第3話:出発初日
魔王バルドゥーク・サライズがチョロイン、一色紗良となり魔王城を出発して一番近くの人間の国を目指して旅をする優馬とサラ。
今日でちょうど1週間になるが、これまでの旅は順調すぎて旅というような感じではなくなっていた。というのもその原因は魔王城を出発する前のあるやりとりのせいだ。
ーー1週間と少し前
「お、お待ちください魔王様!本当に出ていかれるのですか?」
必死の表情で優馬とサラを説得をするのは1階で優馬からファイアーボールを食らって壁にめり込んでいた四天王で、名前をライア・アズールというらしいが男の名前なんてどうでもいい。
「そうじゃ。妾はこれから優馬と人間の国までデートに行くのじゃ。留守の間の管理はお主ら四天王に任せるのじゃ。」
「そ、そんな!魔王様の威光があってこそ魔界は保たれているのです!我等四天王だけで魔界の民総勢10億の制御はできませぬ。どうか、どうか考えを改めください!」
「じゃが妾は優馬とデートに行きたいのじゃ。魔界の民には書面で話を通して暴動など起こらぬようにしておくからの、それでいいじゃろ?」
「し、しかしそれだけでは全ての民には…」
「その時はその時じゃ。とにかく待っておれ。」
そういってサラは書斎みたいな部屋に消えた。
数分後に戻ってきたサラの手には手紙が握られていた。
「これをコピーして魔界中に配布するのじゃ。」
そういって手に持っていた紙をアズールに渡した。
アズールはそれを読み終えると
「魔王様、この書面だと魔王様が敗れたということがそのまま…」
「もう、うだうだと五月蝿いのじゃ!これは魔王命令じゃ。さっさとやってくるのじゃ!」
「は、はい!」
アズールは一瞬身体をビクッとさせると急いで出ていった。
「お前何て書いたんだよ?」
今まで静観していた俺もそろそろいいかな?と思って話しかけた。
「妾はただ優馬との初デートを邪魔されたくないと思って
『先日、突如現れた勇者に魔王軍は敗れ、妾も完全に敗北した。よって魔王軍は勇者一色優馬に全面降伏の形をとることとなった。
妾は見聞を広げる為、勇者の強さを探る為その旅に同行することとする。
よって、勇者一色優馬に対するあらゆる悪意を禁止するとともに、道中の衣食住の支援を要請する。
もし万が一にも誰かが勇者一色優馬に危害を及ぼした場合、連帯責任としてそやつの周囲の者もろとも魔王軍の敵とみなし、根絶やしとする。
魔王バルドゥーク・サライズ』
って書面を魔界に広めたのじゃ。」
「いや、やりすぎだろ。別に俺は誰が襲ってきても負けないし、魔王相手に反旗を翻す奴もそんないないだろ。衣食住とかも…あ、それは助かるな。俺もカップ麺くらいしか作れないしお前はなんか料理とかできる気がしないもんな。」
「失礼な!妾だって…まぁその…実際にやったことはないが?ちょっとした料理くらいなら多分簡単にできるのじゃ!」
「どっからその自信がくるんだよ。素人の料理の隠し味が一番怖いんだよ!実際お前も不安だから支援を頼んだんだろ?してくれようって気持ち自体はお前の思いやりが伝わってきて俺も嬉しいからさ、無理はするなよ。」
「そ、そうか?じゃ、じゃが、やっぱり何にも出来ないのは悔しいのじゃ。妾もこの旅で色々修業せねばならんの。」
「ほう、何の修業をするんだ?」
「決まっておる。花嫁修業じゃ!」
「お、おう。頑張ってくれ。」
俺は不覚にもドキッとした。今までこんな風にサラの方から積極的になってきたことがなかったから単純に嬉しかった。
「うむ。」
そう言ってサラは笑顔で頷いた。
それから例の手紙もとい、王令が魔界に行き届くまで2.3日待ってから俺達は魔王城を旅立つことにした。
「魔王様…本当に行かれてしまうのですね…。」
「そんな悲観するでない。永遠に出ていく訳ではないのじゃ、いずれはまた優馬と共に帰ってくるのじゃ。ま、まぁ…その時は魔王は妾じゃなくなっておるかもしれんが…の?」
そう言ってサラは俺の方を見る。
「なんだ?俺に魔王をやれってか?う~ん…それも面白そうだな。旅が終わったらそれもいいかも知れないな。」
俺が魔王になって魔界を統括しつつ女の子達と過ごす…悪くない。
