メイリラルド歴820年
”親愛なる母様、父様へ”
母様と父様が通信魔法が使えない場所にいるため手紙を書きました。
母様たちへ報告したいことはたくさんありますが今は大事なことだけを伝えます。
なんと、アヤミ姉様が第一子を出産しました。元気な男の子と女の子の双子で男の子をラストロン、女の子がメイベルという名になりました。
実は私もお腹に子を宿しまして出産間近です。仕事の方はほとんど兄様と兄様の息子のルークがやってくれていますし、仕事で忙しいアストも仕事の合間を縫って見に来てくれています。
二人とも気をつけて旅を楽しんでくださいね。
”マリアより”
* * *
「おめでとうございます!元気な女の子ですよ!」
「お疲れ様マリア」
「アスト…女の子だって」
生まれて始めての我が子…顔は私に似ているけど髪はアストの蜂蜜色、瞳の色は何色かな?
「名前、決めないと」
「…実はもう決めてるの」
「お?」
「この子の名前は…レイラ」
まだ私が幼い時、母様が向こうの世界の話を聞かせてくれた。その中に母様の故郷で使われている字を教えてもらった、母様の住んでいた国には使う文字が3つあるんだって。
『かんじ?』
『そう、漢字。私の住んでいた日本にはね、字を書く時に3つの言葉を使うの』
『3つもあるの?』
『そうよ、ひらがな、カタカナ、漢字。漢字は名前にも使われているの』
『母様も?』
『私の名前は”優莉”と書くの』
母様は紙に書いてくれた、私には暗号にしか見えなかった。
『この二文字の漢字にはね、意味があるの。優しく愛らしい子になりますように、という願いでこの名前が付けられたの』
そう言った母様の表情は少し寂しそうな顔をしていた気がする。
『すごい!』
『実はね、意味は無いのだけどマリアにも漢字があるの』
『本当!?教えて母様!』
『ふふ…マリアはね、”茉莉亜”って書くのよ』
『母様と同じ漢字が入ってる!ありがとう母様、大好き!!』
あれから母様によく漢字を教わっていたから母様がつい漢字全部教えてしまったと言っていた。
『つい漢検一級の漢字まで教えちゃった』
『ついじゃないよ!日本人の私たちよりも漢字書けるってどういうことよっ』
勇者の一人であるリナさんが母様に叫んでいた。母様に教えてもらった漢字で一番好きなのが”麗”という字。麗を使いたいから”麗羅”と書いてレイラ…レイラ・ベル・モルジアナにすることにした。
「レイラか、いい名前だね」
「うん」
これからよろしくね、レイラ。
* * *
レイラが生まれて2ヶ月が経った。
「あうあー」
「レイラは今日も元気ね」
コンコン
「どうぞ」
部屋に入ってきたのは母様の時から仕えるメリアだった。私が今住んでいる家は実家より少し離れたところにある場所、この家と本家は母様が謎の力で繋げているため、本来実家にいるメリアも行き来することが出来る…母様すごい。
「失礼します。マリア様、ルーク様がいらっしゃいました」
「分かった、こっちに来てもらって」
「かしこまりました」
甥であるルークは現在94歳。平均寿命は500歳のこの世界ではまだまだ子供、私?私は今年で146歳になるけどまだまだ若いわよ。
「ご無沙汰しています叔母上」
「久しぶりねルーク、今日はどうしたの?」
「王妃が久しぶりに会いたいと言っていまして、ついでに双子たちとレイラを会わせるとのことです」
…陛下、急すぎる。
「分かったわ、行きましょうか」
「あうー」
レイラがルークに手を伸ばしている。
「抱っこしてみる?」
「え…いいのですか?」
「当たり前よ」
そう言って私はレイラをルークに渡す。ルークは兄様そっくりだから凄く美形…つまり、絵になるということ。
