第1話 昨日死んだ親友からLINEが届いた
ミステリーもの初めて書いたかも。現代に欠かせないSNSを利用したミステリー作品。死んだ親友から来るはずのないLINEが一。親友の死の真相は一
感想やブクマしていただけると幸いです。
スマホの通知音で目が覚めた。
カーテンの隙間から朝日が差し込み、時計を見ると午前七時ちょうど。
「……誰だよ、こんな朝から」寝ぼけたまま画面を見る。
その瞬間、眠気が一気に吹き飛んだ。
黒瀬 蓮『おはよう』
「…………は?」喉の奥で変な声が漏れた。
画面を何度見直しても、送り主の名前は変わらない。
黒瀬蓮。昨日、葬式だった親友の名前だ。
思わずベッドから転げ落ちる。
「そんなわけ……ないだろ……」
震える指でトーク画面を開く。
そこには、今まで何気なく交わしてきた会話が並んでいた。
『今日カラオケ行く?』
『テスト終わったらな』
『昼飯おごれ』
『嫌だ』
いつものやり取り。最後の会話は三日前。
『放課後ちょっと用事ある。また明日な』
しかしその”明日”は来なかった。
交通事故。
突然の訃報。
昨日の葬儀。
焼香の煙。
泣き崩れる蓮のお母さん。
棺の中で静かに眠る蓮。
全部、昨日の出来事だ。俺は震える手で返信を打つ。
『……誰?』送信。既読はつかない。
当たり前だ。
蓮は死んでいる。
「悪質ないたずらか……?」そう呟いた瞬間。
通知が鳴った。ピコン。
『犯人はまだ生きてる』全身の血が凍りついた。
事故じゃ、なかったのか?
昨日。学校はいつも通りだった。
「悠斗、昼飯買いに行こうぜ!」
昼休みのチャイムが鳴ると同時に、蓮が俺の机を軽く叩いた。
「またパンか?」
「今日は新作らしいんだって!限定十個!」
「限定って言葉に弱いよな、お前」
「男なら限定にロマンを感じるだろ?」
「知らん」
くだらないやり取りをしながら二人で購買へ向かう。
案の定、廊下は戦場だった。
「うおっ、人多すぎ!」
「急げ急げ!」購買のおばちゃんがパンを並べた瞬間、生徒たちが一斉に押し寄せる。
「限定十個でーす!」
「やばっ!」蓮は人混みへ飛び込み、数秒後には得意げな顔で戻ってきた。
「見ろ」右手には目的の新作パン。
「……すげぇ」
「これが経験の差だ」
「何の経験だよ」思わず笑ってしまう。
結局、俺はいつもの焼きそばパンしか買えなかった。
教室へ戻り、窓際の席で昼食を食べる。
「そういえば、数学返ってきたぞ」
「聞くな」
「何点?」
「四十八」
「赤点じゃねぇか!」
「笑うな!」蓮は腹を抱えて笑い始めた。
「お前は?」
「九十九」
「は?」
「一問ミスった」
「もう友達やめる」
「じゃあ昼飯もらう」
「それは嫌」
また笑い合う。
本当に、いつも通りだった。
「そういや夏休みさ」
蓮が牛乳を飲みながら言った。
「どっか行かない?」
「どこ?」
「海」
「男二人で?」
「別にいいだろ」
「暑いし」
「じゃあ山」
「虫」
「じゃあゲームセンター」
「それなら…」
「決まり!」
そう言って蓮は笑う。
その笑顔は、昔から変わらなかった。
小学生の頃、初めて話しかけてきたときも、こんな顔だった。
「ゲーム好きなんだろ?」
たったその一言で始まった付き合い。
気付けば十年以上、一緒にいた。
高校に入っても、席が離れても、毎日のようにくだらない話をして笑っていた。
だから。
この日常が終わるなんて、一度も考えたことがなかった。
午後の授業。
先生の声を聞き流しながら、蓮は小さく紙を丸めて俺に投げてきた。
広げる。
『今日の放課後ヒマ?』俺はシャーペンで返す。
『寄り道する?』蓮は少し考え、
『ごめん、今日は用事』と書いて返してきた。
珍しい。
放課後に予定があるなんて、蓮から聞いたことはほとんどない。
授業が終わると、俺は昇降口で待っていた。
「今日帰り寄り道する?」そう聞くと、蓮は少しだけ困ったように笑った。
「悪い。ちょっと用事」
「彼女?」
「違うって」笑っている。
でも、その笑顔はどこか無理をしているように見えた。
「また明日な」
「ああ、また明日」