「ほ、本当か優馬!?や、やったのじゃ。」
「おいおい、何をそんなに喜んでんだ?そんなに魔王が嫌だったのか?」
俺は予想外に喜んでるサラにびっくりしていると
「ゆ、ゆゆゆ、勇者殿!」
「うわっ!なんだよお前。えっとたしかマズールだっけか?」
四天王の1人が俺に詰め寄ってきた。
「アズールです!そんな微妙な間違いはいいのです。それより今の話は本当ですか!?」
こいつの変わり様はさっきサラが急に喜んだのよりもさらに様子がおかしかった。
「なんなんだよそんな血相を変えて。」
男にそんなに言い寄られても全く嬉しくない。というか暑苦しい。
「まさか自覚がないのですか?今の魔王様とのやり取りだとあなたは将来的に魔王様とけっこ…」
「いつまで話をしておるのじゃ。さあ優馬、早く出発するのじゃ。」
サラが俺とアズールとの話に割って入り俺の腕をとる。
「おいおい、そんなに引っ張んなよ。言われなくても行くからさ。すまんアズール、その話また今度な。」
「お、お待ちください優馬殿!これは今後の魔界に関わる大事な話で…」
「優馬、もう待てないのじゃ。」
サラがぐいぐいと俺の腕を引っ張る。
「お、おう。じゃあそういうことだからまた今度ここに寄った時に聞かせてくれ。じゃあな。」
俺はサラに引かれていくままに城を出て行った。
「お、お待ちください優馬殿、魔王様!話を少しだけ聞いてくだされ!優馬殿!」
アズールの叫びはもう優馬とサラには届かない。
「一体どう報告すればよいのだ…。魔王様の長期不在だけでなく同時に婚約の報告など…。」
因みに優馬には婚約などした覚えはないがそれは人間と魔族、種族も違えば文化も違う。人間の常識が通じないこともあるということだ。
先の発言『優馬が魔王になる』と言うことは魔界の常識では現魔王であるサラと婚約するということと同義なのだ。
魔界の王族のルールは至って簡単で『死ぬまで王であり続け、代々その血が受け継がれる』というものだ。そして兄弟の場合特別なことがない限り女性よりも男性、次男よりも長男が王族となる。
つまり現魔王はサラで、前魔王はその父親となる。魔王が死んだからといって次の魔王が民衆から選ばれることはない。
つまり魔王になる条件は
1.魔王の家系の長男
2.魔王の家系の中でずば抜けて高い力を持つ
3.魔王が女性の場合、その結婚相手となる
の3通りとなる。そして今回の優馬の発言はこれの2と3を満たしていた。
優馬にそんな気がなくても魔族にとっては常識のこと。
つまり先の発言は魔王を見送りに来た臣下達の前での公開プロポーズも同義となり、そんなビッグニュースは当然すぐに広まっていく。
「おい、聞いたか。魔王様が結婚して人間の勇者が新しい魔王になるみたいだぞ。」
「人間が魔王とかありなのか?」
「でもあの人間の力は本物だぜ?四天王をみんな一撃で倒したって言ってたし。」
「くそー、俺魔王様狙ってたのによ!」
「「「いや、お前は無理だろ。」」」
「お前ら否定早すぎだろ…。」
仲のいい4人組がそんな話をするのも無理はない。
魔王結婚のニュースのニュースは瞬く間に魔界全体に広まっていったが、既にこの場にいない優馬がその話を聞くのはまだ先の話となる。
「それで、先ずはどこに向かうんだ?」
魔王城から引かれるまま出てきた優馬はサラに聞いてみた。なんせ優馬はこの世界は魔王城意外何も知らないのだ。あとはせいぜい人間の国があってそこで勇者を呼んでいて、人間と魔族が争ってるってことくらいだ。
「先ずはここから一番近い人間の国『タルト』を目指すのじゃ。」
「魔王城に一番近い国の割にはなんとも甘そうな名前だな。まあいいや、そこまで歩いてどのくらいかかるんだ?」
「歩きだとだいたい1週間くらいかの。」
「1週間もかかんのか!?遠いな…。」
俺は1週間歩き続けることを考えると憂鬱だった。
「安心するがよい。それまでに魔族の町もあるから休憩出来るし、そこで地竜を借りればもっと快適に早く進めるのじゃ。」
「地竜って地面をはって進む蜥蜴みたいな奴か?」
「そうじゃ、それが地竜じゃ。」
