第8話:優馬の心配
遅くなってしまってすいません。
積み本の処理に追われてました…。
まだあるんですけどなんとかやっていきます。
サラの妹、セラムをパーティーに加えて旅を続ける優馬一行は遂に人間の国タルトが視認出来るところまで進んでいた。
「優馬、あの向こうに見えてる尖塔がタルトの国の王城なのじゃ。」
「やっと見えてきたか!いや~ここまで結構長かったな。」
「そうじゃな、『どっかの誰か』が絡んできたせいで余計に時間がかかったのじゃ。」
サラは優馬の横に座って腕を抱いているセラを横目に睨む。
「ううっ……ごめんなさいです…。」
数日前、セラムはサラを返せと優馬に勝負を挑み、なんやかんやあって優馬を認めて仲間になったセラだったが、その時のこともあって姉妹仲が少し悪くなっていた。
「まぁまぁ喧嘩すんなって。無事に着いたんだからいいじゃんか。」
「優馬も優馬じゃ!」
「ぅえっ?俺がなんかしたか?」
急に矛先が俺に向いてびっくりして変な声を出してしまった。
「まったく、デート中じゃというのに他の女に手を出して連れて行くなんて何を考えておるのじゃ。」
今回が優馬との初デートなのに向こうは他の女にも手を出してまわっている。
なんだか自分の気持ちだけが空回りしてるみたいで滑稽に思えてしまっていた。
「だから初めから言ってるじゃねぇか。俺は彼女じゃなくてハーレムを作るんだって。サラはその名誉ある1人目だ。これからもいろんな娘に声をかけてハーレムに誘っていくけど、だからってサラや他の娘を蔑ろになんてしない。皆を平等に愛するのはハーレムの主の責任だからな。」
「じゃが…やっぱり妾は…。」
そう言って俯き拗ねるサラを見かねたのかセラが突然「あーーーっ!」と大きな声をあげた。
「さっきから聞いていればうじうじとなんですか。お姉様はお兄ちゃんのことが好きなんでしょう?だったらそれでいいじゃないですか。お姉様がお兄ちゃんを独り占めするのもお兄ちゃんがそうしたいって言うなら仕方ないです。悔しいけど諦めるしかないです。でも、お兄ちゃんはそうしたくないって言ってるのですよ。それが分からないならこの先もっと辛くなるだけです。だからお兄ちゃんのいない今までの生活に戻るか、少しだけ我慢しながらもお兄ちゃんと楽しく過ごすかどっちがいいかお姉様が選ぶだけです。そんなの簡単なことなのですよ?」
セラに一方的に言われるままになっていたサラだが反論が出来ないでいた。
確かに『ハーレムを作る』なんて一般的には大きく間違っている優馬の意見だが、そんな優馬を好きになってしまったのは自分だ。
今更優馬と別れて元の退屈な生活に戻るなんて考えられない。
しかしサラだってそれが分かってない訳ではない。
「分かってはいるのじゃ。それも仕方ないと整理出来てはいるのじゃ。でも、妾の心がそれを良しとしないのじゃ。」
頭では理解して納得しても心では優馬を独占したいと思ってしまう。
「そんな我儘が…」
「まあまあ、喧嘩するなって。」
セラの言葉を切って仲裁する。
「でもお兄ちゃん、お姉様がこんな状態じゃあ苦労するのはお兄ちゃんなのですよ?新しい人が来る度にお姉様が文句を言っていたら面倒臭いだけなのですよ。」
「うぅっ…。」
「だからやめろって。全く…どっちもわかってねぇな。」
「「えっ?」」
「2人とも分かってねぇよ。俺はサラのそういうところがいいんだよ。」
サラは何のことだかわからず頭に?を浮かべながら首を捻っている。
それに対して
「だってお兄ちゃん、このままだとお姉様にずっとああやって言われ続けるのですよ?面倒臭くないですか?」
「それが間違いだって言ってるんだよ。俺だって初めからハーレムをいざこざなしに順調に作れるなんて思ってないし、俺の元いた世界でもこの考えは異端だったさ。でもこっちの世界に来て力を手にして、お前らと知り合って俺は変われたんだ。向こうの世界ではゲームや漫画の中にしかない夢見たハーレムをこっちでは実現することが出来るって。」
サラとセラはゲームや漫画が分からないらしくそろって「?」となっていたが俺は気にせずに話を続ける。
「勿論たとえゲームといえども問題があったりはしたさ、でもそれを乗り越えた先にはその問題が霞む程の大きな幸せがあったんだ。それを手に入れる為ならそんなことは大した問題にならない。寧ろサラが俺を独り占めしたいってことは他の娘と仲良くしてるのに焼きもちをやいてるってことだろ?そんなの全く面倒臭くねぇよ。寧ろめちゃくちゃ嬉しいし可愛いじゃんか。」
「お兄ちゃん…。」
「優馬…。」
ここで2人を見て笑いかける。
「だからこれからも変わらずに俺の隣に居てくれよな。」
「ごめんなのじゃ。妾は優馬の優しさに甘えておっただけなのじゃ。これからも…その…焼きもちをやくかもわからぬがなるべく優馬に迷惑をかけぬようにするのじゃ。」
「私も、お兄ちゃんの考えを全部理解したつもりになってたです。ごめんなさいです。」
