メイリラルド歴521年 (4)
「私の家は向こうの世界では数少ない旧家と言われる古から栄えた家系で、昔から当主争いが激しい…そんな家に私は生まれました」
今この部屋にいるのは王様、レイダリアさん、ルド、そしてお茶を足しているメリアと私だけ。王様によるとメリアさんは私のお世話をする半面、私の護衛もしているのだとか…メリアさんって何者?そんな人が副侍女長とか…侍女長はとても素晴らしい人なのでしょうね。四人とも静かに私の話を聞いている。
「私の家族は父と母…そして双子の妹がいるの」
「双子?」
ルドの質問に私は頷いた。
「妹の名前は優希。現当主は父方の祖父で、父は長男だったから当主争いに私たちは巻き込まれた。」
そこで私は失礼だと思っていてもお茶の入ったカップに口をつけた。
「祖父の子は私の父とすぐ下の妹である私たちの叔母さんだけで叔母さんには子供ができなかったの…ぜんぜん子が生まれなくて…結局私たち双子のどちらかが次期当主になることになったの」
…大人たちはなぜあんなに勝手なのだろうか…
「優希も私も次期当主なんて嫌だった…でも親戚の人たちは勝手に私たちを引き離した…私は叔母さんの養子に出されて、私と優希は本格的に争いをしなければならなくなったの」
ここからだ…ここからすべてが狂い始めた…
「でも、ある日叔母さんの家が火災にあって…全員が死んだ…私を除いて」
「それはっ…」
王様が驚いてる…無理もないわね、私以外が皆死んだのだから
「その後、ほとんどの親戚の家に連れて行かれたわ…でも…皆事故にあったりして死んでいった…私を除いて」
誰かの息を呑む音が聞こえた。
「残った親戚の人たちは皆私のことを悪魔と呼ぶようになった…別に気にもしなかったわ…むしろ滑稽だったわ…もう私たちは滅ぶべきなのよ…滅ぶことができないのなら…私が滅べばいい…それであの子が楽になれば私は何もいらない…何も…」
静まり返った部屋で、私は深呼吸をした。
「でも…そんな日々の中で心が休めたのは学校だった。学校の友人たちは違った…こんな私を悪魔では無いと言ってくれた…私は私だと言ってくれた…今まで生きてこれたのは彼女たちのおかげ…でも…でも…家に帰れば悪魔と呼ばれる…もう…地獄でしかない…」
なぜ普通の家庭に生まれなかったのだろう…神様は…最低…ずっとそう思っていた。
「ユーリ…大丈夫?」
「…大丈夫、ありがとうルド」
「だが顔色が悪いぞ…すまない無理やり話させてしまって」
「いえ…私が決めたことですから」
この世界にこれて良かったと思う。
「ユーリ殿、本当に顔色が悪いです。部屋に戻ってゆっくり休んでください」
「そうだな…ユーリ、夕食の時間までゆっくり休んでくれ」
「はい…ありがとうございます」
私はそう言って立った。
* * *
「大丈夫ですか?」
「皆心配しすぎよ…」
メリアと2人で自分の部屋に入り私はソファーに座った。
「ですが、本当に顔色が悪いですよ?」
「大丈夫大丈夫…もうここには彼らはいないもの」
そう言ってメリアさんを見ると本当に心配そうな顔をしていた。
「…私、本当にメリア達の元に召喚されてよかった」
「…ありがとうございます」
小説みたいに、召喚されて勇者になって捨て駒にされたら私だったら世界を滅ぼしかねないわね…。
「部屋に、戻ってきたとはいえ…何をすればいいの?」
「陛下からは何も聞いていないので…あとは自由かと」
自由、か…何しよう?
コンコン
ノックが聞こえ、メリアが扉に向かった…誰かしら?
