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第三話:爆心の街にて、影が歩く

西暦2146年10月13日。午前03時42分。

テンヤン人民共和国・首都テンファン。

――中央官庁区の瓦礫の中、夜は音もなく明けようとしていた。


崩れ落ちた建物群から、すでに600人を超える死者が報告されている。

国家通信棟は完全に機能を停止し、首都の70%以上が情報遮断状態にあった。


その瓦礫の奥、かろうじて立ち残った灰色の地下通路を、黒い影が進んでいた。


地下情報局「夜眼やがん

テンヤンの極秘情報機関――国家安全部・対侵入局 第九課、通称「夜眼」。

正式には存在しない組織だが、政府首脳は知っている。国家の背骨に潜む、“暗き眼”の存在を。


局長の**グァン・ミンツォン(關 明宗)**は、かつての高名な言語解析学者だった。

その鋭利な頭脳と冷酷な判断力が評価され、情報戦の要として地下に潜った男だ。


「損害報告は要らん。……動ける者、何人だ?」


「73名、うち現場対応可能は31名です」


「十分だ。戦争とは、情報を制した側が始める。武器は後からだ」


ミンツォンは背広を脱ぎ、地下施設のモニター室へ向かった。

テンヤン本土には現在、ヤマトの電子妨害が波状的に展開されている。

しかし、国境線から内陸へ張り巡らされた旧式有線網と地上搬送員ネットワーク――“黒脈”と呼ばれる古いシステムは、健在だった。


「よし。まず、東部第二軍の残存部隊へ。“白雲”を動かせ」


「了解。黒脈経由で指令投下。あわせて“散花計画”の起動を申請しますか?」


ミンツォンはしばし黙したのち、わずかに頷いた。


「……ああ。『花はまだ咲く』と伝えろ。連中が聞きたがっていた合言葉だ」


同時刻:テンヤン東部・占領地域

ヤマト陸軍が確保した旧工業都市「コルメイ」では、昼夜問わぬ哨戒が続いていた。

破壊された変電施設の代わりに、臨時の発電車がうなりを上げる。


そのすぐ外れ。物資倉庫として再利用された旧教会の地下に、一人の男がいた。


テンヤン情報部エージェント代行:ルオ・シェン

背は低く、穏やかな表情だが、その視線には“計算”の光があった。


彼は、すでにヤマト兵士たちの隊列、補給所、指揮所配置、交代時間、野営区域、憲兵の巡回ルートまで記録していた。

装備した旧式のペン型通信機は、一見ただの骨董品に見える。


だがそれは、「夜眼」の新命令を受けたとき、小さな光をともす。


──そして、光った。


ルオは立ち上がる。

爆心地からわずか12時間後、テンヤンの情報による反撃準備が、静かに始まった。


その夜:テンファン郊外

グァン・ミンツォンは、燃える市街の向こうに目を細めながら、静かに口を開いた。


「ヤマトが戦争を仕掛けたのなら、我々は戦いを仕掛け返す。だが、形は選ばせてもらう。

 兵士が進めば、影が裏を進む……。この戦いは“光”だけでは決まらんのだよ」


彼の背後で、冷却装置が唸る――旧時代のデータ復元装置。

失われた国家データ、暗号鍵、地下資源網、放棄された武器庫の座標……。


テンヤン人民共和国が築いてきた**“闇の地図”**が、いま再び浮かび上がる。


そして数日後。ヤマトの前線基地で爆発が起きる。


犯人は不明。

だが、現場には誰のものとも知れぬ、小さな黒い布切れが残されていた。


それには、こう刺繍されていた。


“夜は目を開いた”



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