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ルナティックGT!  作者: 長物守
ACT.01「ムーンランナー」
1/11

遥かなる地球を見上げて

――時に西暦24XX年……デブリのリングに飾られた蒼と翠の惑星、地球。

その地球を汚染し尽くした人類は、自然の回復を願って月へと移住した。

そこは真空の宇宙と1/6の重力、なにもかもがギリギリの環境。

そんな中でも今、少年は走り出す……乾いて冷めた大人たちを尻目に、駆け出す。


さあ、決めようぜ――


誰が最速なんだ?


誰が最強のムーンランナーなんだ!

 少年は手を伸べ、(かかと)を浮かせて虚空(そら)に身を伸ばす。

 遥か先、掴みえない遠くに今、(あお)く輝く(みどり)の星があった。そしてそれは今、人類の過ちの代償たるデブリのリングに取り巻かれている。

 人類が地球を追われて300年……この月から見上げる母星は遠過ぎた。

 少年はそれでも、その光だけは今も自分たちを包んでくれてると思う。

 アースライトの優しい輝きは、真空の宇宙でも月面を静かに照らしていた。


『って、カケル! ねね、ちょっと! 姐御(あねご)の言ってた落下物ってこれじゃない?』


 不意に、幼馴染(おさななじみ)の声がヘルメットのスピーカー越しに耳朶(じだ)を打つ。

 振り返れば、そこには太古の戦士が銃を支えに俯いていた。片膝をついて、ライフルに身を預けるようにその車両は沈黙している。そう、車両だ……人型の機動兵器として生まれたそれは、300年前からずっと車両として登録されている汎用機動兵器だった。

 カケルと呼ばれた少年は、少女の声に歩み寄る。


『ごめんごめん、アルク。これ……姐御の言ってた通りだね』

『だよね。姐御も姐御だよ! なんでこんな案件をカケルに融通するのさ!』


 弾んだ少女の声は、宇宙用のスーツの無貌(むぼう)なヘルメットにも憤りを感じさせた。だが、実際にはカケルにとってはありがたい話だった。

 二人の前に今、全長8m前後の巨人が沈黙していた。

 それは、まごうことなき兵器……人殺しの武器、道具だった。

 だが、全身にダメージを刻んだその姿が、いやに神々しくて愛おしい。


『とりあえず、モービルモードにしてみるね。解析コードから端末でそこまではいけそう。でも、このボロボロの状態……なんか、負けて死んだ騎士みたいな、さ』

『でも、負けて終わらない雰囲気、あるよ。この車……うん、雰囲気がある』

『はいはい、だったらやってみるね。アクセス完了、モードシフト、モービルモードに』


 アルクはケーブルを通じてアクセスした携帯端末から信号を送る。若干15歳、カケルと同じ年でも彼女は一流のメカニックだった。そして、彼女の作業が300年前の遺物に目覚めの(とき)を告げる。

 そう、目の前の機動兵器は本物のオーパーツだと思えた。

 そうとしか思えないし、そう信じたい気持ちがスクラップ状態の巨人から伝わる。

 そして、アルクの操作で巨人は微動に震え、その輪郭を溶かして変えた。


『ほい、モービルモードに変形完了、っと』


 それは、不思議な車だった。

 丸いヘッドライトのしっかりとした光。全体的に流線形ながらも、どこか骨董品(アンティーク)を……美術品を思わせるライン。まるで、本来兵器だったという雰囲気がまるでない。優雅で優美で、そして力強いのに今の時代の車両とは全くたたずまいが違った。

 大きく破損しているのに、素直に変形に応じた謎の車。

 一瞬、カケルの脳裏をある可能性がよぎる。

 親友の姉が、つい最近月面に落ちた隕石の情報を教えてくれた。それが隕石でないことも添えて、彼女は楽しそうに伝えてくれたのである。

 その車両が目の前にある……間違いなく、普通のモビル・モービルではなかった。


『えっと、まずエンジンを確認するね? うわー、大昔の遺品過ぎるよこれー』


 ――モビル・モービル。

 それは、300年前の大地球戦争で用いられた汎用機動兵器。可変装脚(かへんそうきゃく)車両(しゃりょう)と呼ばれ、高速かつ高機動のモービルモードと、変形して戦闘状態により有利なフレキシブル・タクティクスを可能にするモビルモード……それがモビル・モービルである。

 高速で敵地に侵攻し、人型機動兵器として暴れる。

 300年前、そうして人類は地球に住む資格を失ったのだ。

 アルクの声が聞こえる中、カケルは車両のリアへと回った。


『カケル、これさー? エンジンがないよ。ここには折りたたまれたライフルが入ってる。え? なんで? これって』

『前じゃなきゃ後じゃない? 今の第四世代型でもMR(ミッドシップ)って珍しくないしさ』


 カケルが車両のリア方向へと歩を進めた、その時だった。

 突然、車両の後部がバクン! と開いた。

 その正面に思わず、カケルは回り込む。

 モビル・モービルは過去の太古に大量生産された兵器だ。必定、ある程度フォーマットが決まっている。モービルモードの際に、エンジンがフロント部分に収まるのがセオリーだった。

 だが、この車は違った。

 エンジンのマウント位置はもちろん、エンジンそのものが違った。

 そこには、開いた後部エンジンルームに裸の少女が立っていた。


『え……えっと、なんで……』


 そう、カケルは語彙(ごい)を喪失して選ぶべき言葉を見つけ出せなかった。なぜなら、今の目の前には全裸の少女が立ち上がっていたからだ。蒼い光を纏って、地球の輝きに身をさらした少女は、真っ白な肌と髪とでカケルを見下ろしてくる。

 その目だけが、澄んだ宝石のように緑色だった。


『マスターの消失を確認、新たなマスターの登録を希望します』


 この真空の月面で、その声がヘルメットのレシーバーにしっとりと響く。

 モービルモードになったその機体のリアウィング上に、まるで女神のような裸体が浮かんでいた。ほのかに光る彼女の声に、思わずカケルは気持ちを引きずり出される。

 そう、引っ張り出された……(くすぶ)りもやもやしていた心が弾けた。


『僕はカケル=ハセガワ。君に……君の宿るこの車に乗りたい』

『登録完了』

『……僕は名乗った。君の名は?』


 ――アル。

 それだけ言って、その幻影は消えた。幻影に思えるほどに、神秘的で厳かな乙女だった。だから、カケルはぼんやりとそのまま身動きできずに太古の遺産を見つめ続けていた。

 アルクがモビル・モービル用のキャリアーを運んできても、そうだった。

 流星となって落ちてきた、太古の文明の遺産……その力はやがて、カケルとその周囲の縁を恐るべきスピードの領域へといざなう魅了の力を秘めているのだった。

- TIPS -


・カケル=ハセガワ。

どこにでもいる15歳の少年で、ハイスクールの一年生。

偶然、300年前の遺物であるオリジナル世代のモビル・モービルを手に入れ……

そして再び、クラッシュと別れから立ち上がり、走り出す。

まだまだ走り屋ごっこ気分が抜けない反面、温和な態度の奥に強い信念を持つ。

いつか地球の大地を走る……そんなことをぼんやり考えているが――?

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