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101.動き出す世界

 リューテシアの借金の返済が終わり、冬篭り期間を越え。

 時間を飛び越えつつ、私達は五年目の春を迎えようとしていた。

 雪解けはまだ先だが、積雪は無くなりつつあった。これなら、もう一度雪掻き車を出動させれば今年はもう稼動させずに済みそうだ。


「じゃ、今日もソルスチル街まで出発ね。リューテシア、今日もう一回走らせたら雪掻き車はいらなくなると思うから、次からは教えられる側から教える立場になって貰うわよ」

「う……そうだよね……」

「だ、大丈夫ですよ! りゅ、リューテシアさん、もう立派に運転出来てるじゃないですか!」


 不安が拭えず、尻込みしているリューテシアを励ますリュカ。

 今まで投炭作業をしながら横でリューテシアの仕事っぷりを見続けたリュカが言うのだ、説得力はある。


「大丈夫、だよね……?」

「励ましてる所に水を差すみたいで悪いけど、次に頑張るのはリュカよ?」

「う……」


 言葉に詰まるリュカ。

 横でリューテシアの操作を一番長く見ていたのはリュカである。

 私の立っている場所にリューテシアが、リューテシアが立っていた場所にリュカが、リュカが立っていた場所にルークが。

 それぞれ立ち位置を移動し、蒸気機関車の運転技術を高めていく。


「次からは、私は客車で寝てるから」

「…………」

「……何よ、言いたい事があるならハッキリ言えば?」


 何サボってんだコイツは、とでも言いた気な非難めいた視線を突き刺してくるリューテシア。


「……この、ぐーたらアザラシ」

「褒め言葉として受け取っておくわ」


 さて、それじゃあ雪掻き車の稼動はルークに任せて。

 オリジナ村にてルドルフを拾って、ソルスチル街へと向かおう。



―――――――――――――――――――――――



 冬篭り期間を雪掻き車によって前倒しして訪れたソルスチル街は、以前見た光景から更に発展を遂げていた。

 先ず一番大きな変化点は、陸橋が完成していた。

 街の中央部を横断する見事な陸橋は、真っ直ぐに壁から壁へ向けて走り抜け、その両端には既に出入り口となる頑強な扉が取り付けられていた。

 木材と金属の複合素材で扉は出来ており、これならばそんじょそこらの魔物如きには破れないだろう。

 距離が遠いので歩くのが辛くて私の目では確認していないが、ルドルフの話によると既に街の外まで作業は進んでおり、何でもファーロン山脈付近に位置しているストルデン村なる場所と簡易的な街道で既に接続済みだとの事。

 そのストルデン村を足掛かりに、そろそろファーロン山脈を削り出す予定だとの事。

 街道部分は、起伏に乏しい平野部だったが故に割りと早く作業は終わったようだが、本番はこれからである。

 現状の進展具合を聞きながら、今後の私達の作業方針も固めていく。


「――なら、そろそろ私達も動き出すべきですね。線路は、もう充分な量が用意出来てますよね?」

「ああ、俺自身もこんなに使うのか? と疑問符が浮かぶ程にはな」

「大丈夫ですよ、あればあるだけ使いますから」


 蒸気機関車が石炭食い虫なら、線路は鉄食い虫だ。

 線路は、要は鉄のインゴットと言っても過言ではない。

 線路一本あれば、一体何十本の剣を打つ事が出来るだろうか。


「好い加減、線路を敷設しないと移動が不便だと思いませんか?」

「……俺達は普段馬車で移動してるからな、そんなに不便には感じちゃいないが……確かにこの蒸気機関車の移動速度に慣れちまうと不便に感じるな」


 陸橋も出来ているし、好い加減線路を走らせるとしよう。


「なら……そろそろルークをこの街に置きたいんですが、住む場所はありますか?」

「ああ、それならこの街で一番良い場所を用意させよう」

「ありがとうございます」


 ルークの主導で、この街に線路を敷設して貰う。

 今までの作業内容を見るに、地属性魔法を使える者が作業員の中に複数いるようなのでバラストなんかの問題も何とかなるだろう。

 今後の予定を決め、ルドルフにその後を任せて私は一度蒸気機関車の場所まで戻る。

 客車の中で待機していたルークを見付け、今後の作業内容を伝える。


「ソルスチル街の中も安定してきたみたいだから、ルークには私に代わってこの街中、それと街の郊外にまで延びる街道、その全てに線路を敷設して貰いたいの。出来るかしら?」

「ええ、任せて下さい。ご期待に答えてみせますよ」

「お願いね。線路が延びてくれればこの蒸気機関車もそのままソルスチル街内部まで乗り入れられるし、この先にあるとかいうストルデン村って場所まで走らせられるわ。そうすれば、ファーロン山脈を削って進む作業に蒸気機関車の力を貸せるしね」

「そうですね。となると、ミラさんとの再会は最短で二週間後という事でしょうか?」

「そうなるわね。蒸気機関車が走るのは二週間毎だからね」


 私はものぐさスイッチから水平器を複数個取り出し、ルークに手渡す。


「水平器を複数作っておいたから、作業員に配布しておいて。線路敷設に必要だろうからね。それとここで飲み食いする時は、領収書を切って貰ってね。その領収書を私に出してくれれば、余程の無駄遣いじゃない限り同額を後で私が支払うから」


