第二話:赤き波、黒き浜
テンヤン人民共和国・東部戦線。
かつて静かな漁村と港湾都市が点在していたこの海岸線は、今や炎と鋼の渦中にあった。
ヤマト連邦の艦隊――第七機動打撃群は、午前04時30分を期して**「海上制圧作戦・海鏡」**を発動。
戦艦2隻、巡洋艦6隻、護衛艦12隻からなる編成に加え、後方には長射程ミサイル搭載艦が待機していた。
目標は明確だった。
「テンヤン東岸、長距離艦砲射撃で港湾・通信・交通網を破壊。
船舶は大小問わず沈めよ。動くものはすべて、排除せよ。」
午前04時44分。
東の水平線から、炎の柱が上がった。
照準はテンヤンの軍港「龍門」「八陽」「中衛」、さらに5つの民間港湾施設。
艦砲は秒単位で波状射撃を行い、1分あたり最大46発の砲弾が上空を走った。
市街地から逃げ遅れた車両が混乱する中、港に並んでいた輸送船や漁船は、次々と炎上し、海面に沈んだ。
爆発音は地を揺らし、黒煙は朝日を遮った。
テンヤン側は空軍の残存ドローンを出撃させたが、ジャミングと砲撃により即座に通信途絶。
早朝の防空管制が混乱を極める中、ヤマト側は第二波、長距離巡航ミサイル攻撃に移行する。
超音速ミサイル「ツクヨミ型」は山岳地帯を縫うように飛行し、指揮所・補給拠点・通信塔を精密に撃ち抜いた。
目標の87%が初弾で機能停止、テンヤンの前線指揮系統は事実上崩壊した。
午前06時11分。
煙の下、黒く染まった海岸に、パラシュートが開いた。
ヤマト陸軍・第十三強襲師団「雷迅」が、強襲降下作戦を実行。
空挺部隊・無人重火器・装甲着陸艇が連携して、一気に複数地点へ降下・突入した。
彼らは市街地を避け、まず電力変電所、鉄道分岐、通信基地、制圧済みの港湾を最優先で占拠。
市街地の抵抗は散発的だったが、テンヤンの正規軍が迎撃に現れる前に、ヤマト側は地形と補給線を完全に掌握していた。
午前08時42分。
戦闘がひと段落すると、連邦軍は広範囲な捕虜確保・市民誘導作戦に移行。
工場に逃げ込んでいた予備兵、降伏した地方警備隊、錯乱した輸送兵ら――
結果、捕虜数は最終的に2,083名にのぼった。
彼らは即座に輸送用艦艇へと搬送され、電子タグによる管理下に置かれた。
「我々は、文明国家として、捕虜の権利を尊重する」
作戦指揮官・一之瀬准将の言葉は、全世界に生中継された。
だが映像の後ろで、燃える港と泣き叫ぶ民の姿が映り込んでいたのは皮肉だった。
テンヤン首都・テンファン
市民にとって、報道はただの音だった。
昨夜の爆撃の記憶が、すべてを麻痺させていた。
李 曼峰将軍は、前線との連絡を再構築しつつ、国家警備軍の再編に着手する。
彼の瞳は赤く、しかし静かだった。
「初動は良かった。だが――奴らはその上をいった。」
「テンヤンは、いま試されている。」
その夜、ヤマト連邦は正式に**「敵国制圧地域の一部確保」を宣言**。
国際社会は言葉を失い、国連非常会合が開催される頃には、
すでにテンヤンの東海岸はヤマト軍の占領下にあった。