【17】毒雀食らうべし
「さてと、どうするかな」
とりあえず雀と同じ要領で背骨を親指で折ってみる。
麻痺毒のつもりだったが何分初めてだったので分量か何かを間違えたらしく、既にご臨終召されていた雀モドキの背骨は存外あっさりと折れた。
内蔵を処理、そしてとりあえず毛をむしる。ひたすら無心でむしる。これは海老の殻を剥くのとコツは同じである。考えたら負けだ、心が折れるもの。
「うーん一部は後日に回し……」
毟るのが面倒くさくなってきたのもあり、そんな考えが脳裏を全力で主張しながら走り去っていく。
だがしかしすぐに否定がログインしてきた。今までの数度の食事で十二分に理解している。これでは絶対に足りないであろうことを。
アーネリカの胃袋が四次元だと言われれば僕は一も二もなく肯定しよう。信用するに足る状況証拠が出揃いすぎている。かの睡眠探偵も入眠する前に会敵三秒で名推理をかませるほどだ。
「やりますよー、と」
毟り終えたら改めてお腹を開き、内臓の残りをキッチンペーパーで綺麗に拭き取る。そして嘴やら何やらの不要部分を包丁で切り落とす。
出刃包丁を貰っていてよかった。最初は三徳包丁一本でゴリ押すつもりだったのだが、
『私の専属料理人さんには余すところなく全力を出せる環境をー!!』と出刃、柳刃、菜切り包丁と色々……断ったらこちらの両手ごとひしゃげさせん勢いで握り込まされて今に至る。
あれは凄かった。軽いお手伝いをしたあとに500円玉を握らせてくるお婆ちゃん並の握力であった。
「あとは、これは僕専用」
お腹を開いたときに出てきた内臓のうち、明らかにどす黒い紫色をした袋を取り出す。
毒袋である。まあ本来こんなに『僕は危険物ですよー!!』と主張しているようなものではないのだがこの際気にしない。
それを外から適当に引きちぎってきて洗った葉の上に乗せておいて、鳥肉の調理に入る。
どこその串焼きは塩胡椒を振って姿焼きをワイルドに召し上がれスタイルだが、本来食肉用ではない鳥獣は生臭いものである。そのままでやったら惨状が笑顔でクラウチングスタート切ってこちらに猛ダッシュ接近不可避だ。
故に頭の良い先人の知恵をそのままお借りする。
「ゆけ、下味用万能ブレンドよ!!」
聖水、内容内訳、醤油、酒、みりん、生姜、砂糖。つまるところ臭みを消しつつ美味しく味付けしてくれるジャパニーズの盟友である。ある程度分量が適当でもどうにかなる聖母の如き優しさの万能調味料……強いて言うなら酒醤油多め、砂糖と生姜がしっかり液体族に溶け込む量に抑えるのが最低条件だろうか。
「よいしょっ」
あとは蓋をせず、軽く煮切る感覚でじっくり火を通していく。片手間に、毒袋は別の小フライパンで適当に焼いておく。これは僕しか食べないので適当でいい。
あとは淡々と同じことの繰り返し……まあ毎度アーネリカが食べる量が量なので、調理する量が多くなるのは仕方ない。
揚げ物にしようかと思ったが、最悪の場合臭みを衣の中に密封することになりそうなのでお流れになった。
「アーネリカー」
「コォオオオオオオオオォ」
大皿いっぱいになったので空腹であろう雇い主に声をかければ、某銀河戦争の某悪役の如き音声を何故か口から発しながら這いずってくる。
なお顔は数十年水も飲んでいないかのようにしおっしおであった。手に至っては枯れ木の如き細さに成り果てている。発掘直後のミイラと言われても信じるかもしれない。
「食べれる?」
「キョエアアアアアアア……」
「無理そうだねぇ」
必死に食器を手に取ろうとしているが、空腹のせいか分裂して見えるほどにプルプル震えて握り込むことすらままならないらしい。
なので代わりに箸でつまみ、適当に冷まして口の前に持って行ってみた。
消えた。
「わお」
アーネリカの口が動いている。つまり咀嚼している。
目視不可能な速度で食べたらしい。
ごくん、と喉が上下した瞬間に、手の震えが止まった。
「どうぞ」
フォークを差し出す。流石にこの針金じみた指に箸をもたせる気概はなかった。
そしてフォークがしっかと握られた瞬間に、
消えた。
「えぇ……?」
規模の大きい再放送である。山盛りあったはずの鳥が一瞬にして消えた。ミイラの口がもっちゃらもっちゃらとリスのような外見で満足そうに動いている。
しばらく咀嚼が続き、いっそ恐怖を覚えてきたタイミングで、喉が上下に動いた。
「おいしい!!です!!」
声“だけ”が元の可愛らしいアーネリカのものに戻り、真っ直ぐな称賛がカラッカラの唇から飛び出してくる。
そこから時差式爆弾のように手がハリツヤのある手に戻り、体が戻り、最後に水風船が一気に膨らむように顔が美少女のそれに戻る。
この世の物理法則に中指を立ててそうな冒涜的な現象がが目の前で起こった気がしないでもないが、きっと気のせいだろう。
とりあえず可愛らしい平常運転のアーネリカが戻ってきたことに心から安堵する。
「まだありますか」
「ないです」
「ピェアアアアア……」
「あっ待って待って」
戻ってないかもしれない。更に自体が悪化する前に手を打たなければいけないだろう。




