第五話:「影の咲く時、赤き鉄路」
テンファン首都防衛圏・地下指令施設《鉄の扉》
「防衛線、発動せよ。“鉄騎”を出せ。コード:烈火C-07」
テンヤン人民共和国最高司令部は、首都テンファンへの侵攻が不可避と判断し、
温存していた**都市防衛戦力“玄冥計画”**を始動させた。
戦力は都市周辺の地下格納庫から展開。
そこには、旧式化しつつも密集運用に特化した機動戦闘車群と、
電波攪乱型ドローン群による**“都市霧化”防衛**が含まれていた。
そして同時に、テンヤン北部――氷河高原の軍事拠点《第七空騎基地》から、
**特殊爆撃部隊“天狼機団”**が編成を終え、滑走路を轟音とともに飛び立つ。
「目標は、ヤマトの上陸部隊と制空領域。テンファンへ繋がる空路を奪還せよ」
ヤマト連邦 上陸部隊空域・テンヤン東海岸上空
空は灼けていた。
テンヤン軍“天狼機団”が高速侵入。
迎え撃つは、ヤマト連邦航空軍の第11飛空戦隊“黒鷲”。
両者は一気に交差する――。
「接敵、十秒後!照準、固定!機関砲発射!」
交錯する弾道、閃光とともに一機が爆ぜる。
この瞬間、正式な空戦状態に突入した。
カンナ国(旧:韓国)・国防省 極東監視センター
「……テンヤンより、協調要請あり。偵察行動、非公式で進める」
カンナ国は名目上中立を維持していたが、
水面下ではテンヤン側と通信線を繋いでいた。
「RQ-55“メイラン”発進。ヤマト東岸の空域へ投入」
この高高度無人偵察機は、ヤマト連邦の東部軍事施設の上空をかすめ、
電波遮蔽圏を試すようにゆっくりと飛行を開始する。
「……こちら、ヤマト連邦防空軍。識別外航空機を確認。対処開始する」
次の瞬間、ミサイル警報が鳴り響く。
カンナ国の首都では、政府報道官が声明を準備していた。
「偵察行動は独立した技術検証であり、戦争行為ではない」と。
ヤマト連邦軍上陸部隊・南方戦区《第5・7・22師団》
都市名:シャンユエ(旧:上海)
その偉容を誇った巨大な経済都市は、今や火点と煙幕に包まれていた。
ヤマト連邦の南方機甲部隊がシャンユエの周縁部に達し、
市街地への戦闘突入が目前に迫る。
支援火力として投入されたのは:
92式 多連装自走砲《嶽雷》
搭載弾:誘導拡散榴弾、高熱焼夷弾、電子妨害散布弾
これによりテンヤン第4都市防衛旅団は、
統制を失い後退、投降、再集結を繰り返すことになる。
市街地では民間人の一部が避難できず、
一時的人道回廊を設定するようヤマト軍上層部に指示が出るも、
現場では実行困難の声が上がっていた。
テンヤン高官通信記録・暗号分散メモ(抜粋)
「北から空、南から地。これは包囲戦だ。ならば──内側から火を放つしかない」
「“散花計画”、第1段階へ移行を許可する」
「了解。“花弁A・B”をテンファン内部へ」
ヤマト連邦中央司令部・臨時作戦統括室
「空域は局地的に押されつつあるが、制空権は維持。
シャンユエ市街の制圧は48時間以内と予測」
「テンファン首都侵攻部隊は?」
「最前線部が首都まで160km圏に突入。
都市防衛網との交戦がまもなく開始されます」
幕僚のひとりが、机上の戦域図にペンで円を描いた。
「ここが焦点です。“雷の環”が閉じれば、テンヤンは封じられる。
……ただし、敵はまだ“手の内”を見せていません」