「なるほどな、それでその近くの町までどのくらいあるんだ?」
「そうじゃな…。歩いて1日かからないくらいかの?」
「うげーそれでも結構あるな。」
日本に居たときも運動らしい運動をしてこなかった身としては辛いものがある。
「何とかならないのか?」
「何とかって…優馬はどれだけ面倒くさがりなのじゃ…。まあ、優馬と妾の体力は普通のそれではないから走ればもっと早くつくのじゃ。」
「走るのは疲れるからな…。」
「じゃから体力が高いから疲れないじゃろ?」
「何?本当か?」
俺はサラをその場に待たせ、試しに全力で数百メートルほどダッシュしてまた帰ってきた。
「本当だ!疲れないし、すげー早いぞ。ありがとうサラ!」
俺は嬉しくてサラの手をとってブンブンと振り回した。
「なっ!?は、はわぁ~。優馬から初めて触られたのじゃ。」
すっかりチョロインが板についてきたサラが1人トリップして手を振られる度に頭をガクガクさせていたが優馬は気にしない。
「よっしゃ、そうと決まればさっさと行くぞ。サラ、その町はどっちだ?」
「はわぁ~…。え、えっとあ、あっちじゃ。」
「よっしゃ。急いで行くぞ。」
優馬はサラの手を繋ぎ言われた方向に全力でダッシュした。
「ちょっ、は、早すぎなのじゃ。手が、手がーっぶっ!」
優馬の11999880の力で地を蹴る早さは時速で表すよりもマッハで表した方が早かった。
サラは全力で走れば時速500キロくらいで走ることが出来る。勿論これは魔族だからではなく単純にステータスが高いからだ。
しかし優馬のステータスはサラのこれの22倍程もある。つまり優馬は時速約11000キロで走れることになる。
時速11000と言われても実際どんだけかわからないが、マッハに直すとだいたいマッハ10くらいである。
もう少し言い方を変えるならウル○ラマンの飛行速度の2倍である。
わかる人はわかってくれるはずだ。
勿論そんな早さで走ればそれに伴ってGがかかる優馬の防御はそれに充分耐えられるが、サラはそうではない、美しい顔を歪め必死に痛みに耐えていた。
我慢すること数秒。
「お、町が見えたぞサラ!」
「………」
サラの返事がない。そこで優馬は止まって後ろを見ると
「っはあっ!はぁ…はぁ…はぁ…。」
必死に呼吸を整えていた。
「どうしたんだサラ?」
「ど、どうしたもこうしたもないのじゃ!お主は妾を殺す気か!」
「なんでだよ俺がサラを殺す訳ないだろ?」
「優馬が平気でもあの早さは妾には早すぎて体が耐えられぬ。」
「そういうことか。ごめん、ちょっと調子に乗り過ぎた。次からは気を付けるよ。」
「う、うむ。そうしてくれ。」
「それじゃああそこの町まで少し休憩してからゆっくり歩いて行くか。あんな早さで突っ込んだら何があるかわからないしな。」
優馬は近くの石に腰を掛けて、サラにも座るように促した。
「う、うむ。助かるのじゃ。」
サラも俺の横に腰を下ろし休憩をとった。なぜかこちらにぐいぐいと身体を詰めてきたが調子に乗ってやり過ぎたことをまだ怒ってるのだろうか?
俺は数分休憩した後立ち上がりサラに向き直る。
「そろそろいけるか?」
「うむ、もう大丈夫じゃ。」
「なら、そろそろ行こうか。ほら」
俺はサラに手を出した。
「うむ。」
サラもその手をとって立ち上がる。
俺達はもうすぐそこに見えている町にゆっくりと手を繋いで歩いていった。
余談だが、優馬が全力で走り抜けた数秒間にも勿論物理法則は存在する。
空気の壁がマッハ10で押し広げられ、それにより生じる空気の移動はソニックブームとなり、回りの砂や石を舞い上げる。
勿論それに影響を受けるのは生物も例外ではない。
普通のフィールドに存在する動物、魔物(ただし、ここは魔界の奥で人里はない)なども巻き込んでいく。
優馬のスキル『不殺の勇者』で死にはしないがそれを受けた者は全て瀕死に陥っていた。
後にこの事が魔界に広がり
『新種の魔物が現れた。
そいつは凄まじい風の魔法の使い手で世界を一瞬で嵐に変えるが一切の殺生をしないというたちの悪い悪戯を行う。目撃情報求む。』
という新聞が出回ったのは優馬の知るところではない。




