【21】情報量の塊すぎるヒト
食欲に素直に
マツタケご飯の上に焼いたマツタケを乗せ、醤油を垂らしてそのままかきこむ。
普通ならもったいなさすぎてなかなかできない暴挙であるが、これだけあるなら話が変わって……
「美味しいですねぇ」
変わってないかもしれない。
アーネリカさんが淡々と黙々と幸せそうにご飯を口に運んでは咀嚼している。相当な速さで。
いつぞやのミイラ化一歩手前のときに比べれば、品というか楚々とした雰囲気が滲み出ているが、一口の量が全然可愛くない。
箸ではなくしゃもじを直に使っていますと言われたほうがまだ納得できる一口が、何故か大口になるでもなく、控えめに開かれた口の中に消えていくのだ。
「前世ダイソ◯の掃除機だったりする?」
「高性能コードレスになった記憶はないですね」
「通じるんだ」
「通じますよ〜」
下手なことが言えなくなった。
さて軽く3から4メートルはあったであろうヒュージマタンゴが140センチ台のアーネリカの胃袋に消えていくという、物理学者真っ青の光景を眺めながら、彼女の死角でそっと物を取り出す。
七色に光るそれをハンカチで包んで光を隠蔽、そのまま瓶の蓋を開いてつまみ上げる。
【虹色茸】である。
おそらくヒュージマタンゴ内臓……さらに言うなればろ過装置、人間で言うところの腎臓の類らしいこの茸は、胞子を放つことは無いらしいということがここ数分の観察で判明した。
ならばするべきは一つ。
ろ過装置としての内蔵、毒植物が多いこの森で生きているヒュージマタンゴの腎臓的部分ならばまず毒が溜まっていると見て間違いない。
(逆にこれだけゲーミングゲーミングしてて毒ありません、のほうがおかしいでしょ)
毒があるのならば食らっておきたい。抗体が作れれば万々歳だ。
なのでひっそりと、一つだけを口に入れ、噛み砕いて飲み下す。
「……あれ?」
次の瞬間、世界が暗転した。
◇
目が覚めたら知らない天井でした、パート……いくらだろうか。3だろうか。数はともかく頻度が酷い。漫画かアニメそろそろ苦情が来る頃だ。多分これだけ高頻度で天丼して許されるのはバ◯ボンかポプデ◯ピックくらいだろう。
「んん……」
頭が痛い。視界が回るし吐き気がする。多分頭と視界は幻覚作用系の毒を摂取したからだろう。ならば吐き気は?
というか本当に知らない天井だ。つまりペェちゃんの上にあるあの家ではない。
ならここはどこだ。倒れたならばアーネリカはどこにいる?
ぐるんぐるんと揺すられるような頭で無理矢理思考をぶん回し、自体の深刻さが段々と認識できてくる。
それと同時に動こうとして、うまく動けずベッドのシーツを握りしめる。
「……随分清潔な」
随分と清潔なシーツ、というか寝具一式脅迫的なまでに清潔、かつ管理されている。
それに近いものを知識として知っていた。
「病院……?」
「アラ起きたの」
目に映ったものを淡々と説明させてほしい。
よく手入れされた艶のある美しい金髪……を容赦なく片側だけ刈り上げて、刈り上げ部分を紫色に染髪している。
真珠の如き美しい肌……にためらいもなくヴァイオレットカラーのアイシャドウでカットクリースメイクを施しており、勝ち気に引かれたアイラインは慣れているのかとてもきれいである。
幅広でセクシーな印象を与える唇……は迷いのない紫の口紅でパッキリと彩られており印象深い。
そして何より、ボンデージ、はたまたライダースーツ。ぴっちりとした素材の……これもまた深い紫色の服……服?に身を包んで、足元には同色の10センチ超えであろうピンヒール。そして何故か上に白衣を羽織っている。
端的に言って情報量の洪水である。
「何ボケっとして……オーケー瞳孔は問題なさそうね。意識あるなら水飲みなさい水。飲んで出しなさいホラ」
「ここはなにかのクラブでしょうか?」
「クラブに見えるの?ああ踊りたいとかかしら?じゃあいいわよ。そこにお立ち台あるから好きに踊りなさいな。曲のリクエストはある?ま、ジャズばっかりだけどネ」
「お立ち台あるんだ……というか推奨するんですね」
「運動は大事よぉ?適度に食べて動いて寝てりゃ元気になるのよ。そんなモンよ」
僕の瞳孔と脈、体温などをテキパキと確認しながら片手間にピッチャー丸ごと水を手渡してお立ち台を指差す眼の前の存在に圧倒されつつ、なんとか言葉を絞り出す。
奇天烈な格好と裏腹に、随分常識人らしいことがわかる。
ポヤポヤした頭でそんなことを考えていれば、よいしょと子猫のごとくつままれてお立ち台の上に立たされる。
そう、言い忘れていたが眼の前の存在、骨格的に男性である。
190センチある僕にヒール込みとはいえかなり身長で勝っている……ということは僕より身長が素で高く、しかも僕のようなモヤシではない。
体型はきれいな逆三角形の集まり、ボディビルダーさんたちが笑顔でトレーニング内容を聞きに来そうな肉体美である。つまりむさ苦しくない程度、スタイリッシュなムキムキである。
声も低くよく通る。なので、まず不思議なほど男女とかより格好に目が行った。
とても似合っているのである。
「主治医のベラよ。ちゃんでも様でもさんでも好きに呼んでちょうだい」