「いやいや、だから変に考えなくていいからそのままのお前らで居てくれよ。な?」
そう言って俺は2人の頭に生える2本の角の間、丁度頭頂部あたりを優しく撫でてやる。
すると2人は「…んっ」と気持ち良さそうに目を細めて頭を俺に預けてきた。
その仕草も可愛いなと改めて認識した。
そんなこともあってしばらく進んでいると小さな丘を越えた先に今までと違うものが見えてきた。
「おっ!あれは門か?それじゃあやっとタルトに着いたのか。」
俺の視界には今まで見えていた尖塔だけでなく、国と外界とを隔絶する巨大な壁とその間に存在し唯一の出入口となっている巨大な門が見えていた。
「そうなのじゃ。ここがタルトなのじゃ。」
「ここに人間がいるのか…。こっちに来てから人間に会うのは初めてだからな…。ってあれ?」
俺は2人の方を見て改めて人外の象徴ともいえる点に気づいた。
「2人ともその角は大丈夫なのか?」
2人が人間と大きく違うのはその強さだけでなく頭の上で存在を象徴するかのように勇ましくそびえる2本の角があるのだ。
しかし優馬の心配虚しく2人はあっけらかんとして
「それは大丈夫なのですよ。」
「妾達魔族はそんなことも分からない馬鹿ではないのじゃ。」
と口々に話す。
「ってことは何かしらバレなくなるようなやり方があるってことか?」
「そうなのです。私達は周囲の人間から怪しまれなくなるマジックアイテムを持ってるのです。」
そう言ってセラが襟元に手を入れると小さなクリスタルの付いたネックレスを取り出した。
「それは?」
「それはマスカレード鉱石のネックレスじゃな。それを身に付けているものは周囲からの見え方を変化させることができるのじゃ。」」
「つまりこういうことなのです。」
セラがネックレスの先に付いているクリスタルを握り眼を瞑ると一瞬でその姿が変化し、黒髪の背の高い人間の女性に変化した。
「なるほどな…確かにこれがあれば大丈夫だな。でもこれじゃあ俺もお前らを判断できないんじゃないか?流石にそこまで容姿をいじられたら俺も判別できないぞ?」
俺の問に今度は隣にいたサラが返事する。
「そこは大丈夫なのじゃ。変化する際にきちんと調整すれば特定の相手にだけ効果を与えたり、逆に特定の相手にだけは効果を無くしたりてきるのじゃ。じゃから妾達にはいつも通りの姿、周りの人間には普通の人間に見えるように調整すればなんの問題もないのじゃ。」
「そんな便利なアイテムなのか!?すげぇな。」
「そうじゃろ?これさえあれば魔族でも関係なく人間の国に忍び込めるのじゃ。」
サラに続くように変化を解いたセラが話す。
「ただ、鉱石の数が少ないので大量生産が出来ないのが難点なのです。」
「そりゃあこんな物が大量に出回ってたら世の中メチャクチャになっちまうしな。」
俺は漫画とかで周りの人間が実は敵の間者で隙を見て殺されるみたいな話を見たのを思いだして少し身震いした。
「でも大丈夫なのですよ。」
俺の不安を察したかのようにセラが明るく話しかけてくる。
「私達魔族軍の幹部にはその変化を見破る事が出来るマジックアイテムももっているのです。」
「それがこれなのじゃ。」
サラが右手の薬指にはめた指輪を見せてくる。
「これはディナイアルリングといって、魔法などによってかかっている強化、弱体化や今回のような偽装、透明化などを打ち消すことができるのじゃ。ただし、攻撃魔法や防御魔法、魔法の効果でない偽装などには効果がないのじゃ。」
マスカレード鉱石でいくら偽装しようともこのディナイアルリングを持っている者には本当の姿が見えてしまう。
それに魔王であるサラがこれを持っているということは対魔王戦でのバフ・デバフは意味がないということだ。
基礎ステータスの低い人間が魔王に勝つのがどれだけ難しいことか…。
「なるほどな…確かにそれがあれば対マスカレード鉱石だけでなく戦闘時にもかなり強いな。」
「だからお兄ちゃんは何も心配しなくていいのですよ。いつも通りにしていてくださいなのです。」
「分かった。それならいつも通りにいこ、あ…。」
ここで俺はもう1つ気になることが出てきた。
「どうしたのじゃ?まだ何かあるのか?」
セラもサラと同じように俺の顔をうかがってくる。
「いや、この地竜はどうしたらいいかなって。」
あの町の中でも良いものを貸してもらってるから結構な大きさの地竜だ。門をくぐれるかもわからなかった。
「それなら門の出前で預かってくれるのですよ。お兄ちゃんはそんなに強いのに心配性ですね。」
「昔からの性分なんだからそれは仕方ねぇよ。」
安全マージンをとるのは昔からの性格だし、今更どうこうできないんだから仕方ない。
「ほら、心配事は無くなったんだからさっさとタルトに行って勇者の情報集めたりしようぜ。」
俺は話をしてる間に近く大きくなってきた門を指差して先を促す。
「そんなに焦らずとももうすぐ着くのじゃ。」
セラに言われたように、それから数分もたたずに俺達はタルトに足を踏み入れた。