メイリラルド歴521年 (9)
次の日、いつの間にか城へ帰ってきていたレイダリアさんに
「ユーリ殿、これから私の家に来てもらいます。陛下には許可済みです」
と言われ否定することもなく気づいたら私はレイダリアさんの…サーベイト公爵邸にいた。…さすが公爵家、私の家よりも大きい…本家よりも大きいのではないかしら。そんなことを考えてたらノックが聞こえて一人の女性が入ってきた…この人がマリアムさん?
「あら、可愛らしいというより綺麗な方ね…ふふ、将来が楽しみね」
「…え?」
「はじめまして、レイダリアの妻でルドレイクの母のマリアムよ」
「自己紹介が遅れて申し訳ありません、優莉 七瀬です」
マリアムさんは私の向かい側に座った。…とても三人も産んだ母とは思えないほどきれいな方ね。
「貴方のことはすべて聞いています…リリアが貴方に神子を継承したこと、ルドレイクが片割れになったことを」
「…はい」
「怒っているわけではないわ、だからそんなに緊張しないで…全てはあの子達が望んだことなんだもの、むしろ親としてはようやくルドレイクにやりたいことが見つかって安心したわ」
ルドも言ってたわね、やりたいことが無かったって…親も悩む程なんて、貴族の三男も大変ね。
「リリアのことは…まぁしょうがないわね、あの子の事だもの…ただ、レイダリアから伝えてもらった言葉が「馬鹿」っていうのが苛つくけど」
「あの…リリアさんとはどうやって知り合ったのですか?」
「そうね…私は元々レイフィアとは幼馴染だったの、彼女が王妃になってからも私は話し相手として王宮へ行っていたの…その時に私達は彼女に会った。彼女はまだ召喚されてまもなくてずっと警戒していた…それでも私達は手を差し伸べて続けたの、そしたらいつも間には私達は親しくなていたわ…レイフィアなんかは「私達は親友よ!」って言っていたしね」
そう言ってクスクス笑うマリアムさん。レイフィアさんの親友という言葉がリリアさんにとっては大切な言葉だったのね。
「リリアさんは言っていました…この世界にきて、大切なモノがたくさん出来たって。この世界に来て良かったと…そう言っていました」
「…そう、あの子はそう言っていたのね。貴方に会えて良かったわユーリ、息子の事をよろしくお願いしますね」
「…はい」
ふふ、と笑うその姿はルドにそっくりだった、ルドって見た目はレイダリアさん似なのよね。
「ふふ…私、娘が欲しかったのよ~子どもたちも昔は可愛かったのに今ではあんなのになってしまったし…成長の嬉しさ半分寂しかったのよね、ぜひ私のことはお母さまと呼んで?」
「ありがとうございます…お、お母さま」
念願の娘っ!っと言ってうっとりとしているマリアムさん…その姿に苦笑いしながらお茶を飲んでいたら扉のノックが聞こえた。そしてレイダリアさんとルド、その他に…あれはルドのお兄さんたちね。
「ちょうど息子たちが帰ってきたから紹介するよ。まずは長男のケイル」
「はじめまして、ルドのことは聞きました…弟の事、よろしくお願い致します」
そう言って優雅にお辞儀をしたケイルさん、笑顔が輝かしく見た目はすっごく父親似ね。
「そして、次男のレイルスです」
「…はじめまして」
無表情でクールな印象ね、レイルスさんは母親になのね。
「はじめまして、優莉 七瀬です。まだ神子になりたてですが、どうか優莉と呼んでください」
「ちなみに私はすでにお母さまと呼んでもらっているわ」
私の自己紹介にマリアムさんが一言いったら皆がびっくりしていた…レイルスさんは分からなかったけど。
「さすがユーリ殿、マリアムが気に入るなんてね」
「そうか…では私のことも兄と呼んでくれるかい?」
「え、え…っと…ケイル、兄様?」
私がそう言うと満面な笑みを返された…まぶしすぎる。レイルスさんからじっと見られて私も見つめ返した。
「……」
「…?」
「…ルド」
「何ですか?レイ兄上」
「…いい嫁をもらったな」
「でしょう?」
ちょっとそこの兄弟、なんという話をしだしたのよ!聞いてるこっちが恥ずかしくなってきたわ!顔が真っ赤になっていくのが分かる…。
「ふたりとも、ユーリど「お父様」…ん?」
「マリアムさんがお母様ならばレイダリアさんはお父様です。ですから殿なんていりません」
「…そうですね、改めて…息子をよろしくお願いします、ユーリ」
これでよし。
「家族が増えた」
「よかったね優莉」
「うんっ」
つい子供のような返事をしてしまった…ん?なんで私レイルスさんに撫でられてるの?
「…レイ兄様?」
「…」
名前を呼んでも無言で私の頭を撫でるレイルスさん、これは一体どうしたらいいのかしら?
「あのレイルスが気に入るとはな」
「驚きね」
レイダリアさんとミリアムさんの言葉に頷くルドとケイルさん。…なぜ?というよりどうにかしてくれないかしら、これ。
と、とりあえずルドのご家族には許しを得たようなので…王宮へ帰らないとみたいなのよね、ここの家は使用人の皆さんとも中が良く家族みたいな絆で結ばれているから私もここにいたいな〜でもまだまだ学ぶべきことがたくさんあるし時の神子という立場だし…
「優莉ならすぐに最強の神子になるよ。そしたら…いや、その前に…結婚式をあげようね」
最後の言葉は小声だったから他の人は聞こえていないようだけど…す、すごく恥ずかしすぎる。ルドってこんなキャラだったかしら?
