メイリラルド歴694年
「本当にいいんだな?」
「えぇ、あの子ももう20歳…前々から十分力が備わっていたのだから大丈夫よ」
「本人には?」
「まだ言っていないわ、今日言うつもりよ」
「そうか…」
私はアランシスの執務室を出てとある人物の元へ向かった。
* * *
その人物とはお茶の約束をしていたので家の庭に居た。
「マリア」
「お帰りなさい母様」
準備は揃い、久々に娘と二人だけのお茶となった。
「もうマリアも20歳になるのね…早いわ、前まではあんなに小さかったのに」
「まぁ…子供ですから」
そう言ってカップを取るマリア。黒髪は私、翠の瞳はルドから受け継がれた子…歪みを感じ、見ることの出来る…そんな彼女ならと、私とルドは決心した。
「ねぇ、マリア」
「なんですか?」
「神子にならない?」
は?って顔がラトルクにそっくりね。
「もう一度お願いします」
「神子になる気はないかしら?っと言ってもマリアが時の神子を継ぐのは確定しているから」
「は?」
「アランシスが2代目国王になって37年が経ったわ、貴方ももう20歳…そろっと代替わりしてもいいかと思ってね」
マリアが手伝いを始めて何かと楽になった、私にはやりたいことがあってそれをやるには神子をやめなければならない。本来神子の継承は少しの力を残しすべての力を継承する、でも魂から継承した私はリリアさんが本来持つ全ての力を受け継いだ、むしろ余ってしまうから片割れがいるのだから継承しても力は十分にあるのよね。
「私は…今まで様々な人から母様の生きてきた長い歴史の話を聞きました。母様のことを話す人たちは全員が母様を尊敬していました…私はずっと母様に憧れていた、母様がいつも守っていたように私もこの世界を守りたい。」
まっすぐ私を見つめる瞳…決心したのね。
「時の神子を、継ぎます」
そう、よかったわ。
* * *
継承する場所は私がリリアさんから神子を継承した第一資料室の隠し部屋。見届けるのは国王のアランシス、宰相のケイルお義兄様、ルドとラトルクの4人。
「緊張しているかい?」
「父様…少しだけですけど」
「国王の即位式みたいに派手じゃないから少しは気軽さ」
国王の即位式と言ってもマリアが生まれる前だからわからないと思うけど…。
「さ、始めましょう」
そう言ってマリアの前に立つ。
「覚悟はいいかしら?」
「いつでも」
「そう…マリア、私の可愛い娘…貴方の決意を私は忘れません。この先に作る未来を貴方に託します」
力がマリアに流れていくのが分かる、強い力にマリアが倒れそうになったけどルドがいるから大丈夫ね。
「継承は成功したわ…これで貴方は時の神子」
「はい…母様、今までお疲れ様でした…母様が守ってきたこの世界を必ずや守ってみせます」
「えぇ…お願いね」
そう言って抱きしめた。
* * *
無事に継承が終わり家に戻ってきた。
「…母様」
「何?」
「私に神子を継承して、何をやりたいのですか?」
「私はね、前々から探さないといけない人がいるの」
「人?」
「そう、それには神子を継承して自由にならないといけない…だからマリアに継いでもらったのよ」
探さないといけない人…それはリリアさん。彩美さんが歪みに巻き込まれてこの世界にやってきたのがヒントだった…恐らく、何かの弾みで歪みから弾き飛ばされればリリアさんは戻ってくるかもしれない。そのためには長い時間と多くの歪みが必要となる…現在ライド様とレイフィア、お義父様とお義母様が動いてくれている。だから私達も早々表舞台から消え、裏で動く者にならなければならない。
「そうだったのですか」
「そう、だから私も準備が整え次第活動するわ…だからマリア、この屋敷のことは貴方達に託すわ。いつでも帰ってこれるようにね」
「はい!」
いい返事ね。
こうして173年に渡って務めてきた時の神子は次世代に継承された。




