【9】喫茶店にて
町に入るなり、アーネリカは喫茶店を探して入り席に座った。店の一番奥まった席に案内され、半個室のようなそこで面接のごとく対面に座らされる。
案内ついでに注文を聞くまで待とうというのか、店員は適度に離れた場所で待機している。
「プリンアラモードと紅茶をセットで」
「じゃあコーヒーで」
正直無くても良かったのだが、店員の一人ワンドリンクの圧に負けて注文をした。
お辞儀してそそくさといなくなった店員を見送ってから、アーネリカが改めて口を開いた。
「まずは前提からお話しましょう」
「アーネリカがなんで旅をしているか?」
「はい」
わざわざこんな場所に座るという時点でなにか話があるのだろうとは思っていたが、彼女は旅の理由を開示してくれるつもりらしい。
なんというか、誠実さを言葉の端々に感じてきてはいたが、ここまでとは思わなかった。同行する以上いつか聞くことになるだろうとは思っていたが、開始早々とは予想外である。
「まず前提なのですが……私の母はモンスターを狩って生計を立てられる人でした」
「すでにすごい気配がする」
アーネリカの母。この努力の果ての怪力娘の血の源流だ。絶対凄い人だろうとは予測がつく。
そしてほんの僅か、モンスターを狩って生計を立てられるという点に超人の気配を感じていた。
「そして私にこのハルバードを与えてくれた人でもあります」
「金太郎のお母さんかな?」
何をどう解釈したらこの外見儚げ華奢深窓の令嬢にハルバードを持たせようという思考回路になるのだろうか。
まあまだ前掛けが標準装備だったレベルの幼子金太郎に超巨大マサカリを与えたとんでもお母さんの逸話が残っている日本の民としては何も言えないけれど。
「母は強い人でした……そんな母がある日、魔毒を受けて帰ってきました」
「……」
魔毒。この世界特有のものだろう。記憶を全力で探ってみても合致するものはなかった。
「だいたいお察しだとは思いますが、この世界にも万能寄りの毒消しというものはあります。しかし効かなかった」
万能寄りの毒消し……感覚的には正◯丸とか葛◯湯、あるいはビオフェル◯ンに近いものだろうか。いやこの場合病気系だが、とりあえずこれを飲んでおけば大抵のものはなんとかなるラインナップである。
それの毒版……いやだいぶ無理がある気がするけれど。
「専用の解毒剤、専用の素材が必要になったのです」
なるほど万能薬でうまく効果が出なかったから抗体が必要になったという感覚に近いだろうか。
それならば難易度は急に跳ね上がる。毒はその毒の特定、そこから有効なものを見極めていかなければいけない。魔毒という情報しか今のところないが、元の世界でも有効打のない毒、というものはあった。
フグ毒が有名だろうか。あれは対処療法しかなかったはずだ。
「だから私は旅に出て解毒剤を完成させる。父は情報を集めつつ、魔毒を受けた母を看病する。そう決めてここまで来たのです」
「それで僕、と」
納得がいった。僕が今のところしたことといえば、サソリとエビでフライを作った程度だ。
旅をしている、料理が気に入った、そんな諸々の理由があったとして、通常の2倍の給料を提示するのは流石におかしい。
がしかし、そこに『毒知識がほしい』という前提が加われば話は変わる。身の回りの世話をしてくれる、かつ母親を救うヒントになるかもしれない存在。それなら2倍という豪胆すぎる額を提示してもおかしくはない。
「……軽蔑しますか」
「別に?だって毒関連の困りごとしてたらおあつらえ向きに毒関連の人間が降って湧いただけでしょう。お互いに渡りに船、あるいは神様の思し召し?っていうのかな?」
僕はこの世界を生きる術がほしかった。アーネリカは食事を用意してくれる存在と毒に関するヒントが欲しかった。どのみち利害は一致している。
「それにそれなら話が早い。可能な限りお手伝いするよ」
「……ありがとうございます!!」
ぱっと見感動的な場面に、ドンとプリンアラモードが割って入る。山脈のごとく巨大なプリンで構成されたそれは、対面に座っているアーネリカが見えなくなるほどのサイズ感だった。
大きさに驚いて横を見れば、華奢なウェイトレスさんが汗一つかかずにそこで笑っていた。
単騎で持ってきたのか。この山脈サイズを。いやどうやって。
「さ、アーネリカ。食べ終わったら調べに行こう」
「はい、行きましょう!!」
とりあえず気持ちを切り替えるつもりで、眼の前に置かれたコーヒーを手に取りつつアーネリカの方を振り返る。
すると目の前には空になったガラスの器と、満足そうな顔をして銀のスプーンを置くアーネリカの姿があった。
「わーぉ……」
この数秒で食べきったらしい。
立ち上がりかけた彼女は、コーヒーに口をつけたばかりの俺を見て静かに座り直した。お気遣いに感謝してゆっくり飲む。アーネリカはその間何故かこちらをにこにこと見つめていた。




