第1話 応援席の太陽
太陽、近すぎだろ。
オレはトランペットを構えたまま、じりじり焼かれる腕を見下ろした。
グラウンドの照り返しがえぐい。
金管楽器って、熱くなるとマジで持てないんだよ。誰だよ、こんな日に試合入れたの。
「奏多ー! 次、チャンスパターン入るって!」
同じ一年のユウキが叫んだ。声デカい。
いや、暑さで頭やられてんのかもしれない。
「わかってるって!」
返事しながら、オレはついチアの列に目をやってしまう。
……いた。
あの子。
名前呼ぶだけで心臓が変な跳ね方する、あの子。
彼女は笑ってた。
野球部のエースがこっち見て手を振ったら、嬉しそうに返してた。
……まあ、そうだよな。
オレたち吹奏楽部なんて、ただのBGMだ。
誰も見ちゃいない。
オレの音なんて、なおさら。
「いくぞ奏多!」
「おう!」
太陽に焼かれながら、オレはまた同じ応援曲を吹き始めた。
もう何回目だよ、このフレーズ。
“パーパパパパー、パーパパパパー”
単調すぎて、音楽って感じがしない。
でも、吹くしかない。
名前負けしたくないから。
藤倉“奏多”。
こんな名前つけられた以上、音で勝負するしかないだろ。
でも、今のオレの音は、ただの騒音の一部だ。
「奏多、唇大丈夫か?」
ユウキが横目で聞いてくる。
「大丈夫じゃねぇけど、大丈夫って言うしかねぇだろ」
「だよなー。オレも死にそう」
そんな会話をしながらも、手は止められない。
吹奏楽部は“応援の歯車”だから。
試合が動くたびに、オレたちも動く。
点が入れば盛り上げ、ピンチなら鼓舞する。
でも、誰もオレたちの名前なんて知らない。
それでも吹く。
吹くしかない。
試合が終わったのは、夕方近くだった。
汗でシャツが肌に張りついて気持ち悪い。
トランペットケースを肩にかけて、校舎に戻る。
「奏多くん、おつかれ!」
振り返ると、さっきのチアの子がいた。
「え、あ……お、おつかれ」
なんでオレ、こんな普通の返事しかできねぇんだよ。
「今日、すごかったね! 野球部、勝ってよかった!」
「あ、うん。まあ……よかったな」
彼女は笑って手を振って、チアの仲間のところへ走っていった。
その背中を見送りながら、オレはため息をついた。
……届かねぇな。
音も、気持ちも、全部。
でも、吹くしかない。
オレはトランペットを選んだんだから。
名前負けしたくないから。
藤倉奏多の“音”は、まだ誰にも届いてない。
でも、いつか届くって信じてる。
いや、信じたいだけかもしれないけど。
そんなことを考えながら、オレは部室へ向かった。




