第一話:雷の向こうに民は在るか
西暦2146年10月12日、午前07時12分。
ヤマト連邦・首都セイラン。防衛庁がある国政中枢区の地下鉄駅前には、異様な静けさが広がっていた。
大手ニュース局が「電磁制圧成功」と速報を出したのは、わずか一時間前。
ヤマト連邦が、テンヤン人民共和国に対し正式な宣戦布告を行う前に軍事行動を開始したことが、瞬く間に国内に知れ渡った。
そして、街には――賛成と反対が混ざった、目に見えない戦争の兆しが流れ始めていた。
「おい、見ろよ。今朝の号外。テンヤンの軍港、壊滅だってよ」
「やったじゃねえか。先手を取った!ヤマトはもう、世界に物申せる立場だ!」
「ふざけるな、こんなやり方は間違ってる!開戦の正当性も国会審議もない!」
「戦争を始めたら、もう元には戻れないんだぞ!」
セイラン中央広場。政府庁舎前の階段では、学生、労働者、退役軍人、報道関係者が入り乱れ、小さな言い争いが火花を散らしていた。
中央に立つ青年が怒鳴る。
「この戦争は誰のためだ!? 国民の声はどこにある!?」
すると黒いマスクをした男が反論する。
「国のためだよ、ヤマトのためだ。お前ら平和ボケ共が守れなかったこの国を、剣一閣下が動かしたんだ。歴史が動いたんだよ!」
野次が飛び、警備ドローンが低空を旋回し始めた。
この日から、ヤマトの街中では「戦争」を口にするだけで、分断の火種が生まれ始めていた。
一方、テンヤン人民共和国・東部防衛線。
連邦軍の制圧作戦は想定を上回る速度で進行していた。
電子妨害による混乱の中、ヤマトの無人戦車部隊と自動機械歩兵群が、テンヤン東部海岸からわずか6時間で50キロを突破。
だが、テンヤンは簡単には崩れなかった。
李 曼峰将軍は、前線の残存部隊を即座に再配置。
南部の第二機械軍団を北上させ、同時に空軍基地「天剣要塞」を解放モードに切り替え、強制徴兵の発令を政府に要求した。
「我らは今、国家の根を試されている」と、彼は前線の士官たちに告げた。
だが、その背後にある首都テンファンは、まさに想定外の一撃に晒されようとしていた。
午後14時13分。
テンファン上空、通常の管制レーダーには何の異常もなかった。
しかし、実際には超高高度から**5機のステルス高速爆撃機「夜叉型・改」**が滑空侵入していた。
目標は3つ:
中央官庁区の情報司令塔
国営放送局
国家警備軍本部
音もなく、光もなく、ただ映像と電波を消しながら、影のように爆撃機が都市に近づいていた。
テンヤンの防空システム「鉄脳」は、依然として干渉状態にあり、迎撃命令は2分遅れていた。
そして――
テンファン市上空に黒い雷光が走った。
爆撃機から投下された極音速ミサイルが、中央官庁ビルの上層を貫き、火球が天を焦がす。
通信塔が折れ、爆風が30階建ての建物をなぎ倒すと、都市中枢は一瞬で沈黙に包まれた。
テンヤン政府はこの攻撃から6分後に、「開戦」と「反撃」の声明を出すが、
その頃にはすでに、市民の間でSNS動画が数億単位で拡散され、国内に激震が走っていた。
その日の夜、テンヤンのニュースは一言だけ報じた。
「これは侵略だ。そして我々は、絶対に屈しない。」