表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ルナティックGT!  作者: 長物守
ACT.01「ムーンランナー」
3/11

ムーンチャイルド・ハイスクール

穏やかな日常の中、少年たちの眼が童心に燃える。

かりそめの太陽が沈むまで、彼らは隠した牙をそっと研ぐ。

月の夜が迎えに来るまで、彼らは年相応の高校生でいられた。


だが、カケルはもう走り始めた……逸る気持ちが加速してゆく。


退屈な授業の先に今、のちに伝説となるバトルが待ち受けているともしらずに!

 ギリギリで教室に滑り込んだカケルを、退屈な一時限目の授業が待っていた。

 初老の教諭が巨大な光学スクリーンに、年表を広げてブツブツと念仏のような講釈を続ける。それを手元のノート型端末で眺めながら、カケルの心は高揚していた。

 謎の少女アルと共に現れた、オリジナル世代のモビル・モービル。

 早く走りたい……再び走り出したい。

 こんどはもっと速く、そして強く。

 最初の愛車が最後に守ってくれた、この命を再び燃やしたい。


「っと、メッセージ? 授業中だってのに、まったく」


 カケルは思わず教室の周囲をぐるりと見渡した。

 窓際の席からは、ちょっと離れた場所で少年が振り返る。彼はニシシと笑ってノート端末を指さした。しかたがないので、小さな音量でマイクとスピーカーの範囲を調整する。

 すぐに腐れ縁の親友からたのしげな声が送られてきた。


『よう! 昨晩どうだった? 姉貴の言う通りだったろ?』


 彼の名は、リョウヤ=ヤマブキ。アルクと同じ、小さい頃からの幼馴染だ。昨夜のモビル・モービルは、彼の姉が墜落を教えてくれたのである。

 そう、ときどき月には隕石が落ちる。

 それは、300年前の過去からの贈り物(ギフト)。今より遥かに発達したタキオン粒子文明の、その絶頂期の産物だ。


「本当にあったよ、凄い車が。……なんででも、姐御は僕に?」

『姉貴は自分の車に夢中だからな。それと、罪滅ぼしなんじゃねーの? 一緒に走っててカケルが事故ったんだからさ』

「あれは僕のミスだよ。姐御のスピードについてけなかったし、他の連中に背後から撃たれた。そういうのを許してしまう甘さが、あのバトルではあったんだ」


 そう、カケルは先日初めての敗北と共に愛車を失った。リョウヤの姉、ミサキ=ヤマブキと一緒に走ってて、他の走り屋にからまれたのだ。(あお)られてバトルに突入し、車列は互いに噛みあう獣のようにもつれて、そしてドーム都市の外へ。

 リージョン横浜から都心部、リージョン大江戸までのスピードが乗る真空のハイウェイ。そこはモビル・モービルを駆る者たちにとっては、絶対零度の闘技場(コロシアム)でもあるのだ。


