第4話:兄妹の暗躍とメニュー
「なんだと!魔王が人間の勇者に破れて旅に出るだけでなくその勇者と契りを結び魔王の座を譲っただと!?」
優馬とサラが初めの町に向かってマッハ10で移動し被害を拡大させていた頃、魔王城から優馬逹が移動した方角から西に約90°曲がって500キロ程進んだところにある魔王軍の国であるシュミットの王室で国王の叫びが木霊していた。
「い、いえ、今はまだサライズ様が魔王の座に着いております。旅が終わった後でご結婚なされるようです。」
国王の臣下が王の剣幕にビクビクなりながら報告を済ませる。
「そんなことはどうでもいい!魔王の敗北だけでも一大事だというのに更にそいつと結婚だと…。ふざけるな!本来ならば魔王はその人間でなく私がなるべきだろう!」
この男の名前はバルドゥーク・スレイン。サラの実の兄弟で兄貴にあたる。
ならばなぜスレインが魔王になれなかったのか、それは魔王の条件その2にある『魔王の家系の中でずば抜けて高い力を持つ』にあった。
スレインのステータスはオール400000でサラより100000低い。この差のせいで魔王の座に着けなかったのだ。
本来なら魔王が倒される=死であり、サラが死んでいた場合次期魔王は確実にスレインだった。
しかしサラは生きている(というかそもそも攻撃を一撃たりとも食らっていない)。つまり敗れはしたが魔王の座に君臨し続けるということだ。
これだけならまだ許せる。まだスレインが魔王となるチャンスは消えないからだ。
しかしその魔王が自身を力で倒した勇者相手に条件3『魔王が女性の場合、その結婚相手となる』を使うとなると話は別だ。
魔王を倒したということは何らかのスキルなりで魔王以上の力を持っているということだ。つまり魔王の座を奪うだけでも苦労しているのにそのハードルがより高くなってしまったからだ。
「先代の親父が病に倒れて2年、サライズが魔王となってから色々と策を施してきたが…これでは魔王の夢が遠のくばかりではないか!」
「ス、スレイン様、どうか落ち着いてください。我々の方でも只今斥候を送って情報を探っておりますので。」
「そんなもの待っておれるか!ええい、セラム!セラムはどこだ!」
「なにかご用ですか兄様?」
話からわかるように今呼ばれたこのセラムという女の子、名前はバルドゥーク・セラム。スレインとサラの妹である。
「セラム、貴様に任を与える。」
「はい、何でしょう。」
「貴様もサライズのことは聞いているな?」
「はい、今朝封書が届きましたので。」
「ならばわかるだろう。サライズとそれを倒した勇者の動向を探り、何らかの情報や弱味を探ってこい。」
「分かりました。ただそれもこの休み期間中でよろしいですか?成績は問題ないですが魔王の家系がいくら国王の任とはいえ学校をサボる訳にはいきませんので。」
セラムは今14歳で学生だ(兄弟それぞれ3歳ずつ違う)。
今は前の優馬の世界で言う夏休みのようなもので、あと大体1ヶ月くらいの休みだ。
「わかっている。その頃には一度帰って報告をしろ。」
「分かりました。それでは今から準備をしてすぐに出発します。」
「頼んだぞ。」
そういってセラムは王の前から立ち去った。
一方、初めての町に入った優馬とサラは初めにサラが出した書状がきちんと行き届いていたらしく、町人からものすごい歓迎されていた。
「おお、魔王様と勇者殿。我が町にようこそおいでくださいました。本日はどういったご用でしょうか?」
町に着くなり案内された豪勢なレストランで食事と飲み物を出されくつろいでいると町長らしき人が話しかけてきた。
「うむ、ラクトスも元気そうで何よりじゃ。今日は政務ではなくプライベートじゃからそんなにかしこまらんでもよい。」
どうやらサラの知り合いらしい。まあ魔王ともあれば近隣の町の町長とかは顔くらい合わせるか。
「いえ、そうは言われましてもこれは当然の対応でございます。」
「うむ、ならよいのじゃが。それで今日は頼みがあるのじゃが、地竜を1匹頂きたいのじゃ。」
