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【AI軍事考証】王国玄冬記 ―勇者なき世界で、王殺しから始まる王国の動乱―  作者: Soh.Su-K
Ⅲ虚ろなる一角獣 聖徒の血盾

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Ⅲ-24 掃討

 それはまさに死闘であった。

 フェムに押し寄せる魔王軍。

 その多くは矮鬼ゴブリン狗鬼コボルドなどの雑兵なのだが、圧倒的に数が多かった。

 食人鬼オーガはおろか、黒醜人オークすら不在の烏合の軍。

 烏合の軍故に戦略も戦術もなく、ただひたすらに力押しが続く。

 その単純な物量に疲弊していたフェムは瀕死に陥る。

 無理矢理伸ばした梯子の殆どは途中で折れ、登っていた矮鬼は地面に叩きつけられ潰れる。

 しかし、運良く折れなかった数本からは無尽蔵に敵が登ってくるのだ。

 死ぬことを全く恐れていない。

 狂ったように前へと出てくる死兵に完全に押されていた。


「クソ!どうなってる!」


 城壁の上に登ってきた敵を大盾(タワーシールド)で囲み、その隙間から直槍(スピア)で刺殺する。

 被害を最小限に抑えてはいるが、いつまでもつかわからない。


「暗示でもかけているんだろう!でなければこの攻め方はおかしい!」


 兵士の中に恐怖が芽生え始めている。

 まるで終わりの見えない攻撃。

 足を失おうが、腕を失おうが、なおも襲いかかってくる敵。

 まだ城門も破られていない、優勢なのは此方側の筈なのだ。

 それでも、常軌を逸した敵と対峙する兵士達の心は今にも折れかかっていた。


「どけ!」


 大盾の間からウェルロッドが躍り出る。

 丸盾(ラウンドシールド)手斧(ハンドアクス)を巧みに操り、上がってきた敵を叩き斬っていく。


「怯むな!矮鬼ごときに怯えるな!」


 ウェルロッドは叫びながら手斧を振るう。

 瞬く間に床は矮鬼の血と脳髄に濡れてゆく。

 一通り倒し終え、最後に梯子を登ってきた矮鬼を丸盾を装備した左手の裏拳で吹き飛ばす。

 自らが登ってきた梯子をへし折りながら、多くの矮鬼を巻き込んだ挙げ句、地面のシミとなった。


「ここはもう良い!奴等が登ってきている場所の加勢に行け!雑兵に討ち取られるなど恥だと歯噛みしろ!」


 疲労の色が濃くなった兵士を叱咤する。

 それで多少なりと目に力が戻るのが分かった。

 まだ行ける。

 既に半数近くの兵士を失っている。

 それでもまだ、心が折れるなど許されない。

 最後の一兵になろうと、このフェムを落とされる訳にはいかないのだ。


「ビュロー卿!」


 兵士の声、背後に殺気。

 梯子が折れる瞬間に、城壁の縁を掴んだのだろう。

 一匹の矮鬼が短剣(ショートソード)を振り上げながらウェルロッドに襲いかかる。


「チッ!」


 盛大な舌打ちをしながら手斧で防ぐ。

 矮鬼の渾身の一撃が手斧の柄肩に喰い込む。

 短剣と手斧が同時に壊れた。

 斧身が地面に落ちる。

 矮鬼はウェルロッドに飛び掛かる。


「ビュロー卿!」


 噛み付こうと全開にした口の中に柄だけになった手斧を突き入れた。

 前歯を粉砕し、先端が盆の窪から顔を出す。


「なんと……」


 動かなくなった矮鬼ごと手斧だったものを城壁の外へ捨てた。

 その時に目に入った。

 短いながら新たな梯子をかけ登ってきている。


「まだ来るぞ!」


「ビュロー卿、武器を!」


 兵士が直槍を渡そうとするが、その兵士の顔面に短剣が突き刺さった。


「クソ!」


 新たな矮鬼達が登ってきた。

 手元にあるのは丸盾しかない。


「卿!お下がりください!」


 兵士達は大盾を構える。


「ワシが逃した矮鬼をれ!」


 ウェルロッドは丸盾で応戦した。

 丸盾の縁は刃は付いていないにしても、ある程度鋭利に削っている。

