106.時間ぴょんぴょん
魔石を作って、一週間後へ。
また作って、一週間後へ飛ぶ。
魔石製作はリューテシアとルークも行っているようだが、それでもその製作速度は鈍い。
まだまだ不慣れだから仕方ない面もあるが、一週間で二人が作った合計量より一日で作った私の方が合計量を上回ってしまう。
こればかりは、作業を重ねて二人の腕前が上達するのを待つ他無いだろう。
私が時間を飛ぶ都度、どんどん季節は流れ。
このロンバルディアに少しずつ冬の足音が近付いてくる。
「――これで、如何でしょうか?」
「……んー」
私体感で24日、三人にとっては24週。即ち半年後。
大幅に変化した地下拠点の水周りを私は舐めるように確認していた。
駅から始まり、大浴場、作業場、炊事場に農場。
水を必要とする場所を全て視認していく。
時折配管を木槌で軽く叩いて緩みがないか確認し、念入りに問題箇所を洗い出していく。
尚、水蒸気を配送する配管の接続が終わった蒸気機関は、一時的にその炉から火を落として稼動を停止させてある。
稼動を再開させるのは、この配管に問題が無い事を確認出来たらである。
その為、この地下拠点の蒸気機関は今現在、全てが停止している。
しばらく停止させていても問題無い石鹸製作の蒸気機関に至ってはかなりの長期間停止しており、お陰で石鹸在庫が徐々に心許なくなりつつあった。
そろそろ、稼動を再開させないと余裕が無くなる。
「――――よし。これなら、大丈夫そうね。蒸気機関、再度稼動してもオーケーよ」
「……元々無いのが当然だったはずなんだけど、いざ蒸気機関を停止させてみると不便さが際立つわよね」
「そうですね。もう、僕達の生活にとっては蒸気機関は切っても切れない関係になってしまいましたね」
「な、慣れって怖いですよね……」
今まで停止させていた蒸気機関に再び火を投じ、再度稼動を再開させる。
これで、水周りの作業に関しては完全に終了となった。
「さて、まぁ予想していなかった訳じゃないけど。流石に半年じゃ終わらなかったわね」
「……面目ありません」
「気にしなくて良いわ。最短半年とは言ったけど、それで終わるなんて前提で私は考えて無かったし。遅れたからって私が困る訳じゃないわ。ただ、ここからは遅くなる都度少しずつ報酬は減らしていくからね」
「それは、仕方ありませんね」
水周りは終わったが、農場の改善作業がまだ終わっていないのが半年を経ての現状であった。
何より、魔石の数が足りない。
配水管の配置が終わったので、水遣り作業は非常に楽になったのだが、気温の管理システムが出来ていない。
「だから今現在出来てる魔石に関してはもう設置していくけど……今後も魔石製造は続行していく必要があるわ」
「そうですね……ですが、流石にもう僕は時間切れですね」
「あっ。そ、そういえばルークくん、半年経ったらま、またソルスチル街に戻るんだよね?」
「……ま、仕方ないか。ルーク、悪いんだけど向こうでも貴方は引き続き魔石製作をして貰っても良いかしら?」
「ええ、大丈夫です。魔石製作でしたら、宝石さえ手元にあれば何時でも作業できますしね」
「なら、またルークを送り届けますか」
「お願いします。それに、どれ位線路が延びたかも気になりますからね」
拠点の改修作業、その八割程度の作業を終えた私達はルドルフの資材搬送のついでにルークを再びソルスチル街へと向かわせる。
線路、どれ位出来てるかな?