「地竜でございますか?しかし…魔王様の足より早い地竜は私共も流石に所持しておりませんが…。」
「いや、妾逹はさっきも言ったようにプライベートで旅をしておるのじゃ。だから地竜に乗ってゆっくりとあまり疲れない旅をしたいのじゃよ。」
「なるほど、そういった理由でございましたか。それならばこの町の中でも一番乗り心地の良い地竜を1匹用意しておきます。」
「うむ、助かるのじゃ。そしたらさっきの町の入口の門の所に連れてきて置いて欲しいのじゃ。」
「はい、了解致しました。」
そう言って町長はレストランの従業員にもっと料理と飲み物を出すように指示してレストランを出ていった。
従業員が町長の指示通り注文を取りに来たが既に大量の料理が並んでいるから俺は『お構い無く。』と断っておいた。
料理を堪能しレストランを出ようとして俺はそう言えば金を持ってないことに気がついた。
「なあ、サラ。お前金持ってるか?」
「いや、もってないのじゃ。」
「まじかよ…。俺も持ってねえよ。」
相当良い料理が大量に出てきてたし魔王の無銭飲食とか立場的に良くないだろと思っていたらサラは
「妾が食べる分にはお金は払わないのじゃ。魔王じゃからの。勿論優馬も大丈夫じゃ。」
「なんでだよ?」
「妾が食べて旨いと言えばそこは魔王のお墨付きじゃ。だから妾の食事分くらいすぐに取り返せるくらいには儲かるのじゃ。」
「だからって払わなくていい理由にはならないだろ?」
「じゃが今までもずっとこうだったのじゃ。」
「じゃあお前がまずいと言った店は払うのか?」
「それは妾にまずい料理を出す奴が悪いのじゃ。そんな店に払うお金はないのじゃ。」
「なるほどな、そこは変えていかないといけないな。」
「優馬?そんなことどうしたのじゃ?」
「そんなことじゃないんだよ。店で1人無銭飲食されると結構ダメージでかいんだ。それがこんなに食ったり飲んだりした後だと尚更だ。そんなことしてたら俺が気分が悪い。だからこれからはお金のかかることは全てちゃんと払っていく。」
ハーレム作るとか言ってる奴が何言ってんだって話だがこんなに飲み食いした後金も払わずに出ていくのは罪悪感が半端ない。
「でも俺も金持ってないしな…。そもそも財布とかこっちの通貨単位とかもわからん。」
なんて考えていると突然、俺の目の前に文字が出現した。
「うわっ!なんだこれ。」
「どうしたのじゃ優馬?」
「いや、突然目の前に変な文字が。」
「文字?なんのことじゃ?」
「ほら、これだよ。」
俺はそう言って文字を指差すがサラは首を傾げている。
「もしかして俺にしか見えないのか…?」
そこでよくよく注意して見てみるとその文字列はよく知ったものだった。
『ステータス』『アイテム』『装備』『金貨20枚』
と左から順に並んでいた。
「もしかしてメニュー画面か?」
そういえばスキルをとったときに『メニュー』とかあったのを思い出した。
俺は試しにステータスを開いてみると
名前:一色優馬
年齢:17
性別:男
レベル:1
体力:99999×120(11999880)
魔力:99999×120(11999880)
攻撃:99999×120(11999880)
防御:99999×120(11999880)
俊敏:99999×120(11999880)
回避:99999×120(11999880)
幸運:99999×120(11999880)
スキル:全て
俺はその画面を見て固まってしまった。
ステータスが破綻していたからだ。
自分で99999にしたのは覚えているが次の×120ってなんだよ。チート過ぎるだろ。しかもスキルの表記『全て』ってなんだよ省き過ぎだろ。確かに全部取ったけどさ?これじゃ何があるかわかんねえだろ。」
「ゆ、優馬?どうしたのじゃ?急にブツブツと。」
どうやら途中から独り言になっていたようだ。
「サ、サラも見てくれよこのステータスを。」
「じゃからさっきから何を言って…のわっ!な、なんじゃ!?急に文字が空中に?ってこれは優馬のステータスかの?ぅえっ!?なんじゃこの数値は!?人間どころか魔族にもこんな者はおらんぞ!?」