 矮鬼の足を払い、倒れた所で首元へ盾の縁を叩きつける。

 鈍い音と共に首が飛ぶ。

 その姿は狂戦士の如く。

 瞬く間に丸盾は敵の血に染まっていった。


「スゲェ……」


 その姿から、後に『血塗られた(ウェルロッド・ザ・)盾のウェルロッド(ブラッディ・シールド)』と呼ばれる。



「矮鬼や狗鬼はどれだけ死んでも構わんという事か」


 ルインは長剣(ロングソード)で雑に敵を斬り伏せていた。

 最後の一撃なのだろう、寄せ手である矮鬼達の装備は明らかに貧弱になっている。

 (アーマー)(ヘルム)などなく、襤褸切れを腰巻きにしているものばかり。

 武器も木切れや石を使い、折れた長剣を使っているものはまだマシと言えた。


「この攻撃が始まって既に一日と半分。それでも勢いは止まらんか……」


 異常だった。

 攻撃が始まった当初は雑兵でも装備はしっかりとしていた。

 今のような装備で突っ込んでくるのは気が狂っている。


「魔術か……」


 ルインが呟く。


「恐らくそうでしょう」


 部下の一人が言う。


「所謂、古代魔法。しかし、ここまで持続する魔術が存在するのでしょうか……?」


 部下も長剣を振るっていた。

 まともな防具も着込んでいない矮鬼など恐れるものではない。

 太刀筋など考える必要もなく、剣を振るえば矮鬼に当たり、それが致命傷になってくれる。

 飛んでくる矢すらない。


「分からん。しかし、魔王軍本隊は既に撤退したと見ていいだろう。こいつらは捨て駒という訳だな」


「そう思うと、哀れですね」


「団長!」


 聖徒騎士団の一人が城壁の上に駆け上がってきた。


「どうした」


「蛇からの報告です。敵本隊は撤退、フェムから二五キロの位置に敷いていた陣を引き払った模様。五〇キロまで下がったとの事!」


 それを聞いた回りの兵達が歓喜を上げる。


「まだ戦闘は終わっていない!気を抜くな!」


 すぐさまルインの叱咤。


「その情報は各城壁防衛部隊にも共有されているんだな?」


「はい!」


 その返事を聞いたルインが城壁に群がっている敵を見る。


「半日もあれば片付くだろう。クスシはまだ砦内か?」


「はい、団長からの指示を待っています」


「うむ。半日もすればこの掃討戦も目処がつくだろう。逃亡を図る敵残兵を狩るように伝えろ」


「了解しました!」


 伝令が再び走る。


「休憩に入ってる兵も全て出せ。さっさと片を付けるぞ!」


 絶え間なく二日間も続いた魔王軍の最後の攻城戦は終了する。

 フェムに入ったウェルロッド率いる籠城部隊は約半数の死者を出したが、砦の完全奪還に成功。

 南部前線も以前のラインとまではいかないが、そこから十キロの地点に新たな防衛ラインを構築出来た。

 フェムも一週間と掛からず前線基地としての機能を取り戻し、南部戦線はしばらく安定する事になる。

 後にこのフェム奪還作戦は『聖徒の血盾』と呼ばれる。

 基地としての機能を回復し復興が進むフェムにて、作戦を成功させたウェルロッドとピダーセンは再会したのだが同じ頃、北ではクーガーとの戦が始まろうとしていた。

【 次回更新予定 】 2月20日(金) 20:50

毎週 水・金 の週2回更新


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【 次回 カイツールの戦い 開戦 】

王都防衛 2万 vs 叛徒軍 10万

「究極の局地戦」が始まる

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― 新着の感想 ―
 最新話まで拝読させていただきました。  どうにか滑り込みでカイツール開戦に間に合いました。しかし王都、不穏な空気……というか、もうヤバいことが起きてますね。ベルテルブルグ、完全に本心を隠す気なさす…
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