―――――――――――――――――――――――
度々ルドルフによる積荷の搬送の為に訪れてはいたソルスチル街。
積荷を降ろしつつ今回は一夜をここで明かし、早朝を迎えたら点検車両を押しつつ現状の線路の終端まで走る事にした。
その際、ついでなので貨物車に線路を大量に積載し、作業員達も相乗りしていく事にする。
「じゃ、今回はリューテシアが点検車両に乗ってね」
「分かったわ」
「……んじゃ、そろそろリュカにも運転頑張って貰わないとね」
「う、うう……」
何時も運転席を任せていたリューテシアに代わり、今回からリュカにもこの運転席に座って貰う事にする。
リューテシアが何度も読み返していた運転マニュアルはリューテシアからリュカの手へと委ねられた。
線路点検の為、今回もゆっくりと線路を走る。
そんなに速度を出さないので大事故にも繋がり難い。
私も後ろに付いてるし、初めての運転練習にはうってつけの状況だ。
「ぼ、僕なんかに出来るのかな……?」
「私やリューテシアの運転してる姿を見続けてきたでしょ? そのマニュアルも見ながら、頭と身体で覚えていけば良いのよ。焦る必要は無いから、ゆっくりね」
「が、頑張ってみます……」
ビクビクしながらも、マニュアルとにらめっこしつつ少しずつ蒸気機関車を動かし始めるリュカ。
慎重にマニュアルを見ながら行動している為、その運転動作は非常に遅いが、ミス自体は少なかった。
ミスの回数だけなら、初めて運転したリューテシアよりも少ない。
ただ、慎重すぎて動作が遅いので、ブレーキや警笛のような素早くやらねば事故に繋がるような箇所は不安が残る。
ここは、今後の課題だろう。
ノロノロと、緩慢な速度でゆっくりと線路を走っていく。
以前までは終わっていた3キロ地点を越え、何も無い海岸沿いの平原を走り続ける。
振動も、傾斜も無い。蒸気機関車にとって理想的な路線状況が続く。
二時間程走った所、線路が伸びている先にポツポツと家屋の姿が散見される。
集落のようだ。その規模は、オリジナ村と比べてほぼ同じかそれより少し小さい程度か。
恐らくあれが、以前から度々挙げられていたストルデン村なのだろう。
成る程、確かにファーロン山脈目前に位置している。
線路はこのストルデン村まで延び切っており、これからはストルデン村までは蒸気機関車で往来する事が可能になったようだ。
「――よし、これで到着ね。リュカ、お疲れ様」
労いの言葉と共にリュカの肩を叩くが、返事は無い。
心労による疲労困憊で言葉を発する余裕も無いようだ。
「帰りは私達で運転するから、リュカはもう客車でゆっくり休んでて良いわよ」
その言葉を受けたリュカは、私に一礼すると作業員達と入れ替わりで客車へと戻っていく。
「……うわっ。何か座席が凄い濡れてる」
リュカ、そんなに緊張してたのね。
後でタオルで拭いておかないと。
リュカ、本当にお疲れ様。
ストルデン村に到着したので、運転席からルークと共に降りると、作業員数名に囲まれる。
「どうだいルークの兄ちゃん! 線路に問題は無いか?」
「そうですね……リューテシアさん、問題はありませんでしたか?」
「うん。術式に反応も無かったし、これなら問題無いよ」
点検車両から降りてきたリューテシアは、私達に異常無しと報告する。
リューテシアの姿を目の当たりにした作業員達に、一瞬動揺が走る。
「な、なぁルークの兄ちゃん……あそこにいる美人さんって……もしかして、エルフっていう魔族なんじゃないのかい?」
「ええ、そうですよ」
「ええそうですよって! 大丈夫なのか!? あの魔族だぞ!?」
「大丈夫ですよ。リューテシアさんは僕達と同じ、同じ釜の飯を食べる大切な仲間です。それに、リューテシアさんで問題ならリュカくんの方がよっぽど問題ですしね」
ルークが作業員達に向けて弁護する。
ルークの兄ちゃんがそういうなら、と作業員達は納得して静まり返った。
どうやら、作業員達の間とルークは強固な信頼関係を築けているようである。
こりゃ、今後を円滑に進めるならルークを全面に押し出した方が楽そうね。
「で、だ。ルークの兄ちゃん、半年前の約束は忘れてねえよな?」
「……勿論です。参りましたね、まさかここまで本当に半年で完成させてしまうとは……」
ルークは頭を掻きながら、複雑そうな表情を浮かべつつ続ける。
「分かりました! 今日の作業を終えたら約束通り、また作業従事者全員に食事を奢りましょう!」
「酒は!?」
「勿論です!」
「よっしゃああああぁぁぁ!! おい野郎共! ルークの兄ちゃんがまた晩飯を奢ってくれるそうだ! お前等気合入れていけよ!!」
大気が振動する程の歓喜の雄叫びが一帯に木霊する。
