1.彷徨う命
「――私は、自由になりたかった」
「自由気ままに、ただ一人の人間として、気楽に世界で生きたい。今でもその気持ちは変わらない」
「実に下らない夢だと思う。だけど、私からすればそれこそ、魔法以上の夢物語だった」
「だから、私を縛り付けるこの地を去ろうと思うの。そろそろ、潮時だと思うから」
「だからサヨナラは言わないよ。……またね、――――」
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仄暗い雲天の空の下、闇夜の帳が降りようとしている。
容赦無く空から舞い散る雪の中、歩き続ける一人の影。
切り揃える事も無く無造作に腰まで伸びた黒髪、吸い込まれるような深さの黒い瞳。
服装は薄手の布切れ1枚のみであり、外套所か靴すら身に着けておらず裸足のまま。とても雪原を歩く装備とは思えない。
当然のように、寒気に晒された肌は血色を失い白く染まっている。
その人物は小さく白い吐息を散らし、歩を進める。
その人影が進む先には、ぼんやりと小さく明かりが灯っていた。
僅かに確認できる程度の光だ。恐らく距離にして数百メートルはありそうである。
その光を目指しその者は歩く。
小さな身体を揺らし、弱々しい足取りで懸命に進む。
歩き続け、その光源の出所が一軒の家屋だと分かる程の距離まで歩み寄る。
しかし、体力の限界が来たのだろうか。
その者は降り積もり続ける新雪の絨毯の上に倒れこんだ。
最早精も魂も尽き果てたか、動く気配は無い。
そんな行き倒れた人物の側に、一つの人影が音を立てて近付いていた。