西暦????年 Side優希
姉さんが行方不明、お祖母様とお祖父様からそのことを聞いた時私の頭は真っ白になった。姉さんだけじゃない、姉さんの親友だった恵理さん達4人も行方不明…同時に県外で3人行方不明者がいる、同時に8人も消えるなんて…どういうことなの?
「姉さん…」
* * *
七瀬家、古くからある旧家…そんな家に私達は生まれた。
お祖父様とお祖母様の子は私達の父と叔母しかおらず、叔母も子に恵まれなかったため私達は当主争いに巻き込まれた…私達には当主なんてならなくてもいい、お互いの側にいるだけで良かった。なのに親戚たちは私達双子を引き離した…私は父の元へ、姉さんは叔母の元へ引き取られ本格的な当主争いを繰り広げる事になって、勝手に派閥なんて出来て…ここから、すべてが狂い始めたのかもしれない。
ある日…姉さんが住んでいた叔母の家が火災に遭い、叔母を含め姉さん以外の人達が死亡した。その時から私の派閥の人達は不審に思っているようだった…次に姉さんが引き取られた家も事故で皆死んだ、姉さんを除いて。その後も、姉さんが引き取られた家はすべて病死や事故死などで死んでいった…残った親戚達は姉さんの事を悪魔と呼び引き取るのを拒否した、いつの間にか父と母でさえも姉さんを悪魔と呼んでいた。居場所がなくなった姉さんは一軒家で暮らす事になった。一応本家からお世話係を一人行かせたけど、私はあの人を信用出来ない…本家にはお祖母様やお祖父様を始め、姉さんを慕う人達も多かったけど私の派閥の人と、姉さんの派閥の過激派を考慮したとお祖父様が言っていた。
それから数年後、私と姉さんは本家に呼ばれた。使用人に案内されお祖父様の部屋に行くとお祖母様と、既に到着していた姉さんもいた。使用人の足音が遠ざかっていくと雰囲気も和やかになった。
「久しぶりだな優莉、優希」
「お久しぶりです」
「お元気そうで何よりです」
七瀬家当主七瀬光俊とその妻珠代。この2人は中立という立場にあるが内心は私達の思いを理解してくれている人だ。
「最近はどう?優莉、一人暮らしは慣れたかしら」
「すっかり慣れました、学業も疎かにしていません」
「優希は?」
「私もです、ですが姉さんには及びませんよ」
「何言っているのよ優希、この前の成績なんかまぐれよ」
そう言っている姉さん、本当は私よりも成績は優秀なのに過激派のために手を抜いている事くらい気付いてる…。自分のことより私を第一に見てくれる姉さんが大好きだった、だけど何も出来ない私は悔しかった…なのに…なのに…。
* * *
「姉さんが…行方不明?…そんな…」
「優莉だけではない、優莉と共にいてくれる4人も行方不明だ。ここだけではなく全国であと3人同時に行方不明になっている」
「4人…恵理ちゃん達も?」
同じ学校でもクラスが分かれている私達、私の近くには取り巻きがたくさんいるのだけど姉さんの側には事情を知っても姉さんや私を見てくれる4人がいた…あの4人も消えたなんて…
「七瀬家の力を使って懸命に探している…が、もう無理だろうな」
「光俊さん…優希、大丈夫よ!きっと優莉や他の子達も見つかるわ、だから元気出して」
「お祖母様…」
お祖母様の励みを胸に私は家に帰った。
「お帰りなさい優希」
「…ただいま」
家に帰るとお母さんがいた。
「ねぇ、お母さん…姉さんのこと、聞いたでしょう?」
「えぇ、七瀬家本家から電話があったわ。ようやく悪魔が消えた、邪魔者はいなくなったから貴方が次期当主ね!」
…言葉が出なかった。ようやく?邪魔者?同じお腹から生まれた子なのに?私の姉なのに?
「今日の夕食は赤飯ね!お父さんに電話して…優希?どうしたの?」
「…でよ」
「?」
「ふざけないでよ!!!!」
お母さんは私の叫びに訳がわからない顔をしている。
「ただいま」
後ろではお父さんが帰ってきた。
「どうしたの優希、私は何もふざけてないわよ?」
「どうして姉さんをそんな扱いするの!?お母さんが産んだ子でしょう!?勝手に次期当主なんか言われて!別れたくないのに別れて!姉さんが悪魔?悪魔って言っている奴らが悪魔でしょう!?私達はただ平凡な暮らしがしたかったの!!なんでよ!何なのよ!!!!ふざけないで!!!!!!」
「優希!!待ちなさい!!」
「優希!!」
私は外へ飛び出した、走って走って公園まで来た。時間も夕方だから誰もいなかった…ベンチを見つけ座る。
「姉さん…」
幼いころ…まだ私達が幸せだった頃、私と姉さんはよく公園で遊んでいた。私が走って転ぶと急いで姉さんが駆けつけた、それからポケットから絆創膏を取り出して貼ってくれたっけ?