私達の周りに集まっていた作業員達は既に作業を開始していた人々と合流し、積荷の線路を降ろす作業を開始する。
「……ここまでは順調に来たみたいだけど、本番はここからよね」
今後、線路敷設にあたり一番苦しい作業が待ち構えている事を、身に染みて痛感しているリューテシアがそう口にする。
「そうね。ここから、ファーロン山脈の側面を削っていかないといけないからね。少なくない箇所に橋も掛けないといけないでしょうし」
「……もう一度確認するけど、もう私は関わらなくて良いのよね?」
「勿論よ。リューテシアにはリューテシアじゃなきゃ出来ない事をやって貰うからね」
ホッと胸を撫で下ろすリューテシア。
この世界の作業員でも出来る事だ、そんな作業に貴重なリューテシアの手を割くのは無駄である。
「とりあえず、今日一日はストルデン村に滞在って事になるわね」
「ミラさん、これからいよいよ山を削り出すのですが、気を付けなければならない事とかはありますか?」
線路の運び出しが終わり、いよいよ山を切り出しに掛かる段階でルークが確認を取る。
「そうね。山を削るって事は側面から土砂崩れなんかが発生し易くなるから、事故には十二分に気を付ける事と……それと、これは出来たらで良いんだけど、削り出した土砂は魔法を使える作業員達にお願いして、強固なブロック状に加工して貰えるようお願い出来るかしら?」
「? それは構いませんが……土砂を何かに使うのですか?」
「ええ、勿論よ」
山を切り出すなら、莫大な量の土砂が出てくる。
それを、ただ捨てるなんて勿体無いじゃない。
どうせ捨てるなら、有効な捨て方をしないとね。
今後の作業内容をルークに伝え、その内容をルークを通じて作業員達に指示として送る。
「今日はもう、特に私はする事は無いのよね?」
「ええ、そうね。何なら、客車で魔石作ってても良いけど?」
「……いや、もう疲れたから寝るよ」
「そう。なら、私も寝ようかしらね」
現場の仕切りは、ルークに任せておけば問題無いだろう。
リューテシアと共に、客車に移動し夕方まで仮眠を取る事にしよう。
―――――――――――――――――――――――
ストルデン村での作業を終え、日没間際にて作業を切り上げた作業員達を乗せ、私達はストルデン村を後にする。
その後、約束通り作業員に夕食を奢る事になったルークは、ソルスチル街中央の広場に移動する。
そこには複数店舗共同で並べたと思われる席や食事、酒が用意されており、ルークの話によると以前も同様にここで食事を取ったとか。
作業員達が席に着いた所で、ルークが音頭を取り、大宴会が開始されるその直前。
「あ、ルーク。ちょっと待って」
「? 何ですかミラさん?」
ルークを制止し、私は懐から魔石を二つ取り出す。
片方の魔石は自らの口元に寄せ、もう片方の魔石はここにいる作業員達全員に突き付けるように腕を伸ばす。
『あー、あー……マイクテス、マイクテス……本日は晴天なれど波高し……』
……良し。
問題無く動作してるわね。流石私。
「はい、ルーク。あると便利だろうし、これは貴方に預けておくわ」
「な、何ですかコレは……?」
「魔石による擬似マイクと擬似スピーカー……ま、簡単に言うなら拡声器ね。通常より遥かに大きい音量で、自分の声を発信する事が出来る術式よ。これ使った方が楽でしょ?」
使い方は、魔石に向かって声を発するだけ。
スピーカー側の魔石に魔力を強く流せば、それだけ更に音量を上げられる、単純な仕組みだ。
使い方を説明し、ルークに手渡す。
『――それでは皆さん、お待たせしました。ストルデン村までの線路敷設、本当にお疲れ様でした! 乾杯!』
『『乾杯!!』』
ルークの声を皮切りに、一斉に食事の場が騒がしくなる。
……静かに食べるのも良いけど、こういう風に騒がしく活気のある場所で食べるのも良いわね。
「……ねえ、ミラ。ルークに渡したあの魔石、一体どんな仕組みになってる訳?」
「んー? 大広間にある外との連絡手段として用意した魔石と同じ仕組みよ? 気になるなら、帰ったら見てみれば?」
以前、外部との連絡手段として大広間に設置したインターホン。
アレと同じ物を複製したので、今後を考えてルークに渡そうと考えていたのだ。
「――さて。折角の機会だし、私達もここで何か食べて帰りましょうか。皆、好きなの頼んで良いわよ? 貴方達が食べた分は私が払ってあげるわ」
「ほ、本当ですか!?」
「助かります」
「……うーん……ここ、果物が全然置いてない……」
メニューを眺めながら、真っ先に甘い物を注文しようとしたが品揃えの薄さ故に断念したリューテシア。
仕方ない。リューテシアには拠点に戻ったらパイナポーをあげるとしようか。