『いい車だったよな……フォックスPZさ。遊べる車だし、俺が脚をいじったし』

「それに、ナンパには絶好の女の子受けするデザインだし?」

『それな! 海にも山にも行きたかったよ。ちょっとこじゃれたハッチバックでさあ』

「悪いけどリョウヤ、次の車は2シーターなんだ。もうナンパにはいけないよ」


 突然、リョウヤが立ち上がった。

 彼は驚きの表情でカケルに振り返る。

 あちゃー、となったがその時にはもう遅かった。


「ちょ、なんでだよ! 女の子乗せられないじゃんかよ!」


 周囲の同級生が唖然(あぜん)とする中、教師がゴホン! と咳払いをする。

 それでリョウヤも、思わず椅子を蹴ってしまったことに赤面した。


「あー、その、なんだ。ヤマブキ君。授業はもっと静かに。それと、異性交遊もいいが、君にはもう少し歴史への認識が必要だねえ。今の点数じゃ単位あげられないよ?」

「す、すんません先生! 落第だけは勘弁で!」

「はいはい、とりあえず座りなさいねえ」


 笑いが巻き起こる中、リョウヤはバリボリと頭をかきながら着席する。

 同時に、ぼやきが再びカケルの端末に小声で飛び込んできた。


『ちっくしょー、恥かいた……それより、2シーター? え、なんで?』

「2ドアのクーペフレームなんだ」

『お前と俺が乗ったら、もう終わりじゃんかよ。てか、お前はアルクがいるからいいけどさあ。俺はどうするんだよ、俺は』

「まあ、セッティング出す時はアルクが乗るけど……バトルになったらもう、誰も横には乗せない。僕、また走り出すためにそう誓ったんだ」


 そもそも、アルクがいるからいいという解釈はどういう意味だろうか? 快活で闊達、小柄な少女は頼れるメカニックだ。小さい頃から一緒だし、そういう意味ではリョウヤも同じなのだが。

 そう、カケルは気付いていない……あまりにも日常の一部過ぎて気付けない。

 ツインテールの美少女アルクは、学校ではちょっと噂の美人姉妹なのだ。姉とはなにもかも真逆なのだが、そのギャップから男子に人気がある。

 姉にはちょっと、近寄りがたい雰囲気があるからだ。

 そんなことを思っていると、教師は「ここは試験に出すからねえ」と声のトーンを上げる。周囲もざわめき、そして静寂の中でキーボードを叩きだした。


「えー、今から300年ほど前です。西暦2124年、大地球戦争が勃発しました。民族や宗教、経済格差に権威主義……人類の歴史は絶えず戦いを繰り返し、その都度地球は傷ついていったのです」


 ――大地球戦争。

 それが人類最後の世界大戦だ。戦場は宇宙にもおよび、機動兵器としてモビル・モービルが生まれたのだ。輸送や高速移動に特化したモービルモードから、人型機動兵器のモビルモードへ変形する可変装脚車両……たちまち戦場の主役となったモビル・モービルは、最終決戦である低軌道戦役に大量投入されたのである。

 自然の手にゆだねられた地球に、今はデブリのリングがあるのはそのなごりだった。


「でも、皮肉なもんだよね。地球を取り上げられたことで、人類は戦争をしなくなったんだから」


 独り言ちて、カケルは小さな溜め息をこぼす。

 古い国家の枠組みが崩壊する中、地球脱出と月への移民を先導したのは企業だった。兵器だったモビル・モービルは、月の再開発のための重機として生まれ直し、今は最新鋭の第四世代型が普通に売られている。

 人類はそれぞれの文化圏、民俗や宗教ごとにことなるドーム都市群、複数のリージョンに住み分けられたのだ。そして真空の宇宙で隔たれたことで、衝突も摩擦も激減したのである。


「それよりも、っと。オリジナル世代のモビル・モービルって、みんなああなのかな? アルみたいな女の子、えっと、タキオン粒子生命体って言ってたな。それって」


 実は、300年前の情報に関しては、各企業の機密合意によって情報が統制されている。当時のオーパーツのいくつかはもう、現在の人類の文明レベルでは再現不能であり、一部の大企業がその技術を独占しているという噂まであった。

 そう、だから当時の全てがオーパーツなのである。

 AI判定によるオーパーツの度数、オーパーセンテージと呼ばれる値が80%を越すものは、市民の所有が禁じられていた。

 だから、昨夜回収したオリュオーン911-TSと、その中から現れたアル……それはまさしく、禁忌の力を秘めた太古の遺産でもあるのだ。


「けど、僕は乗るよ……乗りこなしてみせる。あ、そういえば」


 今度はカケルから、そっとリョウヤにメッセージを飛ばしてみる。

 今回の宝探しは、彼女の姉であり走りの師匠、ミサキからもたらされた情報だったからだ。彼女はこのリージョン横浜ではちょっとした顔で、走り屋たちの情報網を常に中心で把握している人物の一人だった。