「優希」
お父さんの声が聞こえた、私が無反応でいると静かに隣に座った。
「公園を見ると思い出すな、お前はいつもじっとしてられなくてすぐウロウロするんだ…俺達が注意しようとすると優莉が『私が追いかけるから待ってて』って、優莉はお前の行動パターンが分かっているように…いや、分かってたんだな、すぐ見つけて連れ戻してくれたんだよな」
お父さんは遠くを見つめて笑った。
「誰かが唐突に次期当主を決めれと言った時は驚いた…俺も妹もいい年だ、妹も子が居ない。そうなると必然的にお前たちのどちらかが当主にならないといけなくなった…すべての元凶は側近だと自分で思っている奴らだ、あいつらはどうしてかお前たちを争わせようとしていたんだ」
お父さんは後悔の表情を浮かべていた。
「俺もお母さんもお前たち双子を引き離すのに反対だったんだ…お前たちは次期当主になんてなりたくない、そう思っていたのを知っていたからな。だが…話してしまった…妹が亡くなって優莉が無事だと聞いて安心したんだ、これで優莉はまた帰ってくると…また4人で暮らせるんだと、そう思ったのにな」
お父さんもお母さんも、最初は姉さんのことも愛していたんだ…でも、いつから変わってしまったの?
「親戚をたらい回しされて、優莉だけが生き残って…親戚からいろんな事を言われるようになったんだ、最初はお母さんも耐えていたんだ、自分の子だからと言い聞かせて…でも、もう限界だったんだ。ついに娘である優莉を恨み始めた、俺もどうにか言い聞かせたが無理だったんだ」
お父さんは私を見た。
「ごめんな優希、お前たちを…こんな目に合わせてしまって」
「謝るなら…姉さんに言って、一番つらいのは…姉さんだったのに…」
「行方不明と聞いて…言葉が出なかったよ…優莉が戻ってきたら、俺も覚悟を決めてまた4人で暮らせるようにしたいよ」
「…そうだね」
姉さん…帰ってきて。
『優希…お父さん?』
突然声が聞こえた私とお父さんが辺りを見渡すと正面に光が見えた。
「姉さん?」
光はそのまま人の形になり一人の女性が現れた、でもこの女性には見覚えがある…もしかして…
「姉さん…なの?」
「優莉…なのか?」
私達の言葉に頷いた。姉さんなんだね!?
「姉さん、大人になってる」
『あまり時間がないから手短に言うわ』
私とお父さんは、姉さんが行方不明になった時言世界に召喚された、他の行方不明者も同じ世界にいる、向こうの世界ではかなり時間が過ぎているということを聞いた。
「姉さん…もう、戻ってこないの?」
『えぇ、こうやって会えたのもかなりの時間が必要だったし、元々帰れなかったしね…次期当主は優希で決まり、私は死んだことにでもしておいて』
「優莉…すまない」
『お父さん、謝らなくていいわよ…お母さんとお父さんが反対していたのは知っていたの、お母さんが我慢できなくなったことと、お父さんがどうにかしようとしてくれたことも…でも、もういいのよ』
…知っていたんだね、姉さんは
『あぁ、もう時間ね。優希、お父さん…今までありがとう、母さんにもそう伝えておいて…私は今の世界で幸せを掴んだの!だから優希達も幸せを掴んでね』
「優莉!絶対に、お母さんに伝えておく!」
「姉さん!!ありがとう!」
姉さんは最後に今まで見たこともないような満面な笑みで消えていった。
* * *
この後、家に帰った私達はお母さんにすべてを話した。
「…そう…あの子が…」
また悪魔なんて言うのかと思って顔を見たらお母さんは泣いていた。
「あの子が…優莉が…」
お母さんの顔はどこかスッキリしていた。
きっとこれは姉さんが起こした奇跡なのかもしれない…。まだ問題はたくさんあるけど、がんばろう…遠くで姉さんが見守ってくれているから。