「ユーリ様、ルドレイク様がいらっしゃいましたが…どうなさいましょう」
「ルドが?…入ってもらって」
「かしこまりました。ルドレイク様、どうぞお入りください」
「失礼するよ」
そう言ってルドが入ってきた。
「どうしたの?ルド」
「様子見と大丈夫なら王宮内の案内役を父上たちに頼まれてね…大丈夫?ユーリ」
なるほどね…確かに城の中は気になるわね
「…案内お願い」
「了解」
そう言って笑うのは…輝かしいわね
「いってらっしゃいませ」
「いってきます」
言い返してしまうのは日本人だからなのかしら…それはいいとして、いつみても広い廊下ね~。
「ここは王宮内の奥のほうで、許された者しか行けないところなんだ」
「王様やレイフィアさんの部屋とかがあるものね」
「でも、希に頭の固い者が来たりするから気をつけて」
はっきり言っちゃうのね…
「…気をつける」
それから色々なところを案内してもらい、私たちは様々な花が咲いている大きな庭に来た。
「わぁ…綺麗!」
「そう言ってくれるとうれしいわ」
声がする方を見ると2人の侍女を連れたレイフィアさんがいた。
「こんにちは2人とも、ユーリは昨日ぶりでルドとはいつぶりかしら?」
「3ヶ月ぶりです、レイフィア様」
「最近こちらに顔を見せなくて…寂しかったのよ?」
「忙しかったので」
綺麗な姿のレイフィアさんとルドが話していると…すごいわね…。忙しそうに働いている人たちがさっきから見ているし、見ているこっちが幸せになってくるわ~…そんな感じで2人を見ていたら、レイフィアさんの侍女の一人と目があった。紫色の瞳…綺麗な人ね~
小さくお辞儀をしたので私も小さくお辞儀を…もう一人の侍女さんも私に気づいてお辞儀をしてくれました。レイフィアさんとルドは相変わらず話しているし…三ヶ月も会っていないのだから、積もる話もあるわよね。私は静かに二人から離れて綺麗な花たちを見つめていた。
「こちらの花はすべてレイフィア様が育てているのです」
いきなり隣から声をかけられた。
「そうなんですか…綺麗ですね~あ、はじめまして…ユーリとといいます」
「私はレイフィア様専属侍女を努めております、エリナと申します」
「同じく専属侍女のフィナと申します」
さっき目が合った人がエリナさん、もう一人がフィナさんね。
「庭ごと管理している、ということですか?」
「はい、レイフィア様は園芸がお好きでいらっしゃいますから」
「お部屋の方もたくさん花が飾ってありますよ」
本当に花が好きなのね~
「お二人はレイフィアさんの元にいなくていいのですか?」
「ルドレイク様が付いていらっしゃいますから」
「なるほど…にしても、綺麗だなぁ」
「レイフィア様もお喜びになりますわ」
そう言って私たち三人は2人の会話が終わるまで話をしていた。
「お話が終わったようですよ?」
「あ、そうみたいですね」
見れば2人がこっちへ歩いてきた。
「ごめんなさいねユーリ、ルドから王宮内を案内してもらっていたのでしょう?」
「いえ、エリナさんとフィナさんからこの庭を案内してもらいましたから」
「そう、ならよかったわ。私は部屋に戻るけど気をつけて見学をしていらっしゃいな」
「はい、エリナさんとフィナさんもありがとうございました」
「本当にごめんね?ユーリ」
「大丈夫よ、レイフィアさんにとってルドは息子のようなものでしょう?」
「そうだけど…」
国にとって後継ができないのは痛いことよね…でも、もうすぐだろうから心配はしなくても良さそうね。
「案内の続きを頼める?」
「そうだね…ここからはいろんな人たちが出入りするから気を付けて」
「…わかった」
性格の悪そうな貴族たちがたくさんいそうね
「ここらへんはこんな感じかな」
「へえ~ありがとう」
それは一通り案内が終わり部屋に戻ろうとした時だった。
「これはこれはルドレイク様、お久しぶりでございます」
一瞬ルドが驚いた顔に…気のせい?
