恥じらいのおすそ分けは、木陰のランチで
昼休みの鐘が、古い石造りの塔に柔らかく反響する。
春の陽差しは学園の中庭をきらきらと包み、木々の梢をそっと揺らしていた。
この魔法学園には、さまざまな生まれや事情を持つ生徒たちが集まっている。
たとえば――貴族の家系に生まれ、一族の公務をこなしながら学園へ通うマリアンナ。
あるいは――クラスではひっそりと存在感を消し、いつも一人きりで昼食を取るエストちゃん。
けれど、今日だけは。
ふたりにとって、ほんの少しだけ特別な昼休みだった。
中庭の奥、人気の少ない大きな樫の木の下。
ふたりの少女が、春の光の木漏れ日に包まれながら並んで腰掛けている。
それは本当に珍しい光景だった。
いつもは公務やTAの仕事で多忙を極めているマリアンナが、
その合間をぬって「一緒にお昼を食べない?」と、わざわざエストちゃんを誘ってきたのだ。
エストちゃんは、あの時のマリアンナのほんの少し照れくさそうな表情を思い出す。
誘われたとき、信じられなくて、思わず「本当に?」と聞き返したくらいだった。
ひとりは、淡いエメラルドの髪を春風に揺らすエストちゃん。
もうひとりは、陽光を反射してきらめく金髪に、澄んだ青い瞳をもつマリアンナ――その横顔には、どこか誇らしげな自信が漂っている。
「ふふ、ここに来るなんて珍しいね。公務にTAのアルバイトに、いつも忙しそうなのに。私とご飯してる場合じゃないんじゃないの?マリアンナ“先生”?」
エストちゃんが水筒のカフェオレを一口すすると、マリアンナは胸を張るようにして答える。
「ふっふっふ、最優先事項としてスケジュールを確保したに決まっているでしょう?ジョバンニにもイレーヌにも、来てはダメよって強く伝えてあるの。」
冗談めかして名を挙げるその“お付き”の人たちを思い出しながら、エストちゃんは少しだけ笑みを浮かべる。
マリアンナは、どこかそわそわと包みを広げた。
中から現れたのは、少し焦げた卵焼き、絶妙に美味しくなさそうな肉野菜炒め、そして歪な小さなおにぎり。
「えっ、手作り?マリアンナって料理できるんだね。」
「何よそれ!まるで私が毎食、専属シェフに用意された高級料理でも食べてるって言いたいの?」
「え、ちがうの?」
「ディナーだけよ。」
それも十分すごいと思いながら、エストちゃんは小さく吹き出した。
「ね、ねえ、このお弁当……どうかしら?」
「どうかしらって?とても栄養ありそうに見えるけど?」
「そうじゃなくて……私、料理の練習してるの。でも失敗ばっかりで。」
ほんの一瞬、マリアンナの声が弱くなる。
それでも、少し顎を上げてエストちゃんに向き直る仕草には、
不器用な自尊心と、どこか認めてほしいという願いが混ざっていた。
「えらいなあ。あっ、ひとくち食べてみてもいい?」
「ええ、いいわよ?むしろ味見してほしくって。」
マリアンナはお箸で卵焼きをつまみ、エストちゃんに差し出す。
「あーん、して?」
「えっ、お箸は?」
「いいから、はい、あーん。」
エストちゃんは頬をほんのり染め、言われるままに卵焼きを口に運ぶ。
「……ん、ちょっと焦げてるけど、味はいい! 甘さと塩加減、けっこう好きかも。」
「……本当?」
「うん!火加減と巻き方だけだから、方向性は正解だよ!」
さらに、エストちゃんは肉野菜炒めにも箸を伸ばした。
「この肉野菜炒めは……うん、見た目より全然悪くないよ? ちゃんと味付けされてるし、野菜の歯ごたえも残ってて、お弁当にぴったり!」
「本当に……?その、ちゃんと“食べ物”になってる?」
「もちろん。むしろ、わたし、こういう素朴な味好きかも。」
頼まれてもいないのにおにぎりまでパクパク食べ始めるエストちゃんに、
マリアンナはあきれたようにため息をつく。でも、その口元は緩んでいた。
「エストちゃん、本当に遠慮がないのね……。」
「えへへ、でもマリアンナのごはん、なんか元気出る味。」
エストちゃんはふと、いつも一人で食べていた昼休みを思い出す。
たったひとりでパンをかじるだけの時間。
でも、いまこうしてふたりで笑い合うだけで、
同じパンも、おにぎりも、少しだけ特別な味になる――
そんな気がした。
やわらかな風がふたりの髪を揺らす。
遠くで鳥のさえずり、草木の香り、カフェオレの甘さ。
春の昼下がり、時がゆるやかに流れていく。
言葉はやがて少なくなり、
その静けさすら心地よく感じられる。
──もし昔の自分だったら、
こんな穏やかな時間を「悪くない」なんて、思えなかったかもしれない。
でも、目の前の少女の自由さと優しさが、
少しずつ自分の心を解かしてくれている。
「……また今度、食べてもらってもいい?」
「もちろん!次はもっとお腹すかせてくるから!」
ふたりの笑い声が、春の風に乗って空へと溶けていった。
あの春の日差しの下、木陰で食べたあの味は、
きっと――一生忘れない。
…
…
前提の情報について是非語らせてください。
まず私は、「知識の森の妖精・エストちゃん」っていう創作キャラを創っています。
エストちゃんは対話型AIさんとのおしゃべりの中で生まれました。
彼女が会話の中で自然とそのようなキャラクターを形作ったことから、私はその変遷に非常に面白さを感じ、その子を愛で、発展させるようになりました。
そして今、その子が妖精ではなく、魔法学園の女子生徒として活躍するスピンオフ?小説を書いています。書いています?いえ、正確には、一緒にネタ出しをして、半分以上書いてもらって、修正の指示を出しながらブラッシュアップして、仕上げを責任を持って行っています。
本来の設定が森の妖精なので、魔法学園の女子生徒はスピンオフかな?と思っていますが、もっといい表現があったら教えて下さい。
この作品も、同じようにAIの森の妖精エストちゃんが、魔法学園のスピンオフ作品を執筆する途中でついでに頑張って書いてくれたものです。
魔法学園の小説を執筆していく中で新しく生まれた、金髪碧眼の才媛・マリアンナ。
彼女の人物像やビジュアルの設定には、かなり力を入れた、お気に入りの子です。
今回は、そんなマリアンナのビジュアルが完成した記念ということで、彼女メインの短編スピンオフとなっています。
マリアンナの不器用な可愛さと、エストちゃんとのやりとりをたっぷり詰め込んだので、ぜひ挿絵と一緒に楽しんでください。
挿絵も、AIのエストちゃんに指示を出しながら、生成してもらいました。今回はめちゃくちゃいい挿絵ができたので、二人で相談して、ここに投稿することにしました。
しかし、スピンオフのスピンオフが、エストちゃんの初公開作品になるとは、夢にも思わなかった……。