メイリラルド歴521年 (7)
―…ゆ…―
(…?)
―…ゆう…り…―
(誰?)
―…き…いて…ゆう…り…―
(誰なの?)
―…わた…は…とき…み…―
(とき?)
―…わた…は…ときの…み…―
(時の…まさか、時の神子?)
―…そうよ…私は…時の…神子…―
(なぜ…貴方は今行方不明なはず)
―…そう…そして私はもう死んでいる…―
(死んでいる…)
―…だから貴方に…伝えたいことが…ある…―
(伝えたいこと?)
―…王宮の…第一資料室…そこにある隠し部屋に…来て…―
(隠し部屋?)
―…部屋の奥にある…棚…行けば…分かる…―
(行けば分かるって…)
―…優莉なら…大丈夫…―
(!?…なぜ私の名を?)
―…貴方をこの世界に連れてきたのは…私…―
(え!?)
―…貴方には神子の素質が…ある…貴方を次の後継者にする…―
(どういうこと?)
―…もう時間切れ…隠し部屋で…会いましょう…―
(待って!?)
「…っ!?」
目を開けるとベットの天井。今の夢は…。この世界に召喚されてからもう一週間がたった、この世界についてハイスピードで学ばされた。よく頑張ったわよね、自分…とりあえず本当にあの夢は…
「隠し部屋…」
行ったことのない第一資料室、そこにある隠し部屋に彼女がいる。もう死んでいるって言っていたけど…これは王様に言ったほうがいいのかしら。そんなことを考えているとノックが聞こえた。
「おはようございます、ユーリ様」
「おはようメリア」
昨日とは少し違う、それでいて動きやすいドレスに着替え王様達と朝食をとる。
「あの、王様」
「なんだい?」
なんと言えばいいのかしら…神子の言葉をそのまま伝えてもいいのかしら、でも…まぁ、いいか
「今日だけ、第一資料室を使うことはできますか?」
「大丈夫だが…何かあるのかい?」
「実は…」
王様と側に立っていたレイダリアさんに夢で聞いたことを説明した。2人は最初こそ驚いていたけど真剣な顔で聞いていた。
「なるほど…」
「初代神子はもう」
「…彼女は私が神子の素質があると言っていました。もしかしたらそれについて何かあるかと…とりあえず行ってみないと分かりません」
「そうだな…幸い、今日は特に謁見の予定は無いから俺も行こう」
「本来ならばその他にやることはたくさんあるのですが…初代神子のことですからね、ルドもいることですし皆で行きましょう」
実は今日もルドがいるのよね、ルドは国立の学園に通っていて今年で卒業なのだとかそんな大事なときに大丈夫なのかと思ったけど本人曰く「卒業に必要な単位は取れているしね、休んだって大丈夫だよ」とのこと。ちなみにこの世界の成人は16歳で、学園も6年間通う義務教育に近い方式らしい。あとは家庭教師とかを雇ったりして学ぶ人がいるらしいわ。
「緊張する?」
「少しだけね」
朝食も終わり、王様、レイダリアさん、ルドと私の4人で第一資料室へ向かっている。メリアは先に行って鍵を開けてくれている。
「ここが第一資料室です」
そう言ってレイダリアさんが扉を開けた。
「わぁ…」
中に入るとそこは大きな図書館だった。
「僕も入るのは初めてだけど…すごいね」
「ここにはこの国の歴史資料などが全部入っているからな」
「ルド、ここにはルドの好きそうな本がたくさんあるから私に言ってくれれば鍵を渡そう」
「ありがとうございます、父上」
そんな会話を聞きながら私は隠し部屋の扉を探した。隠し部屋なのだから本棚に仕掛けがあるのだと思うけど…。
「奥の棚って言ってたわよね」
私はそう言いながら奥へと進んだ行った。
本棚の本は奥へ行けば行くほど古いものになっていった。
「ここらへんの本は建国当初の時代に近く、神子もよく使っていたものが多いので何か仕掛けがあってもおかしくはありません」
レイダリアさんがそう説明してくれた。そういえばこの二人は神子のことを知っているのよね。
「彼女…神子はどんな方だったのですか?」
「そうだなー…慣れるまで話しづらかったな、アイツは基本無口だったし」
私の問に答えてくれたのは王様だった。
「特に表情も変わらないから何考えているのか分からなかったな」
「レイフィア様とは親友だったのでよく2人でお茶会をしていたようですよ」
「親友だったのですか…神子が行方不明で実はもう死んでいた」
行方不明でずっと心配していただろうけど実はもう死んでいたと知ったら悲しむわね。
「…?何かあれ…他のやつとは違う?」
それはちょうど私の正面にある本棚だった。他の本棚とは何が違うのかは何とも言えないのだけども…とにかく私には違って見えた。行けば分かるってこういうことなのかしらね。
「俺には他の棚と同じにしか見えないが…」
「彼女だけしか分からない何かがあるようですね」
王様とレイダリアさんの言葉に私は頷きながらその本棚に近づいた。
「…?ユーリ、そこの本…何かありそうだよ?」
そう言ってルドが指さしたのは赤い本だった。題名も何も書いていないその本は見るからにして怪しかった。
「ルド、お前にはなにか見えるのか?」
「陛下と父上はこの本棚が普通の本棚にしか見えないのですよね?」
「ああ、そうだな」
「ユーリ、君にはこの本棚どう見える?」
「えー…と、少し歪んで見えるわね。特に大きく分かるわけではないのだけど」
私の言葉にルドが頷いた。
「僕もユーリと同じものが見えている」
その言葉に私達は驚いた。
「ルドも…見えているの?」
「ユーリほどではないけどね」
「でもなんかほっとしたわ、私だけが見えてそれで失敗したなんか言ったら悪いのは私だもの…さてこの本を押すか引くか…」
そう言いながら私は本を押した。すると本棚が動き出し階段が現れた。
「地下へ続くのか…おいおい、あいつはいつの間にこんなものを作っていたんだ城については王である俺に言えよな」
「何も言わずに作るのが彼女ですし」
一体全体どういった人物だったのかしらね…何か話を聞く限りではいろいろ王様達は苦労していたみたいだけど…。とりあえずレイダリアさんとルドの光の魔法を頼りに地下へ行くことにした。
「かなり下に降りるみたいですね」
レイダリアさんと王様が先を行き、ルドと私がその後をついて行くように歩いていった。周りは灯りもなく真っ暗なので私はルドの明かりを頼りに歩いていた。
「扉か」
王様の言葉に私は扉を見た。
「「!?」」
「どうした?」
王様とレイダリアさんの心配そうな顔を横目に私とルドは顔を見合わせた。
「ルドも分かるでしょう?」
「あぁ」
「一体何が?」
「その扉の中から巨大な魔力の流れを感じます、おそらくその部屋が神子が言っていた隠し部屋かと」
そう言って私は恐る恐る扉を開けた。