俺は手を振った。
蓮も振り返さずに片手だけ上げる。
その後ろ姿を見送ったのは、それが最後だった。
夜八時過ぎ。部屋でゲームをしていると、勢いよくドアが開いた。
「悠斗!」
母さんだった。
顔色が真っ青で、息を切らしている。
「どうした?」
母さんは何かを言おうとして、言葉を詰まらせた。
「……蓮くんが……事故に遭ったって」頭が真っ白になった。
「え……?」
「病院に運ばれたって、お母さんから連絡が……!」
気づけば財布とスマホだけを掴み、家を飛び出していた。
タクシーの窓から流れる夜景が、いつもより遅く感じる。
(間に合え……)
(頼む……)
(嘘だって言ってくれ……)
何度も心の中で繰り返した。
病院へ駆け込むと、消毒液の匂いが鼻をつく。
救急外来の前には、蓮の両親がいた。
お母さんは椅子に座り込み、肩を震わせながら泣いている。
お父さんは俯いたまま、何も話さなかった。
「おばさん……!」
俺が声を掛けると、お母さんは涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げた。
「悠斗くん……ごめんね、ごめんね……」
その言葉で、嫌な予感が確信に変わる。
診察室の扉が静かに開いた。
医師がゆっくりと頭を下げる。
「……残念ですが」
その一言しか聞こえなかった。
足から力が抜ける。
世界から音が消えた。
看護師に案内されるまま部屋へ入る。
そこには、白い布を胸まで掛けられた蓮が眠っていた。
まるで眠っているだけだった。
「おい……起きろよ」
返事はない。
「冗談だろ……?」
肩を揺らそうとして、手が止まる。
冷たい。
あまりにも冷たかった。
「またゲームの続きやるって言ったじゃねぇか……」
昼間まで笑っていた親友が、もう動かない。
その現実だけが、胸を締めつけた。
警察官が静かに近づいてきた。
「黒瀬さんは横断歩道で信号待ちをしていたところ、乗用車にはねられました」
「……事故、なんですか?」
「現時点では、その可能性が高いと考えています」
事故。
その言葉が、妙に軽く聞こえた。
たった一言で、蓮がいなくなった理由を片づけられてしまった気がした。
翌日。
空は雲ひとつない晴天だった。
こんな日に葬式なんて、似合わない。
黒い礼服に身を包み、俺は葬儀場へ向かった。
受付を済ませ、中へ入る。
祭壇の中央には、制服姿の蓮の遺影。
写真の中の蓮は、いつものように笑っていた。
昨日まで、その笑顔を見れば笑い返せた。
なのに今日は、その笑顔が胸をえぐる。
焼香の順番が回ってくる。
線香の香りが静かに漂う中、俺は遺影の前に立った。
(……なんでだよ)
(昨日、「また明日」って言ったじゃないか)
心の中で問いかけても、返事はない。
棺の中の蓮は穏やかな表情で眠っていた。
まるで、少し疲れて昼寝をしているだけのようだった。
最後のお別れの時間。
一輪の白い花を棺へ入れる。
「…またな」
やっと口にできた言葉は、それだけだった。
その瞬間、蓮のお母さんの嗚咽が静かな式場に響く。
周りのクラスメイトも涙を流していた。
それでも俺だけは、涙が出なかった。
悲しくないわけじゃない。
ただ、まだ信じられなかった。
また明日、教室へ行けば。
いつものように「悠斗!」と笑いながら話しかけてくる。
そんな気がしていた。
だから俺は、自分が親友を見送ったという現実を受け入れられずにいた。
朝。「犯人って、どういう意味だ……」スマホを握り締めたまま学校へ向かう。教室は重い空気だった。蓮の席だけが空いている。
誰も座らない。
誰も話しかけない。
担任が静かに言う。
「黒瀬の件は、本当に残念だった」
それ以上、言葉は続かなかった。
昼休み。俺は親友の佐伯にスマホを見せた。
「これ見てくれ」
「……は?」
「今朝届いた」
「いやいや、誰かのいたずらだろ」
「でもこのアカウント、本物なんだ」
アイコンも、トーク履歴も、電話番号も全部同じ。
佐伯も笑えなくなった。
「……気味悪いな」
佐伯はスマホを見つめたまま、小さく呟いた。