 愛車も一昔前の第三世代型という、なかなかにシブい姉貴分である。


『ああ、姉貴? 今夜会えるんじゃねえかな。いつもの場所にみんなといると思う』

「よかった。姐御にもお礼を言いたくて」

『いいって、そんなの。姉貴、バカだしさ。あー、でも行くか? 結構姉貴目当てでギャルが集まってくるんだよなあ。ウヒヒ、かわいい子がいたら、なあカケル!』

「だから、僕の車には乗せないって。……リョウヤも車買いなよ。中古にも結構掘り出し物があるんだしさ」


 一瞬の沈黙があって、そして妙にリョウヤの言葉が慎重になった。

 モビル・モービルは市民の足だが、それはエアボードや空中モノレール等、ドーム都市では多岐にわたる。タイヤで舗装路を走るのは、単純にその方が効率がいい事業があるからだけだ。大量輸送のために変形システムを一部捨て、作業用アームだけを持つ大型トレーラーなどがそうである。

 あとは、趣味……そう、伊達(だて)酔狂(すいきょう)で集まる走り屋たちくらいだ。


『なあ、カケル。車は楽しくやろうぜ? お前、このままだとホントやばいよ』

「……そう、かな」

『俺は車、まだ買わないよ。毎年何人の走り屋が死んでる? 俺は外出はエアボードとバス、モノレールで十分さ』

「ナンパはじゃあ、これからは?」

『それなんだけどよ! モビルモードはなくていいから、イカした愛車がいつかほしいよな。でかいウーハー積んでさ、キラキラした女の子を沢山乗せてさ!』

「うん。いいね、リョウヤらしいや」


 リョウヤとは、アルクと三人で免許を取りに教習所にも通った。彼の運転は速くはないが、ごく普通の安全運転で乗る者全てを安心させるような、そんな走りだ。

 だからカケルは、彼の隣に乗るのが好きだったし、ナンパにもよく付き合った。

 カケルがいた方が成功率が高いなんて、よくわからないことを言われながら。

 でも、リョウヤとはこれからも親友だが、走る領域が違う。

 それでも、彼との日々は決して終わらない。

 カケルがまた事故って、もし命を落とさない限りは永遠だ。


「前の車さ、フォックス。あれ、直らないかな? リョウヤも気に入ってたしさ」

『ありゃもう駄目だろ、姉貴も無理だって言ってたしさ。アルクんちで今頃スクラップだろ?』

「……今朝、見てきた。あれは……全部僕のせいだ」

『やっぱ、パワーを上げて武器を強化するよりさ。本革のシートにしたり、音響周りいじりゃあよかったな。でも、お前が生き残ってくれてよかったよ。いやほんとマジで』


 そして、もうすぐまたカケルは走り出す。

 再び限界の領域へと向かって、新たな力で進む日が近づいているのだ。

 とりあえずはチャイムが鳴って、授業が終わる。

 挨拶を終えて教師が出てゆくと、リョウヤはいつも通りカケルの机に駆け寄ってきた。


「と、言う訳でさ! 今夜も港に行ってみようぜ? 姉貴もお前の顔、見たいだろうしさ」

「うん。……まあ、まだ車が仕上がってないんだけどね」

「エアボードでいいだろ。つーか、久々に勝負すっか? エアボード!」

「いや、なんか……ふわふわした乗り物、苦手なんだ。演技やトリックはリョウヤの方がダンチだしさ」

「だろ? めちゃ練習したんだぜー? これも女の子にモテるためだし」


 リョウヤという男、どこまでも煩悩(ぼんのう)に正直で無邪気な少年だった。

 そんな彼の誘いで、今夜はリージョン横浜の隅にある、宇宙港へと夜遊びにでかけることになるのだった。

- TIPS -


・リョウヤ=ヤマブキ

カケルやアルクとは幼馴染で、十年来の付き合い、そして悪友。

女好きで、それを隠そうともせず陽気に学生生活をエンジョイしている。

彼自身はモビル・モービルをナンパの道具としてしか見ていないが……

ちょっと足回りにはうるさく、その腕はカケルやアルクも信頼している。

姉が地元ではちょっとした有名なムーンランナーで、昔から頭が上がらない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