【16】毒雀は食用なりや?
まず目につくのはアラクネ……ではあるけれど、さすがにガッツリ人形のものを調理するのは気が……
「引けないんだよね何故か」
全く平気であった。多分これも耐性系の一つとしてカウントされているのだろう。
しかしそれは僕に限ったものであり、アーネリカに食べてもらうことを考えるとさすがにアウトだと理性が警鐘を鳴らしていた。
ので、だいぶ意図的にアラクネから目を逸らして周りを見渡す。目に映るのは食人植物、人を惑わせる花をつけるツル植物、その他諸々。
迷いの“森"と言うだけあって、モンスターは植物系ばかりである。脳内でモンスター図鑑を全力で思い出し、彼らの生態を反芻する。
「とりあえず雑食は嫌だなぁ」
どうせ食べるなら美味しくいただきたい。そしてそうなると、雑食のモンスターは可能な限り避けたいのが正直なところだ。雑食は美味しくない、は不思議に有名な共通見解である。
そして幸か不幸かアラクネは雑食……というか雑食の頂点に位置する人間を食べるモンスターである。普通にお断りしたい。
「と、なると……どうしたものか……」
ふむ、と考えていた所で、頭にべっちゃりと何かが付着した。
捌くときの汚れを拭く用に持ってきたボロ布を使って拭い取れば、なかなかグロテスクな液体が付着している。
ついでに拭き取ったハンカチから煙が上がり始めた。どうやら溶けているらしい。
なお頭に直撃したが髪と肌は無事である。良かった。髪に耐性がなければ十円ハゲどころか千円札ハゲが出来ていてもおかしくなかった。
「ゲヒャーッピッピッピッ!!」
あんまりにも可愛くない音に何事かと顔を上げれば、木の上で小さな雀が腹を抱えて笑っていた。
あれ鳴き声なのか。可愛らしさの欠片もない酒焼けした中年男性みたいな鳴き声だ。
「雀だぁ」
呟いてから溶けつつある布に視線を落とし、なんとなく違和感を感じる。
これだけの量の毒液を、あんなに小さな体の雀がこの短時間で分泌できるものなのか。
……まあその疑問はあっさり回答が提示されるのだが。
たくさんの目と目があった。
青々とした木と思いこんでいたが、どうやらたくさんの雀が枯れ木にとまった結果、葉のように見えていたらしい。
なるほどあれだけ居ればこの量にも納得がいく。
「雀……雀か」
ゲヒャゲヒャピヨピヨと多分笑っている大量の雀をぼんやりと見上げながら、頭の中でそろばんを弾く。
それと同時に、頭の中では市◯悦子さんのナレーションが流れ始めていた。それと共に昔懐かしい映像が脳裏に蘇る。
「なんだったっけ、昔話の」
あったはずだ。雀と燕の昔話。
確か誰かの危篤かなにかがあって、雀はなりふり構わずすぐに駆けつけたものの、燕は無駄におめかしをしたせいで死に目に間に合わず。
それを神様が見ていたものだからさあ大変。
雀は米を食べて良いとされたけれど、燕は戒めも込めて虫しか食べることを許されなくなった、とか。
そう。何はともかく、雀は主食として米を食べるのだ。まあこの世界に米あるかわからないけど。
そしてそれ即ち、そこそこの美味しさが担保されているとほぼ同義。
「串焼きあったよね確か」
どこぞの神社で雀が串焼きにされて売られていたはずだ。つまり先駆者はいて、根付く程度には美味しいものということ。
「いけるか」
そんなこちらの声に呼応するように、鳥たちがこちらに突撃してくる。体はこちらより小さい、勝算があるとすれば数で攻めてくるつもりだろうか。
しかしその予想と裏腹に、こちらに襲いかかってきたのは完全なる個人技……いやもっと効果のないものであった。
ひたすら毒液をぶっかけられたのである。
「……」
効かないのだが、純粋に口から分泌されているものをかけられるのはただただ不快だ。
本当に鳥かを疑いたくなるような下卑た笑い声を上げ続ける鳥を無言で見つめてから、自分の中で結論をつける。
「これは雀じゃないね」
雀はもっと可愛い。農家さんにとって害鳥としての側面もあるが、反面益鳥でもあるなかなか不思議な生き物だ。
いやまあこの世界の彼らもそうかもしれないが、少なくとも今の僕にとってはただの害鳥。だから益になってもらって釣り合いを取ろう。
「よいしょ」
「ゲピョーッ!?」
調子に乗って電線の如く人の肩に列をなしてとまっていた鳥を片手で掴む。
なんとなく出来る気がして、手から神経毒を滲ませてみれば、びくんびくんと痙攣して大人しくなったのでボウルに放り込む。
「出来ちゃった」
そこからは早かった。
列をなしてとまっている鳥をするりとひと撫ですれば全部が冬に凍った鳩のごとく落ちてくるので拾って回収。
その数秒では何が起きたのか分からなかったのであろう、まだこちらを舐め腐っている鳥は調子に乗らせて肩にお招きして鷲掴みを繰り返した。
途中からタネに気づいたらしい個体にはいくらか逃げられたが、結構な量を捕獲できた。
「さて、アーネリカを人の形に留めるためにも調理しますか」