「だろ」
「でもさ、本当に蓮のアカウントなんだよな?」
「ああ」俺はトーク画面をスクロールする。
去年の文化祭。
冬休み。
春休み。
どうでもいいスタンプの送り合い。
テスト前の愚痴。
全部、本物だ。
誰かが昨日今日で用意できるようなものじゃない。
「電話、かけてみたのか?」
佐伯に言われ、俺は通話ボタンを押した。
呼び出し音は鳴らない。
数秒後、機械的な音声が流れた。
『おかけになった電話番号は、現在使われておりません』そこで切れた。
「やっぱり……」
「電話はダメか」佐伯が腕を組む。
「じゃあ、スタンプ送ってみろ」
「スタンプ?」
「既読が付くかもしれない」
俺は適当な猫のスタンプを選び、送信した。
画面には「送信しました」と表示される。
だが、一分待っても既読は付かない。
二分。
三分。
変化はない。
「返信は?」
「来ない」
「じゃあ、本当に朝だけなのか……」
その言葉に、俺はハッとした。
そうだ。
今朝届いたのは、ちょうど七時だった。
偶然なのかと思っていた。
でも、もし偶然じゃないとしたら。
「……毎朝七時」
「え?」
「蓮から届いたの、七時ちょうどだった」
佐伯も時計を見る。
「じゃあ明日も七時に届くかもしれないってことか」
背筋がぞくりとした。
俺はもう一度トーク画面を開く。
そこには変わらず一文だけ。
『犯人はまだ生きてる』
その短いメッセージを見つめていると、不意にあることに気付いた。
「……時刻」
「何?」
「送信時刻」佐伯も画面を覗き込む。
表示されている送信時刻は、午前七時〇〇分。
しかし、その下には小さく「既読」の文字が表示されていなかった。
「俺が返信したメッセージにも既読は付いてない」
「つまり……向こうは読めない?」
「いや、それだけじゃない」
俺はゆっくり首を振る。
「返信できないんじゃなくて……返信する相手が、もういないんだ」
教室に沈黙が落ちる。
窓の外では運動部の掛け声が響いている。
いつもと変わらない学校。
なのに、俺の日常だけが少しずつ壊れ始めていた。
放課後、俺は事故現場へ向かった。
花束がいくつも供えられている。
道路には事故の跡なんてほとんど残っていない。
近くで手を合わせていた女性に話しかける。
「ここで事故があったんですよね」
「ええ……かわいそうに」
事故…やっぱり事故なのか。
そう思って立ち去ろうとした、そのとき。
「神崎くん?」
振り向くと、クラスメイトの白石紗月が立っていた。
「白石?」
「やっぱり来てたんだ」彼女は献花に視線を落とした。
「……私も、事故だけじゃない気がしてる」
「え?」
「蓮くん、事故の前日に変だった」
「変?」
「ずっと後ろを気にしてた」胸がざわつく。
「それに、『もし何かあったら神崎を頼む』って言われた」
「なんで今まで……」
「信じてもらえないと思ったから」
二人とも言葉を失った。
夕日が道路を赤く染める。
本当に事故だったのか。
それとも――。
その夜。
眠れなかった。
何度もスマホを見返す。
『犯人はまだ生きてる』
たった一文。でも、その一文が俺の日常を壊してしまった。
午前七時。通知音。心臓が跳ねる。画面にはまた、蓮の名前。
『赤い傘』一通だけ。
数秒後。
『女』そこでメッセージは止まった。
「赤い傘の女……?」
意味が分からない。
カーテンを開ける。
学校へ向かう人たちが歩いている。
その中に、一人だけ真っ赤な傘を差した女性がいた。
女性は立ち止まる。
ゆっくりと顔を上げる。
そして一
まるで俺が窓から見ていることを知っているかのように、微笑んだ。
思わず息をのむ。
次の瞬間、女性は人混みの中へ消えていった。
俺は急いでスマホを見る。
蓮とのトーク画面には、新しい通知が一つだけ表示されていた。
『見つかった』
背筋を冷たいものが走った。
赤い傘の女怖すぎる。なんで笑ってんだよ怖いって。なんかホラー感満載のミステリー作品になってますが、初のミステリー作品執筆なのでご了承ください。第2話お楽しみに!!




