Ⅲ-18 支度
「ウェルロッド殿は無事にフェムを制圧できたかの」
フェムと前線のちょうど中間で、林冲は隊を集めていた。
単眼鬼とのやり合いでいくらか欠けたが、報告では百に届かぬ。
「そろそろ我らの時間か」
地に突き立てていた大刀を抜き、肩に担ぐ。
「林冲殿!」
闇から声が飛ぶ。
「おお、テオバルト殿か」
「被害は?」
「至って軽微。いつでも出られるぞ」
「ビュロー卿がフェム砦を制圧。まもなく魔王軍の攻城が始まります」
「ここまでは予定どおり、というわけだな」
一歩進み出た将が名乗る。
「テオバルト殿、副将の秦明だ。第二隊を任せる」
「秦明と申す。よろしく頼む」
「聖徒騎士団のテオバルト、司令部との連絡役です。蛇が使っている穴蔵の位置の共有もお願いします。数には限りがありますが、武器の補充も出来ます」
テオは掌ほどの革巻きを差し出した。
「四つの印だけ覚えてください——樋口、橋台、祠、畦の角。土がざらつけば正解です」
「これは助かる!」
共和国の義勇軍三千は千五百ずつの二隊。林冲と秦明がそれぞれ率いる。
狙いはフェムを攻める敵の背面を刻み、足並みを乱すこと。籠城がいつまで続くか読めぬ以上、脚を止めない——ヒット・アンド・アウェイが基本だ。
「攻城部隊の歩調を乱すのが主目的だ。留まって戦うなよ、秦明」
「分かっておる、林冲」
「どの隊を狙うかは御二人の判断に任せます」
「勢いづいているところから折っていけばよかろう」
秦明がニヤリと笑う。
「開始の合図は?」
「もうしばらく。敵前線全体が動き、意識がフェムへ向き切るのを待ちます」
林冲は耳を澄まし、夜気を吸い込んだ。
敵先鋒まで、残り千。角笛一声で始める。
「いまは防衛線近くまで下がってください」
「了解した。秦明、お前は西側を頼む。私は東へ回る」
「了解だ」
†
「第二城壁内の防衛に集中しろ!第一は捨て置け!」
ウェルロッドが檄を飛ばす。
フェムは砦を囲む石組みの第二城壁、劣化煉瓦の第一城壁、その外の空堀で守られている。
最内の第二城壁は堅牢で高さ二十メートル。限られた兵で守るには、戦場を可能な限り狭めるしかない。
「使えるものは敵の物でも使え!槍と矢を掻き集めろ!食糧もだ!」
持ち込んだ物資では到底足りない。補給線などあるはずもない籠城で、砦内の二つの井戸がどれほど心強いか。
制圧直後に水を検めさせた。魔王軍も使っていたようで、飲用に堪える。
「制圧にもたついていたら、井戸を潰されていたかもしれませんね」
フリッツが安堵の息を洩らす。
「完全に制圧されるなど想定しておらなんだのだろう」
「『蛇』の働きに感謝だ、ルイン」
ウェルロッドがルインの肩を叩く。
「蛇だけで勝てる戦はありません」
「承知だ。だが、ワシらだけでも勝てんさ」
準備が一巡したころ、ウェルロッドは砦内を歩く。
ある部屋の前で足が止まった。扉は開け放たれ、槍や弓矢の予備が所狭しと並ぶ。
「ガーランド王……」
ウェルロッドは敬礼した。王が刺殺された部屋——王国の動乱が始まった場所だ。
「この命に替えても、フェムは守り抜く」
司令部へ戻る足を速める。
「ビュロー卿」
背にルインの声。
「来たか?」
「はい。第一陣と思しき約二万が南から接近中」
「兵を城壁内へ収めろ。全門を閉鎖——門裏に逆柵を組め。胸壁上には砂と水、油壺と予備石」
「了解」
ルインが駆ける。
ウェルロッドが司令部の扉を押すと、室内の者が一斉に敬礼した。
「各員、第一種戦闘配置——時間だ」
緊張の糸が一気に張り詰める。
後の世に『聖徒の血盾』と呼ばれる、壮烈なるフェム籠城戦が始まった。
【 次回更新予定 】 1月30日(金) 20:50
毎週 水・金 の週2回更新
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【 2/20 カイツールの戦い 開戦 】
王都防衛 2万 vs 叛徒軍 10万
「究極の局地戦」が始まる