「アシュレイ殿、お久しぶりですね」
親しげに話しかけてきた人…アシュレイさんがこっちを見た。運動系なイケメンさ…サッカー部って感じね。
「また美しいお嬢さんを連れていらっしゃるのですね」
私を見る目がなんか…こっちを見ないでいただきたいわね。
私の気持ちが伝わったのか、ルドが自然的に私を見えないように隠した。
「アシュレイ殿は見回りの最中では?」
「おぉ、そうでした」
わざとらしい…
「では私はこのへんで」
「頑張ってください」
「お嬢さんもごゆっくりと、今日は気をつけてください」
「はい、ありがとうございます」
イケメンさん…アシュレイさんがルドを通り過ぎる時
「今日は奴も来ている、気をつけろ」
「分かった」
という小声の会話が聞こえた。奴?今日は気をつけろという言葉に関係ありそうね、というか2人は親しいみたいね、敬語が抜けていたし。
「さて、そろっとかえ「貴様!私を誰だと思っている!!」…騒がしいな」
イケメン顔がもったいない…にしても本当に騒がしいわね。
「あ、あそこ」
私の視界には男女が争っていた。
「貴様!そこの下女の知り合いか!」
「下女ではないわっ!私の元で働いている立派な侍女よ!!それに、貴方が最初に彼女にぶつかったのでしょう!?」
「はっ!そんな訳ないだろう、こんな汚らわしい女なんかに誰が触るか!」
「貴方が一番汚らわしいわよ!」
…えーと、これはどういうことなのかしら。隣にいるルドを見るとルドが苦笑いをしてこっちを見た。
「どうするの?」
「どうしようか」
「汚らわしいだと…?この私が…?」
あら、まずいのではないかしら。
「汚らわしいのは…貴様だぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
その言葉に男の手が振り落とされた。
きゃぁぁ!!という見ている人たちの悲鳴の中、私が危ないと思っているなか体が勝手に動いていた。
「この世界も、馬鹿な男がいるものね」
そう呟いた時には男は私に倒されていた。
「ぐっ…貴様もあの汚らわしい女の仲間か」
「いいえ?私はただ貴方たちの話を聞いていただけ、ただの口争いなら良かったのだけど殴ろうとしていたからつい手を出してしまったわ」
口争いだけなら干渉するつもりも無かったのだけれども…殴ろうとするのはさすがに手を出すわよ…ここは王宮だしね。
「なんだと…?貴様は私を誰だと思っているのだ!」
「さあ?私は貴方の事を知らないし知る気もないわ、ただ貴方は陛下のお膝元であるこの王宮で騒ぎを起こしていいのかしら?私以外は全員貴方の事を知っているようですし」
私の言葉に顔を真っ青にする男…馬鹿な男ねえ~。
「き、貴様!」
「ロアリス侯爵」
「!…ル、ルドレイク様っ!」
ルド…満面な笑みだけど何か…こう…背後に恐ろしい雰囲気が…
「彼女の言うとおりです。私も先程から見ておりましたがやりすぎだとは思いませんか?」
「こ、これには!」
「言い訳は結構です、このことは陛下に報告しますので…」
そう言い切ったルドはさっきの女の人と侍女さんを見た。
「お話をお聞かせください」
さっきの馬鹿…ロアリス侯爵を王宮騎士に託して私たち四人は応接室に行った。私の隣はルド、そして向かい側に女の人と侍女さんが座った。侍女さんは座ることを断ったけどルドが説得させた。
「お怪我はありませんか?」
私の質問に女の人は優しく微笑んだ…女神さまみたい。
「貴方のおかげで私も彼女も怪我なく済みましたわ、貴方こそお怪我はないかしら?」
「はい、この通り無事です。」
あぁ~女神さまみたい。
「それは良かったわ…私はリーフェ・ベル・モルジアナよ家は代々伯爵を賜っているわ、隣は侍女のメル」
「私はユーリ・ナナセです。すいません、本来ならば私から名乗らなければならないのに」
「私はそんなの気にしないわ、ユーリは私の命の恩人だもの」
「恩人…というのは言い過ぎではないかと」
リーフェ様…貴族令嬢というのはきつそうな人たちがたくさんいると思っていたのだけどこういう人もいるのね。
「リーフェ様「リーフェと呼んで」…リーフェさん、先程はど「敬語もなしで」…どういう経線で争いが起こったの?」
…貴族令嬢らしくない令嬢ね。
「あれは本当にメルのせいではないのよ」
そう言ってリーフェは語りだした…長そう。