10.鉱山跡地
「見えてきたな、あそこが鉱山跡地の入り口だ」
アレクサンドラが指差す先を申し訳程度に見て、その位置を確認する。
だが山道の途中にて私は、そんな場所より目の前に凄く気になる物を見付けてしまったのだ。
――あの雪山、何?
地形的に、明らかに不自然に盛り上がったその山。
アレクサンドラが指差した先の丁度真下辺りにその山はあった。
そこは崖に面した平地であり、その不自然に盛り上がった山が崖とくっ付いている。
何故不自然かと言うと、大きさの規模が中途半端なのだ。
落石で出来たと見るには量が多過ぎる、だが崖崩れで出来たと見るには量が少ない。
そもそも崖崩れといっても、この山の周囲には崩れるような山肌が見当たらない。
私は、その雪山に向かって駆け出していた。
「おい! 何処へ行くんだ! そっちには何も無いぞ?」
雪山の側へ近付き、手でその雪を払う。
……やっぱりね。
鉱山の入り口の真下にあるからそうなんじゃないかと思ったけど、ビンゴ。
これ、ズリ山だ。
「どうしたんだ急に駆け出して?」
私を心配してくれてるのか、アレクサンドラが近くへと駆け寄る。
「これ、ズリ山です」
「ズリ山?」
「鉱山なんかで掘り出したは良いが使い道の無いクズ石を積み上げた、捨石集積場です」
「ああ、そういう事か……そういう事なら、ここに君の亡き父上の探している石がある可能性があるのか」
そういえばそんな設定だったわね。
ある程度周囲のズリ山に被った雪を払い除け、積もりに積もった私の顔程もある岩塊のいくつかを手に取ってみる。
……ん?
「えっ、ちょっ、えっ!?」
思わず素っ頓狂な声が出てしまった。
えっ? 何でこれが残ってるの?
いや、確かに鉄でもないし金銀宝石類でも無いけどさ。
ちょっとー。
何でこんな物がズリ山に放置されてんのよー。
これ、めっちゃ有用なブツじゃない。
……ああ、でもこの世界じゃ魔法で代用効くか。
でも、勿体無いなぁ。
それにこっちは……んー、えっとこれって……
次に手にした、やや光沢のある白色の岩石。
これを地面に置き、適当な石を手にして角を軽く砕く。
砕いた石を更に細かく砕き、粉末状にする。
「すみませんアレクサンドラさん、水って持ってないですか?」
「水か? どの位必要だ? そこらに池でも作ろうか?」
「そんなにいらないです! 掌にすくう位の量で良いです!」
そうか、と一言呟き、アレクサンドラは私の掌に少量の水を魔法で注いでくれた。
掌の水に、先程砕いた粉末状の岩石を入れる。
――うん、溶けた。
見た目も特徴も完全に同じだ。
「えー……?」
思わず間の抜けた声を上げてしまう。
うわー、何て勿体無い。
確かに値打ち的には子供でも買えるような、大した代物じゃないけどさ。
コレを使うって発想、この世界には無いの?
ちょっと、いくら何でもこの世界の住人、科学知識に乏し過ぎるんじゃないの?
何でこんな超重要物質の原材料がズリ山に放棄されてんのよ、馬鹿じゃないの?
これ程の大きさ・純度の塊が転がっている辺り、実は取りこぼしてました、てへっ。って線は間違いなく無いだろうし。
この世界の人々は、コレの使い方を知らないのか。
「どういう理由で唸ってるのかは解らないが、そろそろ先に進んでも良いか?」
「そうですね、ここには父の探している石は無いみたいですし」
わーすごーい、ここ超お宝の山じゃない。
このズリ山、絶対無視出来ないわ。
金を作る目処が、立ったわね。
「何。ここには無くとも、もしかしたら廃坑の奥にでも行けば転がっているかもしれないぞ? 鉱山というのは、地中深くまで掘る物らしいからな」
「そうですね。もしかしたらあるかもしれませんよね」
んなもん無いけどね!
そういう設定だからちゃんと演じないとね!
この鉱山跡地、宝の山じゃない。
良いなー、欲しいなー、この山全部丸ごと。
ここ、私の根城に最適なんじゃないかしら?




