結果、ルークが暇を持て余し気味だったようなので、再び私達の農場開拓に手を貸して貰う事にした。
やがて冬が訪れ、蒸気機関車の便も減る。
外では雪の山が出来ているのだろうが、私達には関係無い。
快適な気温に満ちたこの地下農場で、部屋を作り、魔石を配置し、中枢部でリンクさせる。
淡々と、黙々と。作業を続けていく。
そしてその時は訪れる。
「――よし、これで完成ね」
本来の予定より、二ヶ月程遅れて私達は貯水槽、配水管による水周り改善。
及び、実験農場の本格的な箱庭農場化。
この全ての作業が完了したのであった。
「……やっと、終わったのですね」
「それじゃ、後で全員に報酬を払うけど……折角農場が出来た訳だし、何か作ってみたい作物とかある?」
「ぶどう!」
リューテシアが挙手し、自らの欲望をぶっちゃける。
ぶどう、ね。
「別に良いわよ。この施設が出来たなら、甘いぶどうを作れる環境も制御管理出来るしね」
「よし!」
グッとガッツポーズを決めるリューテシア。
そこまで甘いのが好きなのか。
まあ、この世界だと甘い食べ物は中々に希少なようだが。
「リュカやルークは何か育ててみたい物とかあるかしら?」
「ぼ、僕は別に、無い……です」
「……何でも、育てられるのですか?」
「勿論よ。どんな自然環境も再現出来るようになったからね」
「……なら、ワサビという物を栽培出来ますか?」
……えっ?
ちょっと待って?
「……ねえ、ルーク。ワサビ、あるの?」
そんな物、ファーレンハイトの市場で見掛けなかったけど。
「僕も初耳なのですが、何でもストルデン村の近くを流れている清流にて取れる植物らしいです。ストルデン村とその近くでしか出回っていないようで、余り数も取れないとの事です。魚との相性が良いそうで、ソルスチル街の作業員にも好評だとの事です。ですので、それが育てられれば――」
「育てるよ」
ワサビ、あるんだ。
へぇー、そうなんだ。
あ、もう駄目だ。頭の中が完全に食べ物で埋まっちゃった。もう他の事が考えられない。
「えっ?」
「ワサビ、栽培決定ー。リュカー、私と一緒に作業を手伝ってくれる? ルークとリューテシアは、ちょっと石鹸作ってくれるかしら? しばらく石鹸作るのをサボり続けたせいで、在庫が心許ないからね」
ルークとリューテシアに指示を出し、私はリュカの手を引いて作業場へと真っ直ぐに突き進む。
ワザビ、あるんだ。
なら、もう決定。温度管理も魔石で出来るようになったし、もうやっちゃえ。
――醤油、作るわよ。
―――――――――――――――――――――――
作業場に引き篭もり、リュカを巻き込んで必要な機材を製作する。
機材は出来た、麹、ある。麦、ある。大豆、ある。
温度管理、問題なし。
醤油を作れる環境がある、なら同時に味噌を作れる環境でもあるという事だ。
同時に作ってしまおう。この二つは、完成するまでに非常に時間が掛かる。
豆を煮る。指で潰し柔らかさを確認、問題なし。
麹を混ぜ込み、熟成を待つ。
しばらく寝かせ、手入れを施す事二回。
進展具合は順調、納豆菌の繁殖も見られない。
温度管理が完璧である証拠である。
撹拌し、空気を入れて更に発酵を進める。
ふふふ、出来てる。順調に発酵が進んでる……ッ!
「……ねえ、ミラ。貴女、一体何をしてるの……!?」
口と鼻を押さえながら、食べ物への冒涜だとでも言いたそうな、心底不快だとでも言いた気な視線を突き刺してくるリューテシア。
「私がずっと待ち望んでた食べ物を作ってるのよ……!」
「食べ物って、こんな腐り切ってるのが食べられる訳無いじゃない!」
「これは腐敗じゃない! 発酵よ! 一緒にしないで!」
化学的には同じ事だけど!
単に人間にとって良い物が発酵で悪い物が腐敗と呼んでるだけだけど!
「味噌、醤油、納豆……ふふふふふ」
「……何でもいいけど、私はそんなの食べないからね!」
そう捨て台詞を残し、リューテシアは私が新たに陣取った発酵食品製造部屋から足早に立ち去る。
ふふ、待ってなさい。
今、私が作ってあげるからね……!
―――――――――――――――――――――――
時間跳躍を交えつつ作業を行い、味噌や醤油といった発酵食品の仕込みは完了した。
だが、この二つは納豆と違って一ヶ月二ヶ月如きでは到底完成しない。
これらが完成するのは、年単位を見る必要がある。
うぐぐぐぐ。欲求に任せて大量に仕込んだけど、口に出来ないなんて!
これが本当の口惜しい!
「……あの、ミラさん。そろそろ雪解けの季節ですが、一体何をしていたのですか?」
「えっ、もうそんな季節?」
醤油&味噌作りに没頭し過ぎて季節の感覚が頭からすっこ抜けていた。
時間跳躍したのもあるけど、時の流れとは早いものだ。早くしてるんだけどさ。
「……線路敷設、どの位進んでるかな?」
「というより、山岳地帯を切り開くとなると平原に敷設するより注意が必要となりますから、そろそろ敷設の為の指導をしに行かないと」
「それもそうね」
確かにルークの言う通りである。
雪掻き車を稼動させ、私達は再びオリジナ村、ソルスチル街を経由し、ストルデン村へと向かうのであった。
ブラウザバック推奨、意味が分からない人にはとことん分からない
107って選ばれしモノの数字だよね
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