【14】森の入口にて
「……!?……やわ、えっ?」
例えるならばスクイーズ、あるいは低反発クッション、はたまたパウダービーズ。
感触は柔らかくきめ細かく、心地よい程度に冷たい。ストレス軽減玩具の極地のような、触っているだけで癒やされるたまらない触り心地がそこにあった。
思わず無心になってもちもちしていると、『もうええやろ』と言わんばかりに足を引っ込められてしまった。深追いはしない……でもなんで人間にあのパーツは存在しないのだろうか。あったらきっと諍いなんて起きないのに。
「ペェちゃん、迷いの森、分かりますか」
「ペ?」
わざわざ僕の仲直りを待っていてくれたらしいアーネリカが、ひょっこりと後ろから顔を出す。
ペェちゃんは聞こえた単語に心当たりがなかったのか、コテンと首を傾げる。
「えっとですね」
アーネリカはゴソゴソと町で買ってきた地図を広げ、ペェちゃんの前に広げる。
そして迷いの森を指差し、くるくると指先で円を描いてみせた。
「これです。今はここ」
現在地を指さし、方位磁石を取り出して見せる。
その瞬間、ペェちゃんはひとつ頷いてある一点を見つめ始めた。
流石に言わずともわかる。さっきの数秒で完全にルートを構築できたらしい。
「地図読めるんだ……」
「パンケーキミシミシガメは頭が良いですから。特に地理には優れています」
「すごいな」
喋りながらもペェちゃんの甲羅の上に避難する。
なおアーネリカは跳躍一回で甲羅の上に乗ってしまったため、えっちらおっちらと縄梯子を登る僕待ちである。
アーネリカに担いで跳んでもらえば早い?たしかにそうなのかもしれないが、確固たる医師で拒絶させてもらう。僕にも少なからずプライドというものはあるのである。
「ゴー!!です」
「ペェーー!!」
僕が登りきった瞬間にゴーサインが出た。ペェちゃんが呼応して進み始める。
しかして凄いのは、やはりこの揺れの少なさであろう。移動しているというのにほぼ揺れを感じない。家の中に戻りながら、改めてすごさを体感していた。
「ところでアーネリカさんや」
「はぁい」
「ソレ、なに?」
家に戻るやいなや、アーネリカはせっせと何かを作り始めていた。
片側の先端が輪っかになった鉄製の杭のようなものに、赤いロープを通して結んでを繰り返している。けっか、べらぼうに長い杭付きロープが作り上げられている。
「縄とペグです」
「それペグって言うんだ……目印?」
「そうですね。縄で予め連結しておいて、森に入り次第ペグをペェちゃんに埋めながら進んでもらいます」
「埋めれるの?手伝ったほうが」
僕の言葉を手で制し、アーネリカは何も結ばれていない鉄の杭……もといペグを窓から外に向けて放り投げる。
次の瞬間、ぺェちゃんは足元に転がったそれをもっちりとした足裏で器用に掬い取り、そして踏み潰すように地面に突き立てた。
「アッはい」
あまりにもスムーズ、というか多分慣れている動きだ。僕が手伝ったほうが遅くなるのが目に見えている。
ペェちゃん、本当に多才である。
「着きましたね」
「早くないかなぁ!?」
目印を作っていたので体感短かったとはいえ、まだ1時間経っているかいないかであろう。
二、三日かかるというほどの距離感ではなかったが、こんなに早く着くような距離感でもないはずだ。
「ペェちゃんのサイズ感をお忘れで?」
「あー……そうだね……」
一歩のサイズが桁違いであった。普通の換算で考えるクセは無くしたほうが身のためだろう。
納得して追加のロープ付きペグを作る作業に戻った僕の肩を、アーネリカはぽんと叩いてこう言った。
「ではリツヤさんはここに居てくださいね」
僕はここに居ろ、つまり自分はそうではないという意味である。
ふと顔を上げると、彼女はにこやかな笑み、そして買い出しに出た時の可愛らしい服装そのままで?手に愛用のハルバードを手に持っていた。
……あまりにもアンバランスである。せめてもう少し攻略用の鎧やら何やらあると思っていたのだが、彼女は常日頃から武器以外は戦闘特化防具などを有していないらしい。
(というか多分、要らないんだろうな)
下手したら邪魔まであるかもしれない。
アーネリカは防御の大半を回避によって行っている。身軽さを武器にしているのであれば重い鎧はただ足を引っ張るだけのものだ。
「私は露払いをしてきますので」
甲羅の上に出て思い切りしゃがみ、ハルバードを片手に跳躍した彼女は地面に激突してクレーターを作っていた。
「強いなやっぱり」
片手は黙々と作業をしつつ、目線はアーネリカの方に固定する。
僕が見ている間にも、彼女はツタを伸ばしてくる植物であったり、胞子を飛ばしてくるマタンゴをハルバードの横薙ぎ一発で倒していた。
刃の部分が尋常ならざる大きさのハルバードは、相当大きいがそれでもやはり特注品であるらしい。
恐らく持ちての部分の比率が刃の大きさに比べて多少短い。おそらく中・近接戦を得意とするアーネリカが得意な距離で戦えるようにという魔改造だろう。
「そして怖いなぁ……」
アーネリカが只今相手取っているのは、おそらくアルラウネと言われるモンスター。
花冠の中から女性が生えているような明らかに人外な容姿だが、遠目に見る限りではただのお姉さんに見えなくもない。
それをバッタバッタと容赦なく一撃で薙ぎ倒す様は、ちょっとホラーである。特に断末魔が悲痛なのが恐怖に拍車をかけてくる。
「うわぁ」