「さて、そのまま行きましょうか」
「えっ」
「ほらルーク、早く行こう」
「え、ちょっ、叔母上っ」
ふふふ。
* * *
王宮に来て、ルークを見た兄様はかなり笑っていた。
「久しぶりねマリア!」
「久しぶりです、アヤミ姉様」
アヤミ姉様と会うのは本当に久しぶり。
「この子がレイラね、マリアにそっくり!」
「ラストロンとメイベルも本当に似ているんだね、さすが双子」
色んな話をした。
「ユーリさん達、そんな遠い所にいるの?」
「うん、だから当分は見せられないと思う」
「そっかぁ、残念だね」
本当は早く母様と父様に見せたいのだけど仕方ないよね。
コンコン
「誰かしら?どうぞー」
「失礼します」
部屋に入ってきたのは元勇者の一人で現在王宮騎士団として働いているカズキさんだった。
「和樹君、どうしたの?」
「実は今さっき優莉から手紙が来て、二人に渡すようにと」
そう言って渡されたのは一通の手紙、私が開けて読む。
「えーっと…”二人に子供が生まれたと聞いて今からそっちに向かいます、フルパワーの瞬間移動で行くから恐らく手紙を呼んでいる一分後に到着する、茶を二つ用意しておいてね”…一分後」
「もうすぐじゃないの!お茶をお願い!!」
一斉に侍女が動き出した、母のせいで…ごめんなさい。
「10、9…」
カズキさんが数え始めた。
「3,2、1」
ヒュパッ、ドン!
音がした方を見ると息を切らした母様と背を擦る父様がいた。
「…マジかよ」
「ぜぇ…ぜぇ……ふぅ…時間通りかしら和樹」
「バッチリな」
「さすがに…疲れた」
そう言って母様が椅子に座る、父様は母様の隣りに座った。
コンコン
ノックが聞こえ入ってきたのは兄様だった、そして未だレイラを抱いているルークを見て少し笑った。
「父上…笑わないでくださいよ」
「笑わないわけないだろう」
ルーク可哀想。
「ルークとは生まれた時以来ね、一応初めましてにした方がいいかしら?」
「一応…はじめましてですお祖母様、お祖父様」
「初めまして、あの時の赤ん坊がもうこんなに大きくなって…僕達も年をとるわけだ」
「マリアと彩美も、おめでとう」
「ありがとう母様」
「ありがとうございます」
そこでようやくレイラがルークから母様へと渡された
「あうー」
「ふふ、はじめましてレイラ…貴方のお祖母様よ」
「あうあー!」
「レイラそっくり」
次に母様はメイベル、父様がアストロンを抱っこした。
「あらあら、彩美二人とも彩美そっくり!性格も彩美に似てほしいわね…レイフィアとライド様も大喜びでしょう」
「うん、たまに来ては孫を見てデレデレしてるよ」
「でしょうね」
想像できるもの、そう言って母様は魔法で水の玉を出した。レイラ達はそれを叩いたりして楽しそう…
「この遊びはアランシスを子守していた時に発見したのよね、それからラトやマリアにもやったら楽しんでいたから面白かったわ」
へぇ、私の時もこの遊びをやったのか。
――キーン――
「っ…」
「あうー!」
「…どうやら、孫達も”分かる”というのが遺伝したようね」
「本来、時の神子しか見えない歪みが何故か息子たちに見えて…さらに孫達もとは」
…本当に不思議だと思う。
「とりあえずマリア…歪みのところへ行きなさい」
「はい、行ってきます」
* * *
歪みを直し、戻ってきた時はレイラ達は寝ていた。
「ただいま帰りました」
「お疲れ様…最近の歪み、何か妙ね」
妙?
「マリアに継承してからあの時以来、まったく巨大な歪みは発生していないわ」
「…確かに」
「……何もなければ…いいのだけど、わからないわね。とりあえず注意しておきなさい」
「はい」
その後少しだけ話して母様と父様は帰っていった。




