Ⅲ-13 懸念
「諸君に集まってもらったのは他でもない。我等王国軍は明日より攻勢に出る」
ウェルロッドの言葉に、集まった指揮官達は歓喜の声を上げた。
その数、総勢五十名程。
単純に計算して、彼等の下に三千人の兵士がいる事になり、旅団長以上の指揮官が集まっている事だ。
「先も挨拶したが、儂が総司令を拝命したウェルロッド・ジウ・ツー・ビュローだ。しかし儂自身、これだけの大軍の指揮を執るのは初めて故、独断ではあるがアーモリー卿のお力をお借りする事にした。よろしいですかな?」
「うむ」
ピダーセンが一歩前に出る。
「この様な老いぼれ二人の元に集められ、貴殿等はさぞ不安であろう。特に、儂とともに新着としてここへ来た若者はな」
ピダーセンの戯けた物言いに、指揮官達はどう反応していいか分からず、妙な空気になる。
少々不安になるウェルロッド。
「だが、安心しろ!儂はともかく、ここにおるビュロー卿は、先の魔王軍の攻撃に際し、誰よりも早く前線に駆けつけ、敵の進軍を食い止めた最大の功労者である!上げた敵の首級は数知れず!寡兵で前線を押し戻したのだ!」
古参の指揮官から歓声が上がる。
そうだそうだ、ビュロー卿万歳と拳を振り上げる姿に、ウェルロッドは気恥ずかしくなってきた。
「そんな彼は今、総司令という栄誉ある任をニニオ第一王妃から直接仰せつかった!ならばどうなる!」
「魔王軍を蹴散らしましょう!」
「やっちまいましょう!」
「王国の土地から奴らを追い出せ!」
古参の熱が新着の指揮官へも伝染してゆく。
やはり、演説が上手いのはバーテルバーグ家の血筋なのだろ。
一瞬にして異様な熱気に包まれる。
「そうだ!奴らを叩きのめすぞ!奪われたモノを奪い返すぞ!」
今にも戦場へ駆け出しそうな程の盛り上がりを見せる指揮官達。
この後、作戦の説明をテオバルトがする予定なのだが、この雰囲気のままで大丈夫なのか心配になるウェルロッド。
「では作戦の詳細を聖徒騎士団の方から説明してもらう。心して聞くように!以上!」
その一言で一瞬にして静かになる指揮官達。
ピダーセンは優れた軍人であり政治家なのだと痛感させられた。
「聖徒騎士団第二師団長のテオバルトです。今回の作戦については私の方から説明させて頂きます」
指示棒を持ったテオバルトが前に出た。
†
「怪しい動きをしているのはベルテルブルグ家です」
指揮官達を集めた作戦会議が始まる三時間ほど前、信頼出来る者数名だけの話し合いが行われていた。
呼ばれたのは、総司令官ウェルロッド、その補佐官フリッツ、聖徒騎士団長ルイン、第二師団長テオバルト、最古三家からピダーセン、先遣隊を率いた勲三家のガルドーネ・ヴァン・ガイルース、そして古くからピダーセンと交流があるグラッチ・バイカルの七名。
「ベルテルブルグ家?」
「バーテルバーグの分家ではないか」
その場にいた殆どが目を見開いた。
「ベルテルブルグが何故?玉座が欲しいのか?」
グラッチが忌々しげに言う。
「その通り、ベルテルブルグは玉座を欲しています」
テオバルトがそれを肯定する。
「王家の分家ではないか、筋は通らんぞ?」
「それがそうでもなさそうなのです」
「一角獣……」
ルインがポツリと呟く。
「どういう事だ?」
グラッチがルインの方を見た。
「個人的な考えなので真に受けずに聞いて欲しいのですが、昔から不思議に思っていた事がありました」
ルインは一度ピダーセンの方を見る。
ピダーセンは無言のままに頷く。
「王家であるバーテルバーグ家の紋章は太陽を表す円の前に一角獣の印。対して、ベルテルブルグ家の紋章は一角獣のみ」
「分家故に一角獣のみなのではありませんか?」
「しかし、他諸侯の紋章は逆になっている」
「ファイファー家は熊、パイファー家は満月に熊……」
「元は太陽ではなく、月だったと……?」
ガルドーネとグラッチが顔を見合わせた。
「つまり……」
「ベルテルブルグが本来の王家で、バーテルバーグは分家だったと……」
全員の視線がピダーセンに集まる。
しかし、ピダーセンは妙に落ち着いていた。
「……、昔そう疑った事がある。しかし調べようがなかった。いつから入れ替わったのかも何も、資料がない。国王ならば何か証拠となる資料を知っているかもしれないが、儂は玉座などに興味はない。国政が安定し、民が安心して暮らせるならば、王家の真偽などどうでもいい」
「アーモリー卿の言う通り。王国の窮地を狙って玉座の簒奪を謀るなど、王を名乗る資格などない」
そう言ってウェルロッドは拳を机に叩きつけた。
「アーモリー卿、儂はニニオ第一王妃から直接総司令を任されました。その際の王妃のお姿はまさに王位に値するものでした。儂はニニオ第一王妃こそ、救国の王であると確信しております」
ウェルロッドの言葉に、一同は押し黙った。
ピダーセンの反応を待っているのだ。
「……、ニニオは優秀だ、儂もそう思う。故に、バーテルバーグ家の代表として元老院に送ったのだ。ゾーン城に引き籠もっておる愚兄とは雲泥の差だ」
「アーモリー卿もそう思われていたのですね」
「あぁ、可能であるなら我が息子の相手にと思ったこともある。まぁ、ガーランドが手放さなかったがな。ニニオが救国の王か……」
「アーモリー卿……」
「良いではないか、救国の女王など王国史に空前絶後。その女王の尖兵として我等の名も残る。騎士名誉に尽きるではないか!」
ニヤリと笑うピダーセンにつられ、全員が覚悟を改める顔になった。
「しかし、ベルテルブルグの件は用心しておいた方がよいのではないか?」
「微力であるが備えは残しておる。お主もそうなのであろう?ビュロー卿」
「……、ご子息を残されたのですか?」
「愚息には元老院の雑務も丸投げしておるからな、王都に釘付けだ。お主も息子を備えとして置いておるのだろ?」
「アーモリー卿はお見通しですか」
ウェルロッドは息子をジウ家の元老院議員として王都へ派遣し、その手勢として五百の兵を王都近郊に待機させていた。
ピダーセンもそうなのだろう、恐らくグラッチなども。
「我らの様に考える諸侯も少なからずいるはず。それらを集めれば二万くらいにはなるのではないか?」
「ベルテルブルグの兵力によりますな……」
「王城の守りは硬い。フランキを始めとする専属近衛隊も王都衛兵隊もおる。それだけでも数万の兵力だ、問題はあるまい」
「王都を発つ前に数を改めました。近衛隊は総勢八千七百、王都衛兵隊は二万六千です」
テオバルトが言う。
「三万程度か」
「五万くらいの兵力は王都に集められるという事ですな」
いざとなれば即席で五万の兵を王都に配備出来る。
王都自体が要塞都市であるため、それだけの兵力があればかなりの時間を耐える事が出来る筈である。
前線から救援部隊を送る時間も稼げる。
一同は胸を撫で下ろした。
「まずはフェムの奪還からですな」
ウェルロッドはテーブルの上に広げられた地図を睨んで言った。
「どう考えておる、ビュロー卿?」
ピダーセンがウェルロッドの顔を見る。
「使い潰して構わんとニニオ陛下は仰られた。ならば、儂に出来ることは一つ」
ニヤリと凶悪な笑みを浮かべるウェルロッドであった。




