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吹奏楽狂想曲  作者: 双鶴


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2/11

第2話 発表会より応援

 次の日、教室に入った瞬間にユウキが言った。


「奏多、今日も応援だってよ」


「……マジかよ」


 机に荷物置く前にそれ言う?

 いや、言うんだよなコイツは。悪気ゼロで。


「発表会どうすんだよ。あと二週間だぞ?」


「知らね。うち野球部の学校だし」


「いや、知ってるけどさ……」


 こういう会話、最近ずっとしてる気がする。

 てか、してる。毎日。


 授業が終わると、オレたちは部室に向かった。

 廊下の窓からグラウンドが見える。

 野球部が練習してて、チアの子たちがその横で合わせてる。


 ……あの子もいた。


 見つけた瞬間、心臓がちょっと跳ねた。

 いや、ほんとちょっとだけ。たぶん。


「奏多、見てんのバレバレだぞ」


「見てねぇし」


「はいはい」


 ユウキはニヤニヤしてる。

 殴りたい。いや、殴らないけど。


 部室に入ると、すでに上級生が集まっていた。

 顧問の先生も来ていて、ホワイトボードの前に立っている。


「はい、全員揃ったな。じゃあ連絡するぞ」


 顧問は腕を組んで、いつもの“伝統が全て”みたいな顔をしていた。


「明日から三日間、野球部の強化練習に合わせて応援練習を増やす。発表会の練習は一旦ストップだ」


 部室がざわつく。


「え、発表会近いのに……」


「マジかよ……」


 小声があちこちから漏れる。

 でも、誰も大きな声では言わない。

 言えない。

 この空気で言えるやつ、たぶんいない。


 オレも言えない。

 言いたいけど、言えない。


「うちは伝統的に、野球応援が最優先だ。これは毎年のことだ。わかったな?」


 顧問の言葉に、全員が「はい」と返事する。

 オレも言った。

 言うしかなかった。


 練習が始まる。

 応援曲ばっか。

 発表会の曲はケースの中で眠ったまま。


 トランペットを吹きながら、オレは思った。


 ……なんか違うよな。


 音楽やりたくて入ったのに、なんで応援ばっかなんだよ。

 いや、応援が悪いわけじゃない。

 でも、これじゃ“吹奏楽部”じゃなくて“応援部”だろ。


「奏多、音荒れてるぞ」


「わかってるよ……」


 ユウキに言われて、オレは深呼吸した。

 でも、気持ちは落ち着かない。


 練習が終わる頃には、唇がまた痛くなっていた。

 ケースにトランペットをしまいながら、オレはため息をつく。


「奏多くん!」


 振り返ると、チアの子がいた。

 今日も笑ってる。

 なんでそんなに眩しいんだよ。


「今日もおつかれ! 明日もよろしくね!」


「あ、うん。まあ……頑張るわ」


 また普通の返事しかできなかった。

 なんでだよオレ。


「じゃあね!」


 彼女は手を振って走っていった。

 その背中を見ながら、オレは思った。


 ……オレ、何やってんだろ。


 音楽やりたいのに、応援ばっか。

 好きな子には普通の返事しかできない。

 名前負けしたくないって言いながら、何もできてない。


 でも、明日も吹くんだろうな。

 吹くしかないから。


 そんなことを考えながら、オレは帰り道を歩いた。


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