さてと、そろそろ帰ろうかと思っていたのだけど
「陛下は私と可愛い娘との時間はないなんてことはないですわよね?」
とミリアムさんが言って通信機のような魔法具から王様のそっちに泊まっていけとのお答えが帰ってきたため私は今夕食の準備待ちにミリアムさんとお話中。この家に来たのがもう昼だったから夕方になるのは早かった。
ちなみにここの夕食は王宮よりかは質素だけど十分に豪華な食事でした。
「ユーリがこの世界に来てもう一週間は経ってるのよね、どうかしら?この世界は」
「そう、ですね…リリアさんが言っていた通りの世界ですね。元の世界には魔法なんてありませんでしたしお伽噺のなかだけだったんです」
地球からすれば魔法というのはラノベとかそんな中にしか存在しなかったからラノベ大好きな彼女たちだったらすごく喜んでいたでしょうね。
夕食も終わり、その後はみんなで雑談タイムだった。一応お城で様々なことを学んで入るけれど、それでもまだ知らなかったことをたくさん教えてくれた。その代わりに私は地球のことをたくさん話したのだけど、みんな興味津々で質問パレード…疲れたわ。
「ねぇ、ユーリ。私と一緒に寝ましょう?」
「はい?」
いきなり過ぎですミリアムさん!
「…駄目かしら?」
レイダリアさんを見ると笑顔で頷いてくれた。…いいのね
「…分かりました」
「ふふ!ついでだからお風呂も一緒に入りましょうね〜」
「え!?ちょっお、お母様!」
ルドと兄様2人、レイダリアさんに見送られ私はミリアムさんに拉致られましたとさ…なんか私、この世界に来てだんだん性格が変わってきているような気がするわね。
それからお母様は私とのお風呂を楽しまれたご様子で…
「ふふふ、楽しかったわぁ」
「そ、それはなによりです」
美人さんとお風呂とか…自分のスタイルに自信をなくす、元々無いのに…とりあえず後は寝るだけね。…疲れた。
その後はお互いが眠くなるまでこの世界の話や地球の事を話た。お母様は輝いた目で話しを聞いていて、質問をたくさんしてくれた…その後は二人して疲れたように寝てしまったけど。
朝、私が目を覚ますと横ではまだお母様が寝ていたので起こさないように静かにベットから出た。外はまだ薄暗く、少しだけカーテンを開けると朝日がもうすぐで見えそうだった。
ベランダに出てくると風が涼しかった。こういうところはどの世界も変わらないのね…そう思いながら下を見ると外を歩くルドがいた、彼は私に気がついて手を振ってくれたので私も振り返した。
「朝早いのね、何していたの?」
「んー…朝練みたいなものかな?自分の身は自分で守るっていうことさ」
「なるほど…私も一応護身術は教えこまれたわ」
才能があったらしく嗜み程度の教えこまれじゃなくかなり本格的だったけどね…。
「母上がすまない、娘がずっと欲しかったらしいから」
「いいのよ、私もたぶん久しぶりに感じたわ、母のぬくもりが…まったく記憶に無いけど」
幼い頃から実の母と離され親戚をたらい回しにされていた…親戚たちは私を迎えてなんかくれなかった。愛情なんて私には無かったのに。そう思っていると後ろから抱きしめられた。
「貴方のお母様はこうして抱きしめてくれた?」
「…いいえ、幼い頃から私は母と離れていました。親戚の家に預けられては誰もが死んで…皆が私を受け入れてくれることなどなかった…。」
抱きしめられる温もりが暖かい…そう思えば思うほど今までの思いを吐き出してしまう。
「私を預けた家は私以外の全員が必ず死んでいった…悪魔だって、呪われた子だってずっと言われ続けて来た…ずっと我慢してきた…いつか私という存在が皆の頭から消えてしまえば争いが終る…皆が望むようにあの子が当主になる…なのに、なのにお祖父様もお祖母様もあの子も私を気にかける…分かってた…私を当主にさせたいって事を…でも私は当主などなりたくなかった…自由にして欲しかった…いっそのこと私という存在を消して欲しかった!私がいなくなれば平和になるって…」
いつの間にか私はお母様に正面から抱きしめられていた。
「…ずっと今まで生きてこれたのは学校のクラスメイトたちがいたから…みんながいるあそこだけが、私の居場所だった。…それでも辛かった!必要とされない私なら死んでしまえばよかった!!」
「それは違うわ…確かに敵は多かった、でも…貴方を大切に思う味方がいたでしょう?」
私をいつも元気づけてくれたクラスメイト達、争いを抑えていたお祖父様、裏で動いていたお祖母様、私を当主にと望む前に常に私を守ってくれていた人達、そして…離れていても絶対に私の味方だと言ってくれる優希。確かに私の味方はいた…優希よりも少なかったけど、それでも力はこっちが上だった。
「味方は全員ユーリを当主にと望んだ…でもそれだけじゃないでしょう?」
「…いつも私を守ってくれていました…私の兄貴分だって言ってくれたひともいました」
「ユーリ、貴方は向こうの世界に帰りたい?」
「帰りたくないと言えば嘘になります…でも、でも…私はここにいたい…ここにいなければならない…リリアさんが、この世界の人達が…私を望んでくれているから」
お母様が黙って私を抱きしめてくれた…私は目から流れる涙を止めることができないまま朝日が登っていった。