エピローグ まだ届かないけど
夏が終わる頃、オレは校舎裏でトランペットを吹いていた。
甲子園応援は全部終わった。
発表会も終わった。
でも、オレの音はまだどこにも届いていない気がした。
それでも——
吹く理由は、前よりはっきりしていた。
応援のためじゃない。
誰かに褒められるためでもない。
チアの子に見てほしいからでもない。
“オレの音を、ちゃんと知りたいから”。
夕方の風が、ベルの中を抜けていく。
音が少しだけ遠くまで飛んだ気がした。
「奏多」
背後から声がした。
振り返ると、ユウキがジュースを二本持って立っていた。
「またここで吹いてんのかよ。好きだな、ほんと」
「……まあな」
「でも、前よりいい音してるぞ」
「そうか?」
「うん。なんか……迷ってない音」
迷ってない音。
そんなこと言われたの、初めてだった。
ユウキはジュースを一本投げてよこした。
「来年さ、もっといい音出そうぜ。
応援でも、発表会でも、どこでも」
「……ああ」
そのとき、校舎の向こうから声がした。
「奏多くーん!」
チアの子が手を振っていた。
でも、今日は走ってこなかった。
ただ、遠くから笑って手を振っただけ。
その距離が、なんかちょうどよかった。
オレは軽く手を上げて返した。
——届かなくてもいい。
今はまだ、それでいい。
いつか届くかもしれないし、届かないままかもしれない。
でも、オレは吹く。
名前負けしたくないから。
藤倉奏多の“音”は、まだ途中だから。
夕焼けの中で、オレはもう一度トランペットを構えた。
音は小さかった。
でも、確かにそこにあった。
青春は、まだ続く。




