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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

わたしが女王様になるまで(笑)

作者: 枷月

 『おっさん』という言葉に敏感な方は御注意!

 残酷?な表現があるかもしれません。




 エレベーターが開くとそこには、土下座した人たちが一列に並んでいた。

 しかも慌ててエレベーター内に戻ろうとしたら後ろは壁になっていたという。


「どうか魔王様の身代わりとして勇者と対峙して下さいませんか!?」


 その中でも一際年老いた人が、チラチラと顔を上げながら言った。


「ふざけてるんですか? それってわたしに魔王の身代わりになって死ねって言ってるんですよね? どこにいるの魔王は! まさか逃げたわけじゃないですよね?」


 手が痛くなるかもしれない、もしかしたら殺されるかもしれない、なんてことは微塵も考えずに激情に任せて壁を殴り付ける。

 ドゴッと音を立てて穴が開いた壁に血の気が引いた。

 あれー、わたしってこんな怪力だったっけ?

 手は全く痛くなかったし、土下座している人たちは震え上がっただけで襲い掛かっては来なかった。


「ひいぃっ」

「お助けを!」

「誰か、魔王様をお連れしろ!」

「へい、今すぐに!」


 まるで蜘蛛の子を散らすように、土下座していた人たちの大半が何処かへ走って行く。

 ……若干、へい、とかおかしな返事が混ざっていたけど。


「ど、どうぞお座りください。救世主様」


 いきなりの救世主様扱いに騙されたりしない。

 無言で見つめると、冷や汗を流し始めた。


「誰かっ救世主様に酒をお持ちしろ!」

「あ、お酒は苦手なんでいりません」

「バカヤロウ! き、きゅ、救世主様が酒を飲むわけないだろうが!」

「すまねぇですだ救世主様! 今すぐに美味しい水をお持ちしますだ」


 だから何で若干変なのが混じってるんだ。

 勧められるままにきらびやかでフカフカの椅子に座る。

 これって異世界トリップ?まさか逆ハーレム……何てね。おっさんしかいないからそれはいらない。


「魔王様を連れて来ました!」

「おお、こちらに」


 おっさんその一が何かを抱えて戻って来た。




 その腕の中には──スヤスヤと眠る赤ちゃん。




「……赤ちゃん?」

「どうか、どうかお願い致します。やっと魔王様が復活なさったというのに、このままでは我ら魔族は勇者一行に一方的に蹂躙され死に絶えてしまいます」

「その子の両親は」

「魔王様に親はおりません。前勇者に封印された魔王様は、御自身を赤子に戻すことで何とかその封印を破ることが出来ました……ですが、封印の代償と言うべきか魔王としての記憶と勇者と戦う術をお忘れに……」


 ううう、と色んな液体を顔中から分泌して泣き出したおっさんその一。

 ちょ、魔王に掛かりそうだよ涙?鼻水?が。


「あぅ……、う?」


 不意にパチッと目を開いた魔王は手足をジタバタと動かして暴れ出した。

 そりゃ目が覚めたら顔面(色んな液体で)ぐちゃぐちゃのおっさんが目の前にいたら逃げたくもなる。


「魔王様っ怒りをお納めください」

「土下座しても意味ないと思いますけど。……貸してください」


 ──まだ二十代前半だけど、赤ちゃんの扱いには慣れている。

 歳の離れた姉によく甥っ子を押し付けられたっけ。

 夜泣き、ミルクから始まりオムツに沐浴までマスターした。

 わたしには子どもどころか彼氏すらいないのに。


「きゃふぅ、あうー」

「赤い瞳が綺麗だねー」


 すっかり目を覚ました魔王(赤ちゃん)を抱いてあやしていると、何やらキラッキラした視線を向けられた。


「おおっさすがは救世主様」

「魔王様が喜んでおられる」

「おだてられても身代わりになるつもりはありませんから、戦えませんし」


 壁は、あれだ。

 きっと物凄く脆かっただけで、わたしが凄いわけじゃない。


「大丈夫です。勇者の剣は魔力の流れを断ち切るものなので、人間であり魔力を持たない救世主様には紙で指を切る程度の痛みです」

「それって結構痛いじゃないですか!」


 思わず怒鳴ってしまった。

 え、だって地味にめちゃくちゃ痛いよあれは。


「ひいぃっ!」

「救世主様ー怒りをお納めくださいっ」


 いちいち大袈裟に土下座する彼らに、怒りも消え失せる。


「……もう怒ってないですから」

「あうー」


 わたしの言葉に同意するように魔王も声を上げる。

 もしかして、なつかれた?


「さすがはっ」

「もうそれはいいです」


 救世主様、と続きそうだった言葉を遮る。

 冷ややかな視線を送ると、さらに怯えられた。

 魔王はきゃっきゃしてるのに。


「……もっと若い人はいないんですか? 魔王の代わりになれるような」

「我々より若い者は皆、魔王様と同じ赤子で……何の罪もない赤子にも死ねと仰るんですか!?」

「何の関係もない人間に魔王の身代わりになれって言ったくせにもう何なんですかさっきからいい加減にしてください」


 そろそろ興奮し過ぎで頭の血管がパーンとなるんじゃないだろうか。

 ……血管パーンを想像してしまって、ちょっと気分が悪くなった。


「だ、だっで、ぎゅーぜーじゅざまが、だずげでぐれないっで」

「濁点を多用して聞き取りにくいんですけど。後汚い汁を撒き散らさないでください」


 ……あれ。

 何か、おっさんが乙女のように頬を赤らめた。


「だっうー!」


 不意に魔王の指先から黒い塊が飛び出して顔を赤らめていたおっさんの額に直撃した。


「ぴぎゃー!!」


 ぴぎゃーって、ぴぎゃーはないでしょ。


「……何か、とてつもなく不憫に思えて来ました。身代わりって、ただ座ってろってことですか?」


 とてつもなく嫌だったけど、まあ、死ぬわけじゃないなら善処してあげるかと上から目線で考えていた。


「やってくださるんですか!? はい! ただ座ってたまに高笑いして私どもを踏みつけてくださればそれだけで……」

「何か変なの混ざってる!?」


 とりあえず勇者をどうにかしようと考えていたわたしは、知らなかった。

 魔王が赤ちゃんだったことで空気中の魔力濃度が薄くなって弱り、おっさんになっていた彼らがある日完全復活した魔王の魔力の恩恵により若々しい美青年になることも、ほぼ日常的に罵ったせいでそんな彼らがドの付くMになることも、魔力を日常的に身体に取り込んでいたわたしが不老になり、そして女王様と呼ばれることも。


「水を持って来ましただ女王様ー、あ、救世主様ー」


 むしろそんなの、一生知りたくなんてなかった。

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