 ここでのルークの生活費は、必要経費だ。

 証明する物があるならば、私が負担するべきだ。


「分かりました。程々にするつもりですが、足が出た時は僕の手持ちで払うつもりです」

「じゃ、ルークとは一時的にお別れね……っと、そうだ。ルークにこれを渡しておくわね」


 ルークに、前々から少しずつ仕込んでおいた道具を手渡す。


「……これは、鉄の箱……ですか?」


 大きさにして、5センチ四方の正方形の金属製の箱状をしたそれは、緊急用として作った魔石を組み込んだ代物である。

 箱には術式の導通ラインが引いてあり、ここに魔力を流すと中の魔石が発動するようになっている。

 中には魔石が二つ仕込んであり、一つには膨大な魔力を詰め込んだ、言うなればバッテリーとなる魔石が埋め込まれている。

 以前、私の拠点を襲撃した暴漢から奪った魂のエネルギーをかなりの量注ぎ込み、霧散を防ぐ為に更にその上から「時」の力によって固定化をしてある。

 このバッテリー部分に大分魔力を食われたお陰で、またしても私の魔力事情は心許ない状況になってしまった。

 もう一つの魔石には、転移魔法を仕込んである。

 この金属製の箱は魔力によって作動する仕組みなので、この箱に魔力を流せば中で「時」の力で封印している魔力が流れ、転移術式が発動する、という仕組みだ。

 奴隷契約書によって使用していた物と術式は同一の物だが、本来この転移魔法、「時」の力を使用しているだけありその発動には膨大な魔力を要求される。

 奴隷契約書に追記して使用していた際には、その要求される膨大な魔力を謎の手段で契約書が調達していたようで、私への魔力的負担は皆無であった。

 が、本来の使い方に戻った事で発動には途方も無い魔力を用意する必要性が出来てしまった。

 あの奴隷契約書に刻まれていた術式の正体が分かれば……だが、私の知識を持ってしてもあの術式の正体がまるで見当が付かない。


「その箱に魔力を流せば中の術式が発動するわ。発動させると、設定した座標――これだと、私達の拠点の大広間に飛ぶようになってるわ。ただ、それを作るのも発動させるのも多大な労力が掛かってるから、『コレは本当にヤバい!』って思った緊急事態以外では使わないようにしてね」

「……分かりました。本当の緊急時だと判断した時以外は、使わないようにします。保険、と考えておけば良いのですね?」

「ええ、そうよ」


 この魔力を流す、というのはリュカには出来ないのだが、別にリュカが使えない訳では無い。

 魔力を流す代わりに、少量の血を付着させても起動するので、リュカでも使用しようと思えば使用できるのだ。

 体内を流れる血中にも魔力が若干存在しているので、血液を垂らす事で擬似的に魔力を流したのと同じ状態となる。


「じゃ、ルークに線路敷設を任せるわ」


 ……今まで何年も三人と暮らしてきたから、いざ別れると何だか寂しいわね。

 二週間後にまた会えるのだけれど、四人が三人に減るのはとても大きな減少に思えた。



―――――――――――――――――――――――



 ソルスチル街から私達の拠点へと戻り、一息付く。

 元々私達四人からすれば拠点の規模はかなり広かったのだが、ルークが一時的に拠点からいなくなった事で殊更広く感じた。


「――あっ。な、なんか大広間の角に線が引いてある」


 大広間の角に目印として引いた線の存在に気付き、リュカが声を上げる。


「そう、そこがルークに渡した転移術式の転移部分よ。そこに寄らないでね、私の時間転移と同じ状態になるから」

「……間違っても近付かないように、あの周囲に荷物でも置いておいた方が良さそうね」


 誤って入らぬよう、リューテシアが対処法を提案する。

 私は間違っても入らないから、その方法に関しては二人に一任するとしよう。


「さて、ルークがいなくなっちゃったから作業効率が落ちちゃうけど、次は……」

「――ねえ、ミラ。少し私だけの時間を貰って良い?」


 次の作業内容を切り出そうとした所、リューテシアが横から割って入る。


「……別に良いけど、どうかしたの?」

「ん、ちょっと前に私に付いてた首輪を見て少し閃いた事があったから、それを試してみたいの」

「時間が欲しいって言ったけど、どれ位欲しいの? あんまり長いようだと少し考えるけど」

「んー……一週間もあれば」


 一週間か、まぁそれ位なら何も問題無いだろう。


「別に良いわよ」

「ありがと。じゃあちょっとの間自由時間を貰うわね」


 そう言うと、リューテシアは一人自室に篭ってしまう。


「……んー、リュカ一人だとそんなにする事が思い付かないなぁ……仕方ない、悪いんだけどリュカは一人で石鹸を作っててくれるかしら? 一人でも出来るわよね?」

「は、はい。大丈夫です」


 仕方ないので、リューテシアが戻る一週間後まではリュカには石鹸を作って貰う事にする。

 え、私は何をするのかって?


「フレイヤ、機能限定開放。時間跳躍機能起動、指定、一週間後。タイムワープ開始」


 馬鹿正直に一週間待ってやる必要も無いので、一週間後に時間跳躍するのであった。

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