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旅の拠点は亀の上!怪力少女と毒スキル持ち青年の魔物ごはん  作者: 時雨笠ミコト


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【5】掴むぜ胃袋

 衣付け以外下ごしらえ済みの食材を大量に持って帰ってきた僕を、アーネリカはぽかんと見つめていた。

そんな視線を背中に受けて、またも衣付けの作業に没頭する。心を無にするのはこれで本日何度目だろうか。

 衣付けされた食材の山を……その間にしれっと再加熱しておいた油の中に投下する。新しい油に変えたほうがいいのかもしれないが、処理がたいへん面倒くさいのでそっとその事実は目をそらすことにした。

 衣付けした食材を次から次へ油の海に泳がせる。量は先程の倍近いそれを揚げ切ってテーブルまで持って行くと、アーネリカが期待と困惑が入り混じった目で見つめてきた。


「召し上がれ」


 食べていいことは明示してから、別皿に取っておいたその食材のとある部位のフライに先に口をつける。

 揚げられてカリカリになった衣が口の中で小気味よい噛み応えを残していき、中に詰まっていた身が歯を軽く押し返してくる。身の風味と油の香りが口と鼻を蹂躙していくのがたまらない……なぜ油で揚げただけでこうも美味しくなるのだろう。最初に『揚げ』という調理法にたどり着いた人に感謝を述べたい。

 タルタルソースをフライに乗せるように掬い上げ、ちょっと多めくらいの比率のそれにかぶりつく。

 先程まで香ばしさと弾ける旨味を堪能していたはずなのに、タルタルソースをのせた瞬間に優しい美味を堪能するための料理に早変わり。

 ソースをかければソースの独特の香りとまろやかな甘みを心ゆくまで噛み締めさせてくれる。

 ああ揚げ物よ、なぜこんなにも多芸なのか。どの調味料(サポーター)ともしっかりタッグを組めてしまう器用さんめ、愛おしいじゃないか。

 アーネリカもフライを咀嚼する。アーネリカの目が見開かれ、次から次へと彼女の口へ向けてフライが消失し始めた。


「よくこんな大きさ、いえ量ですか?のプロビデンスエビが手に入りましたね」

 

 プロビデンスエビ。お前たちそんな名前だったのかエビ(推定)よ。


「エビじゃないよ」

「へ」

「こちらスコーピオンフライです」

「スコーピオン」

「ショッキングスコーピオンのフライ、が正式名称になるのかな?先に言っておくと無害だよ」

「それはわかります。ショッキングスコーピオンの毒は口にいれると爆弾が爆発したような衝撃があるので」


 ショッキングスコーピオン……お前外見だけじゃなくてそんなところまでショッキングなのか。

 まあその話は置いておいて、改めて、このフライはショッキングスコーピオンで作ったものである。どの個体か、なんて言うまでもないだろう。もちろん僕を襲おうとして一刀両断された可哀想なあの個体である。

 丸ごと持ち込むのは無理そうだったので、外で解体して

持って帰ってきた。殻などは一応埋めてきた……地面に帰ると信じたい。

 蠍は甲殻類、エビも甲殻類。元の世界でも、食用の蠍はエビやカニに近い味と言われていたのだ。安全に食べられる段階に持っていけばまず間違いなく食べられると踏んでいたが、読みはしっかり当たったらしい。

 蠍は尾に毒腺を持つ。つまり尾さえ適切に処理して切り落としてしまえば、他の部分は案外安全に食べられるというわけだ。

 そしてベニテングタケ然り、毒があるものは死ぬほどまずいか、死んでもいいと一瞬トチ狂うほどうまいかのどちらかであることが多い。

 これは後者だったわけである。この蠍美味い。

 実際アーネリカにも好評だったらしく、ものの3分で先程の倍以上あったはずのフライが消えた。胃袋はどうなっているのだろう。これが俗に言う女体の神秘というやつだろうか。

 きれいにフライを食べきったアーネリカは、ふと何かを考え込み始めたようだった。食べ終わっているのは明らかなので、食器を下げて洗いながら観察する。しばらく考えていた彼女は顔を上げ、確認するようにこう聞いてきた。


「なにかこの世界でやりたいこと……なりたいもの、目的はありますか」


 予想外の問いについ固まってしまった。それでも彼女はこちらをまっすぐ見つめているので、真面目に考えてみる。

 英雄願望、最強への渇望、ハーレムなどの肉欲に近いなにか、金銭への欲、出世欲……は、ほとんど無いと言っていい。


「ない、かな」

「では」


 その言葉を聞いて、アーネリカは勢いよく立ち上がって僕の手を取る。そしてこう言った。


「私専属の料理人になりませんか」

「え」

「お給金は一般的な料理人さんの2倍は出ます。住み込み式なので衣食住も保証します……問題は私が旅をするつもりということです」

「それは別に大丈夫だけど」

「では安全の保証は、言うまでもないですよね?」

「ハイ」


 何かモンスターに襲撃されてもやすやす一刀両断する光景が目に見える。強さは名前より先に把握済みだ。

 正直この話は僕にとって渡りに船である。城下町とか特定の場所に住みたい欲求はないし……それに、アーネリカは多分素で気づいていないが、多分異世界でも僕のスキル欄というのは異常なものであろう。

 何ならレベルこそ1だが、【毒保有】なんてものまであるのだ。それ以外も拷問とか苦痛耐性とか、良くて被虐趣味のド変態、悪くて信用ならない日常を脅かす不審者だ。多分まともな職にはなかなかつけない。

 アーネリカには恩と好感しか無いわけだし、断る理由がない提案なのだ。

 だから、彼女の手を迷わずに握り返してこう答えた。


「よろしくお願いします」

「ありがとうございます!!」

「それはこちらの台詞ですよ、お嬢様」

「あっ口調と呼び方はそのままでお願いします。なんだか違和感でゾワゾワするので」

「……はーい」


 

 隼律也

 職業 無職 → 専属料理人

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