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ただ愛してると言って欲しかった

暇つぶし程度の短めです。

「……うぅっ…」



行き場のない手で顔を覆い、嗚咽を漏らしながら、目の前で崩れ落ちる彼女を視界に入れるのが嫌でオレは顔を伏せた。




いつからか降り始めていた雨のおかげで、多分こんなダサい面は見えない。きっと、降りかかる雨の冷たさとは別の、生暖かいモノが頬を伝うのは気のせいだ。



「沙羅、少しはオレのこと愛してくれてた?」




辛うじて絞り出せた言葉は、情けなくも震えていた。そんな風にしか出来ない自分は、彼女と出会った頃から何も変わらないガキだと、だからこうなってしまったのだと感じた。



オレ達は、最初から間違っていたのかもしれない。











ーーーあれはまだ14だった頃。オレは随分反抗的な中坊だった。今もやんちゃしてる自覚はあるが、中学の時より大分マシた。



家にいるのが嫌で、母さんを捨てた父親が憎くて、オレは頻繁に家出をしていた。友達のとこに厄介になる時もあったが、所属していたいわゆる暴走族に部類される“誓龍”の本拠地となっていた倉庫に入り浸ることが多かったように思う。



沙羅に出会ったのは、抗争でしくじり敵方からボコボコにされたある秋日だった。



「喧嘩でもしたの?行くとこないなら、私のマンションで手当していきなさい。」



彼女のオレを見る目はあまりいいものを見る目ではなかったが、ボロボロの情けない格好で倉庫に戻るのは憚られオレは渋々頷いた。



流されるままに彼女に案内されてマンションへ行き、手当をするにはあまりにも(なり)が酷いとかなんとかで風呂まで入らされた。不器用らしく包帯を歪ませながらも手当もしてくれた。



大人からこんなことをしてもらうのが初めてだったオレは、感謝の気持ちを言葉にすることも出来ず、モジモジしてたような記憶がある。




だがそれで終わりだとも思った。何せ彼女とは住む世界が違う。名前を聞かれたからオレが紫堂海斗と名乗るれば、彼女も椎名沙羅だと名乗ってくれた。随分年増に見えるけど何歳と聞けば、失礼ねと頬を膨らませながら、22だと答えてくれた。年もだいぶ離れていれば、彼女はなんとモデルというオレとは全く関わりのない世界の住人であることを知った。



だから、その一晩で終わりだと思っていた。もう関わることもないだろうと。




でも、終わらなかった。



抗争の翌日、一応総長には昨夜あったことを話した。不本意ながら沙羅のことも、だ。



そしたら、沙羅に謝罪と感謝を述べるべきだと軽く怒られた。“誓龍”は暴走族といっても元は自警団だし、当時の総長はなんというか、優男だった。まぁ、だが仮にも総長だから怖い時は怖いし、誰よりも強い。



あんな笑顔で言われてしまえば否定も出来ず、オレは言われるがままに沙羅のマンションへ向かった。



だが、その判断こそが間違いだった。



聞いてしまったんだ、マンションの前で沙羅が友人らしき人に話す言葉を。











ーーー雨に打たれながら、オレはゆっくり顔をあげた。


 

「知ってたんだぜ……最初から。沙羅があの日、オレを拒まなかった理由。だがオレはそれでもいいと思った。…最初は確かに遊びだったかもしれねぇが、オレはお前に惚れてたよ、沙羅。」



「………か、いと…」



「金が目的でも、よかったんだよ……オレは……」



「……うっ…ぁ…かいと、…わたし、」



沙羅の涙は本物なのかと、オレはすっかり彼女を信じられなくなっていた。沙羅はオレが“あの紫堂”の息子だと感づいてオレから金を巻き上げようとしていたらしい。彼女が友人に話していた。



ーー「お宅のお子様、暴走族なんかに入ってるのねって突きつけようかなぁ。マスコミに売るのもいいかもしれないわね。」



今でも鮮明に覚えている。あの日の沙羅の表情や声を。無理矢理彼女の部屋へ押し込み、昨日の礼だと言って抱いた時の彼女も、全て…。



利用されるフリをして、利用してやろうと思った。



でもオレは、いつの間にか沙羅に惹かれてしまった。 




「…だからさよならだ。…オレ達は終わりだ、今日で。……もう限界なんだよ。」



たった一言、愛してると言ってくれさえすれば、オレはそれでよかったのに。



雨は止み、鬱陶しい程の太陽光が差し込んでいるのに、オレの涙は止まらなかった。





(終)

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