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【AI軍事考証】王国玄冬記 ―勇者なき世界で、王殺しから始まる王国の動乱―  作者: Soh.Su-K
Ⅲ虚ろなる一角獣 八九六大攻勢

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Ⅲ-12 支柱

 即応して動ける主力の多くが、聖徒騎士団だった。

 ――これで王都の守りは薄くなる。ニニオはそれでも南部を選んだ。

 ウェルロッドはギリ、と臼歯を噛む。


「ビュロー卿?どうなさいました」


 隣の指揮官が声を掛ける。テオバルト・イースト――ルイン直属の若き将だ。


「テオバルト殿」


「私は若輩、テオで結構です。お気軽に」


「ではテオ。貴殿はどう見る」


「何を、でしょう」


「王都防衛に残るはずの貴殿らまで南部へ引き出す、この采配を」


「南部戦線の安定こそ急務――そういうことでしょう」


「それは儂も重々承知だ。だが、嫌な予感がある」


 テオの視線が僅かに細くなる。観察の癖のある眼だ――擦り減った柄の握り痕、鎧の綴じ目の傷、腰の鞘の角の欠け……人の“使い方”が見える眼。


「魔王軍が再び大軍を投じる、という予測のことで?」


「それもある。だが儂が案ずるのは別だ。王都だ」


 ウェルロッドは声を潜める。


「テオ、貴殿のところへ蛇から降る報は、どの程度だ」


「多くはありません。……王都の懸念、ですか」


「ここ数日、城門詰めの交代記録が薄いと聞く。市井では矢羽の相場が上がり始めたとも。いかにもきな臭い」


 テオは短く頷いた。


「怪しい動きの諸侯がいるのは確かです」


「やはりな。とはいえ、其奴が武で都を衝く心配は薄い――陛下はそう見ておられると聞くが」


「その件は、ルイン殿も交えて」


「ビュロー卿!」


 背から声。振り向けば、朗らかな笑み。


「これはこれは!アーモリー卿ではないですか」


 ピダーセン・フォン・バーテルバーグ・ツー・アーモリーであった。


「今回は貴殿の指揮下に入る。よろしく頼むぞ」


「ワシなどが総司令というのも妙な話でしてな」


「なあに、野戦指揮なら王国でも一二を争うジウ家であろう」


「世辞はよしてください、アーモリー卿。所詮、前で暴れられればそれで良い手合いです」


「では、儂と同じだな」


「三下のワシなどと比べられては困りますぞ、アーモリー卿」


「何を申す。あれほどの食人鬼(オーガ)首級(くび)を上げておいて」


「ありゃ儂一人の手柄ではありません。兵がよく働いてくれただけです」


「ハッハッハ、まあそういうことにしておこう」


 テオは二人のやり取りを黙って見た。

 ――鎧の合わせは実用一点張り、足運びに隙がない。笑っていても背は壁を取る。

 噂通りの激情、だが実際は短慮に非ず。直感で本質を掴む気配がある、と彼は見立てた。


「ご歓談のところ失礼します。私、ビュロー卿の補佐を仰せつかった、聖徒騎士団第二師団長テオバルト・イーストと申します」


「うむ。ピダーセン・フォン・バーテルバーグ・ツー・アーモリー。よろしく頼む」


「現地到着し次第、代理指揮のフリッツ殿と、補佐の我が騎士団長ルインを交えた会議を。アーモリー卿にもご同席願えますか」


「儂の独断でよければ、古参新着を問わず戦慣れの諸侯も集めよう。其奴等も交えて詰めた方がよかろう」


「大変助かります」


「……で、儂の品定めは済んだか、テオバルト?」


「なっ――」


「ハッハッハ!信に足るか、重大な報を渡せる器か、見極めは王国の命運に直結する。お主の目は正しい。が、やるならもう少し、悟らせぬようにな」


「アーモリー卿……卿に気づかれず、というのは不可能でしょう。若き者を怖れさせるような真似は感心しませんぞ」


「それが“怖がらせ”になるのか!?」


「卿ほどの御仁に言われれば、若手は縮み上がりますわ。なぁ、テオ」


「は、はい!い、いえ!私の視線が無礼でした。ここにお詫びを――」


「ほら、萎縮してしまったではないですか、卿」


「儂のせいか!?」


「当たり前でしょうが!何をなさっているのです」


「おお、すまんテオバルト!そんなつもりではなかった、頭を上げてくれ!」


 ウェルロッドはガハハと笑い、胸を撫で下ろした。

 ――ピダーセンの()り様は、正直ありがたい。


 総司令官という肩書で、最初に困ったのは家格である。

 南部全軍の指揮権は、本来なら国王か大将軍の職掌。最古三家でも勲三家でもないジウ家には、身に余る。ピダーセンを事実上の総司令に据えれば、諸侯の不満は最小に収まるはずだ。


 怖いのは突き上げそのものではない。突き上げがもたらす、諸侯の心理的分断である。

 これだけの兵力を一丸で動かせば、効果は絶大。だが大軍は崩れるのも早い。いったん綻べば、撤退すらままならず潰走――その時、王国は終わる。


 本音を言えば、すべてをピダーセンに丸投げしたい。だが彼は筋を通す男だ。ニニオの命に背くことはすまい。

 何より――ウェルロッド自身が背きたくなかった。


 ニニオは、幼い日の邂逅を覚えていた節がある。

 その記憶を踏みにじりたくない――至極私的で、しかしウェルロッドにとっては何より重い理由が、胸の芯に残っていた。


 だからこそ、支柱は折れぬ。

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― 新着の感想 ―
 最新話まで拝読させていただきました。  王都を手薄にしても前線に戦力を集中させる差配は、大胆かつ、分散させるよりも合理的な戦術ですね。内憂外患を抱えての苦渋の決断だと思いますが……。  ビュロー…
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