サラの反応は相変わらず面白いな。と少し優馬は落ち着いた。
人間、自分より取り乱した奴が隣にいると自分は落ち着けるものだ。
サラが落ち着いてから話を続ける。
「でもなんで急にサラにもこれが見えるようになったんだ?」
「スキルが全てってなっておるから多分『隠蔽』もあるのじゃろ。あれは自分が許可した相手にしか自分のステータスを見られないというスキルじゃからの。」
「なるほどな。でもこれで俺がサラの魔法に耐えた理由もわかったな。」
「そうじゃの。このステータスならあれを120回撃たないと優馬を倒せないからの。妾もそこまで魔力がもたぬわ。」
「あとは…アイテムはなにもないし装備も特にないから金貨20枚ってやっぱ金のことかな?」
試しに1枚取り出すようなイメージをすると
「おっ、これでいいのか。」
手元に1枚金貨が出てきた。楽でいい。
「サラ、金貨1枚ってどのくらいの価値があるんだ?」
「そうじゃな…金貨が1枚あれば普通に1週間暮らせるくらいかの?」
「金貨すげーな!なんで俺金貨20枚も持ってんだろ?」
「まあいいや、これがあったらここの食事代と地竜代くらいにはなるか?」
俺は近くにいたウエイトレスに聞いてみた。
「え、は、はい充分過ぎるほどです。で、でもうちの店ではお釣りの銀貨と銅貨が足りなくてお支払い出来ないです。」
「別にいいさ。ご飯美味しかったしまた今度来たときにまた旨い飯食わせてくれたらそれで。」
「は、はい。ありがとうございます。」
「優馬はやさしいのう。そんなお主もす、好きなのじゃ。」
「お前なに言ってんだよ。ほら、そろそろ行くぞ。すいません、ご馳走さまでした。」
「ちょっ!スルーは酷くないかの!?」
2人が店を出ていったことにより緊張した空気が開放され、店内のスタッフが皆一斉に肩の荷を下ろした。
しかし1人未だ緊張状態を保っている者もいた。
「優馬さん…優馬さんか…。」
先程のお釣りのウエイトレスをチョロイン化させてしまっていたことを優馬は知らない。
店を出て真っ直ぐ言われた門に向かうとそこには鎖で繋がれた地竜と町長がいた。
「魔王様、勇者殿。うちの料理は満足いただけましたかな?」
「ああ、すげー旨かったからまたここに寄ることがあったら行かせてもらう。」
「おお、ありがたい言葉です。」
「そう言えばこの地竜の代金もあそこの店に払っといたから後でもらっといてくれ。」
「地竜の代金ですか?そんな魔王様方からそのようなもの頂けません。すぐにご返却致します。」
町長が急に脂汗を流してさっきの店に向かおうとするが
「待つがよい。優馬は払わないと罪悪感がするから嫌だと言っておるから妾もきちんと代金を支払っていくことにしたのじゃ。だからありがたく受け取っておくのじゃ。それをまた返される方が妾達も気分が悪いのじゃ。」
そう言ってサラが俺の方をちらっと見て同意を求めてくる。
俺が頷いてやるとサラはニコッと笑って町長に向き直った。
「そ、そうでございますか…。ならばありがたく頂戴させていただきます。」
「おう、そうしてくれ。さてサラ、お前はこの地竜扱えるか?」
「無論じゃ。うちでも戦用の地竜を扱っておったからの。」
「なら地竜のことはサラに任せた。俺は回りに危険がないかとか見とくから。」
「わかったのじゃ。もうすぐに出るのかの?」
「そうだな…。早くそのタルトって国に行ってみたいしな。行けるか?」
「無論じゃ。そしたら地竜の背中の椅子に座るのじゃ。」
「了解っと。」
俺は地竜の背中に飛び乗った。
続いてサラも飛び乗り、地竜の首から延びている鎖をとる。
「魔王様。地竜のエサもそこに1週間分は積んでおります。もしなくなったらその辺の動物を食わせてやって下さい。」
「うむ、感謝するのじゃ。ではまた寄るのじゃ。」
「ありがとうなラクトスのオッサン。」
こうして俺達は無事地竜を入手しゆっくりとタルトを目指して旅を再開した。




