Ⅲ-20 信頼
「上手くやっているようだ」
第一城壁の外から上がる黒煙を見て、ルインが呟く。
林冲や秦明が蛇と上手く連携しているのがそれだけで伺える。
「投石機の脅威は無くなった。敵の勢いもかなり削げる筈だ」
ルインの言う通り、第一城壁の外に展開していた魔王軍は林冲達の活躍により混乱していた。
そのお陰で、第二城壁への攻め手の勢いが無くなってきている。
後方からの増援が来ない事で動揺しているのだ。
「今の内に殺し尽くせ」
聖徒騎士団の攻撃が一層激しくなる。
魔王軍の中には反転して逃げようとする矮鬼や小鬼も現れだした。
こうなれば一方的だ。
惜しみなく矢と魔法を畳み込む。
「ルイン団長、第一城壁外の敵は一旦退きました」
「だろうな。遊撃隊のお陰だ」
第一城壁に群がっていた魔王軍も完全に統制を失っている。
後詰めが撤退したのだ、多少なりとも兵士を休ませる時間が作れる筈だ。
「砦内の兵士に通達。装備の数を当たり直せ。それと、手の空いている者は糧食と水の準備だ」
「はっ!」
伝令が走る。
「残りは矢でどうにかなる!大弩停止!速やかに補修点検に移れ!」
とりあえず凌げた。兵士達もホッとしている。
しかしまだ初日だ、こちらも被害が出ている。まだ敵歩兵が城壁の上まで登ってきていないが、それでも死傷者は少なくない筈だ。
「ルイン団長!」
伝令が戻ってきた。
「どうした」
「こちらを」
伝令が手渡したのは装備の在庫数一覧であった。
「既にフリッツ殿がまとめていらしたようです。また糧食等の準備も完了しているとのことです。順次兵士を休ませるようにと」
ルインが軽く笑う。
「団長?」
「いや、何でもない。手の空いている者から休息に入れ!予備軍は壁外で装備の回収と死体処理!急げ!」
魔王軍が退いた後には大量の死体が溢れていた。
それらから使える矢や槍を回収し、死体は城壁から離れた場所に捨てる。
南部は気温も湿度も高いため、腐敗が早く進む。
これらを適切に処理しなければ感染症の危険性がある。
「奴等が持ち込んだ油も余ってるだろう。死体は空堀に捨てて油で燃やせ。残った油は砦内に引き入れろ」
「了解!」
遊撃隊のお陰でそう簡単には大軍をフェムに集結させることは出来ない筈だ。
第二戦までそれなりに時間が稼げる。
「敵の投石機で使えそうなものも引き入れろ」
「しかし、ほとんどが燃えてしまっているのでは?」
「投石機が欲しいのではない、それに使われている木材が欲しいのだ。補修材となる」
「了解しました!」
城門の横に設けられた人二人が通れるくらいの出入り口から工兵や作業人員が外に出る。
「使えるもんは何でも使えー」
現場指揮を取る工兵長が指示を飛ばす。
「兵長!まだ使える大八車があります!」
民家の前を通った兵士が叫ぶ。
「使え使え!」
死体を槍で刺し死んでいるか確認する者、その後に矢と槍を回収する者、死体を大八車に乗せていく者。
それぞれがテキパキとこなしていく。
「一段落ですね……」
フリッツは司令部で胸を撫で下ろしていた。
「各城壁の被害報告をまとめてください。それに応じて予備軍から補充を」
「了解しました」
「フリッツ殿、糧食の在庫一覧です。長期戦を想定してかなり絞ってはいます」
「ありがとうございます。前線からの補給を当てにしたくはないのですが、それでももう少し多めに配っ
てください。空腹では戦えません」
「了解しました」
「フリッツ殿!朗報です!」
「どうしました?」
「前線からの補給の件です!」
兵士がフリッツに資料を渡す。
「これは!?」
そこには予想以上の量の補給物資が羅列されていた。
「こんなに来るのですか!?」
「第二戦までは時間が稼げる筈なので、可能な限り物資を入れるとのことです!」
「何と……、アーモリー卿には頭が上がりませんね……。すぐに受け入れ準備を!北側の城門を開放してください」
「了解しました!」
ウェルロッドと共に最前線へ来てから、兵の補充、物資の管理、情報の精査などを学んだ。
見様見真似だがきちんと役目を果たしているフリッツは、自然と兵士達から厚い信頼を得ていた。
「たかが一戦ではあるが、若者の成長は著しいものだな」
司令部の近くを通ったウェルロッドが言う。
「『男子三日会わざれば刮目してみよ』か」
「三日も経ってはいませんがね」
「細かいぞ、ルイン!お主とて、フリッツの成長を心では喜んでおるくせに」
「むしろ、成長してもらわねば困ります」
「素直でないのぉ」
呆れたように言いながらウェルロッドはルインに一人分の糧食を渡す。
「誰に似たのか知らんが、ここから離れる気配がない。お主が渡しておけ」
「……」
ウェルロッドはニヤリと笑って去っていく。
「はぁ……。フリッツ」
「ルイン殿!」
フリッツは立ち上がり敬礼をする。
「敬礼は要らん。それより、お前も食え。身が持たんぞ」
ルインから糧食を受け取る。
「しかし、まだやることが……」
「お前が休まないと下が休めないのだ、理解しろ」
そう言われて周りを見渡す。
皆、困ったような笑顔を向けていた。
「申し訳ありません、若輩故そこまで気が回りませんでした……」
「責めている訳ではない。むしろ、よくやっている」
「そうですよ、フリッツ殿!貴殿は働き過ぎる傾向がある」
「そうそう!一時的ですが、戦闘は終わったんです。もっと肩の力を抜いて」
「我々も交代で休みますから、フリッツ殿もちゃんと休んでください」
「皆さん……」
目頭が熱くなる。
シグ家家臣団筆頭のモーゼル家の人間である自分を一人の戦友として信頼し、労ってくれている。
それが何よりも嬉しかった。
「では、ここまでやったら私は休ませて頂きます。皆さんも切りの良い所で休憩を」
「了解しました!」
いつの間にか司令部を後にしたルインの口元が少し緩んでいた事は誰も知らない。
【 次回更新予定 】 2月6日(金) 20:50
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【 2/20 カイツールの戦い 開戦 】
王都防衛 2万 vs 叛徒軍 10万
「究極の局地戦」が始まる




