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【AI軍事考証】王国玄冬記 ―勇者なき世界で、王殺しから始まる王国の動乱―  作者: Soh.Su-K
Ⅲ虚ろなる一角獣 聖徒の血盾

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Ⅲ-15 転機

「我ながら馬鹿げた作戦だ……」


 ウェルロッドがぼやく。

 背後に並ぶのは騎兵二万、すべて聖徒騎士団で編成されている。


「まさかワシが聖徒騎士団を率いることになろうとは……」


「ご自分で仰ったでしょうに」


 ルインがニヤリと笑い、轡を並べた。


「しかし、ビュロー卿の仰るとおりです。援軍といえど、初めて肩を並べる部隊では連携に綻びが出ます」


「だからといって、こんな死地に駆り出すのもな……」


「ビュロー卿。ご自分で立てた作戦でしょうに……」


 フリッツが溜息まじりに言い、同じく並ぶ。


「フリッツ、お主にはアーモリー卿の補佐を任せるつもりだったのに、ワシの心配を増やしおって」


「私は所詮シグ家の人間としてしか見られていません。最前線以外に居場所はないと判断しました」


「……覚悟はできているのだな?」


「勿論です、ビュロー卿。国賊に与したとされるモーゼル家の汚名は、私が雪ぎます」


「それを言うなら、司令部にいるべきはビュロー卿ご自身だ。アーモリー卿に丸投げして、先鋒どころか最前列とは」


 ルインが笑った。いつも仏頂面の彼には珍しい。

 それだけ気が立っているのだろう。出撃を待つ二万の騎兵も、どこか浮き足立っている。


「ワシはな、死ぬなら城の寝台(ベッド)の上と思っておった。だがどう足掻こうとワシはジウ家の人間。戦場で死なんと先祖にどやされそうでな」


 ガハハと笑うウェルロッド。そう、この二万は()だ。決死隊である。

 全滅の危険は大いにある。だが、全滅させてもならない。


「さて!準備はよいか、諸君!」


 ウェルロッドがルインとフリッツを見る。二人が頷くと、彼は声を張った。


「槍、掲げ!」


 騎兵は手にした槍を、まだ暗い空へ向けて掲げる。

 ウェルロッドは二人を従え、列前を駆けながら、抜身の剣で最前列の槍先を次々と軽く叩いた。

 隊の中央で馬を止め、兵たちを見渡す。


「ここに集った聖徒騎士団諸君!諸君の命、王国のために使わせてもらう!」


 その一言で、弛んだものが一斉に張り詰めた。


「目標は二〇キロ先、フェム!敵の手に落ちた前哨基地を我らの手に取り戻す!」


 作戦は単純だ。

 ウェルロッドの二万でフェムを奪還・占拠し、そのまま籠城戦へ移行。

 フェムを包囲する魔王軍の背後を、複数の遊撃隊が絶えず刺す。

 その間に全前線を押し上げる。


 要は、二万を囮に大軍を削り続ける策である。魔王軍がフェム以南へ退くまで、削り切らねばならない。籠城側が潰えればそこで終わる。どれほど削れば撤くかも読めない。

 博打が過ぎる。

 だが、手持ちの兵力を最大限に活かし、早期に戦線を押し上げるには、これが最善だった。


「我らはこれより死地に赴く!だが臆するな!神は我らをご覧あらせられる!」


 その声を浴びるたび、恐怖が薄れ、力が湧く。

 掲げた槍を握る手に、熱が籠もる。


「踏みにじられた王国を取り戻す!我らの誇りを取り戻す!征くぞ!」


 常歩で馬を進め始める。二〇キロを駆けさせはしない。

 ゆえにこの時間帯を選んだ。魔王軍が最も手薄になる刻——勝算は、ないわけではない。


「まさに、狂人でなければ思いつかぬ作戦ですな」


 ピダーセンの隣に立つ林冲(リンチョン)が笑う。


「だが、狂人のままでは完遂できん作戦だ」


「それを承知で許可を出すピダーセン殿も、なかなかのもの」


「褒めておるのか、林冲」


「勿論。我が主も嬉々としておりましょう」


「さすが剛皇帝(ガンファンディ)、根は猛将よ」


「仰るとおり。ピダーセン殿も」


 司令部にはピダーセン、テオバルト、グラッチが詰めている。

 この三名が前線全体の指揮を執る。


()を絶対に死なせるな。いいな」


「はっ!」


 林冲が頭を垂れる。

 彼の三個大隊のうち、一個大隊は三〇名規模の小隊へ細分し、進軍するウェルロッド隊の前後左右を支援。

 残る二個大隊は籠城が始まり次第、妨害攻撃に加わる手筈だ。


「もう行くのか?」


「拙者も武人なれば。気が高ぶって仕方がないのですよ。ウェルロッド殿にちょっかいを出す手合いも出ましょう。まずはそれを蹴散らして、準備運動といきます」


 笑いながら林冲が司令部を後にした。


「彼らのおかげで兵の融通が利く。共和国には感謝しかない」


「全くです。三千という数でも、この戦場では充分に局面を動かせます」


「それを見越してのことだろう。ニニオめ、なぜバーテルバーグに生まれなんだ……」


 ピダーセンが口惜しげに呟く。


「とにかく、まだ動くな。敵前線の意識がフェムへ向き切るまで待て」


「潜ませた蛇との連携も密にしています。動きがあれば、すぐ報告が」


「……待つしかないか」


 ウェルロッドたちと共に進みたい——それはピダーセンもグラッチも同じ思いだ。

 だが、それでは策が崩れる。

 戦友が死にゆく中でも、動いてはならない時は、絶対に動いてはならない。


 鬨の声が上がったのは、それから半刻ほどしてからだった。

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