第四話:「国連臨時招集と非難決議、戦火の光」
国際連合本部・ニュージュネーブ、会議棟第Iホール
「……本件は明確なる一方的侵略行為であり、テンヤン人民共和国の主権を著しく侵害しています。よって、非難決議案A-542を支持するよう、各国に要請いたします」
壇上に立つテンヤン外相の顔は、怒りと疲労で硬直していた。
会場は静まり返っていたが、その沈黙はやがてざわめきに変わる。
直後、ヤマト連邦の外交代表が登壇する。
背筋を伸ばし、言葉を選ぶことなく、ゆっくりと語り始めた。
「我が国ヤマト連邦は、幾度となくテンヤンによる国境侵犯、漁業妨害、宇宙衛星の妨害を受け続けてきました。これは長年にわたる戦略的挑発への防衛的措置です。
よって今回の軍事行動は、自衛権の発動の一環であり、侵略ではない」
その一言に、各国代表の席が騒然となる。
だが、その中でただ一国――アメリナ連邦の代表が立ち上がった。
「アメリナは、ヤマト連邦の自衛権行使を理解し、また、彼らの**“安全保障上の選択肢”**を尊重します」
世界の空気が一変した。
国連臨時会議は、その後も議論が紛糾したが、
非難決議案は棄権多数で可決されず、結果として「黙認」の形となった。
ヤマト連邦首都・トキオ市 政府統合庁舎
同日、ヤマトでは臨時閣議が招集され、戦時国家統制令が発動された。
これにより、議会は機能を停止、内閣が全権を掌握する体制が整う。
だが、その中でひときわ静かに交わされた通信がある。
「コード:望月に入る」
「……確認。目標は?」
「フェーズ3、テンファン制圧。政府部局への通達は不要。軍部のみ承知せよ」
その通信を受けた、第7機動軍総司令官・風間少将は、冷静に命じた。
「……始めろ。東海岸、第二段階展開。重装部隊、前進」
テンヤン東海岸・制圧地域「第九戦区」
朝靄のなか、巨大な艦から異様なフォルムの新型戦闘車両が次々に降ろされる。
形式名:Type-88 陸上巡航殲撃車《嵐龍》
全長13.4メートル、主砲には次世代電磁レールガン「雷牙」を搭載。
通常の榴弾砲の射程を凌駕し、20km超の高精度射撃が可能。
さらに搭載ドローン・カバー装甲によって都市戦への即応性も持ち合わせていた。
これらが3個師団規模で連携しながら展開。
空中からは、無人偵察機と制空機が火点を潰し、残存部隊を無力化。
地元民の一部が避難できぬまま占領され、
テンヤン側の戦線は中央東海岸からほぼ80km内陸まで後退した。
ヤマト地上軍・第十八機動師団 指揮所
「敵の中央指令系統は麻痺。残存勢力は個別に後退中です」
「……都市中心部への進撃を開始せよ。次の目標は?」
指揮官は地図を指し、即答した。
「テンファン首都制圧作戦 “鷹の門” 作戦、開始可能です」
テンヤン首都・テンファン郊外 地下施設
「……もう来る。早いな。だが、我々は闘える」
国家安全部・情報局「夜眼」局長、グァン・ミンツォンは再び暗号通信を解く。
「“花は咲く時を選ばない”。計画、前倒しする」
爆心地の焦土の下で、
テンヤンの反撃は、静かに、しかし着実に準備されつつあった。
世界が揺れている。
一国の侵攻が、地球規模のバランスを狂わせ、
非難も、支持も、火の粉のように飛び交っている。
──それでも、戦車は進む。
──レールガンは雷鳴を放ち、戦火は都市の淵を焼いていく。