表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【AI軍事考証】王国玄冬記 ―勇者なき世界で、王殺しから始まる王国の動乱―  作者: Soh.Su-K
Ⅲ虚ろなる一角獣 八九六大攻勢

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/84

Ⅲ-8 謁見

「それで――わざわざニニオ王妃が、頭を下げに来たと?」


 共和国宮城、謁見の間。ニニオは蔡嘴(ツァイズィ)の前に膝を折っていた。

 ()()――補給路たる街道の拡張工事を共和国に請け負わせる策である。曲がりなりにも同盟国、正価を払うなら応じうる。


「身勝手な願いと承知の上でのお願いです。しかし魔王軍を食い止められねば、共和国にも必ず波が及びます」


「我を脅すか、ニニオ王妃」


 圧が落ちる。剛皇帝(ガンファンディ)の二つ名に偽りなし。屈強の騎士とて膝を折るだろう。だが、ニニオは怯まない。


「脅しなど。聡明なる蔡嘴殿なら、私が言わずともお分かりでしょう。――だからこそ、既に王都へ多くの手の者をお回しなのでは?」


「……喰えん女だ。ガーランドが(イェン)の次に愛しただけはある」


 蔡嘴はふっと笑い、威圧を解いた。


「買いかぶりですわ、陛下(ビーシァ)。私はただの病弱な女」


「何を言う。今からでも我が貰い受けたいくらいだ」


「ご冗談を。陛下と私では釣り合いが取れません」


「釣り合いなど――っと、失敬。今はその話ではなかったな」


 丞相の冷たい視線に気づき、蔡嘴は姿勢を正す。


「請け負うのは吝かではない。だが無償ボランティアはできぬ。今の王国に工費の支払い能力はあるまい?」


「仰る通り、王国は資金不足に陥る寸前です」


「その状態で、我が国に工事を依頼とな!」


 脇に控えていた丞相が声を荒げる。


「黙れ、丞相。この女が策もなく単身で来るわけがなかろう」


 蔡嘴は愉快げに目を細めた。


「して、王国は何を担保にする? 国土か、特産か? “魔王軍撃退の名誉”などというつまらぬ文言は御免だぞ」


 どす黒い笑み。

 ニニオはひとつ深く息を吐き、顔を上げる。


「我々を」


「なに?」


 毅然と、蔡嘴を見据えた。


「我々、王国それ自体を担保と致します」


 廷臣がざわめく。丞相が一歩出かけ――蔡嘴の手が静かに制した。



「よろしかったのでしょうか、陛下。あのニニオとか言う女の言う通りに、王国を支援するなど……」


 丞相が溜息を吐く。結局、共和国は王国からの依頼を受けることになった。


「丞相、それはニニオを警戒しての物言いか?」


 蔡嘴は上機嫌だ。ニニオが去ってなお、口元に笑みを残す。


「あの女は自国を売りに来たのですよ? しかも『自国を担保に』と。魔王軍に敗れれば王国は消え、取り立てる物も消える。実質、担保などあってないようなものでは?」


「そんなことは分かっておる」


「ならば何故!」


 思わず声が荒くなる。


()()豪龍卿の娘、予想よりも遥かに賢く、豪胆であった」


「……気に入られたのですね」


 丞相は肩を落とす。蔡嘴は分かりやすい男だ。


「あれはいい女だ。共和国にこそ相応しい」


「はぁ……」


「ニニオは琰に並ぶ程に賢し。加えて豪龍卿譲りの豪胆と潔さがある。琰が才女ならば、ニニオは女傑だ。女にしておくのが勿体ない。いっそ王国など要らぬ、ニニオそのものを貰うのもアリだな」


 ガハハと笑い、蔡嘴は自室へ戻った。


「出国までの間、監視は厳にしておけ。怪しい動きがあれば、お前たちの判断で行動してよい」


 丞相の言葉に、ゆらりと現れた影が答える。


「御意」


 共和国における『蛇』の類い。独自判断の許可――場合によっては殺も含む。

 それほどに丞相はニニオを警戒していた。評価は蔡嘴と同じ――賢く、豪胆。ゆえに危うい。

 同盟とはいえ他国。共和国はすべての隣国を仮想敵として備える。だから二重の監視をつける。


「陛下が傑物と呼ぶ女だ。病弱と聞いていたが、まさか我が国にまで来るとは……。病弱も虚言か?」


 丞相は親指の爪を噛みながら歩く。機嫌が最悪の時の癖だ。部下は距離を取る。


「前王ガーランドとは良好だったが、アブトマットに取って代わってからは外交など形ばかり。そこへ実妹にして第一王妃のニニオが現れた……」


 丞相は立ち止まった。


「おそらく、現状の王国で最も我らが警戒すべき相手は()()()だ」



「大丈夫でしたか?」


 蔡嘴からあてがわれた客室に戻るなり、アナが出迎えた。


「何とか依頼は受けてくれる様です。良かった……」


「そうではありません。私が聞いているのは、ニニオ様ご自身のお身体です!」


 アナはぷりぷりと怒る。

 カルカノは護衛として蛇の精鋭を六名つけた。ニニオは過剰と感じたが、「これでも少ない」と言われた。蛇の外側には聖徒騎士団の一個中隊が固める。


「王国はいま、ニニオ様とカルカノ様、ウィンチェスター様でどうにか回っている状態。御身に何かあれば、王国が揺らぎます」


 小柄で、芯が強い。ニニオは感心する。


「私には何の力もありませんよ、アナさん。この案もウィンチェスター殿の発案ですし、私が来たのも他の方々がお忙しいからで」

 

 ――この人は何を言っているのだろう。

 いまのニニオは全権大使として来ている。判断を委ねられ、通すだけの身分と権がある。それを「何の力もない」と言う。

 『無自覚の才能は、ときに暴力だ』――アナはそんな言葉を思い出した。


「ニニオ様、あえて多くは申しませんが、共和国はニニオ様を重要人物と定めたようです」


 アナが耳打ちする。


「あら、なぜ?」


 はんなりと笑う。


「この国に入った時点で我々には監視がついていました。謁見までは探る視線、いまは殺気も混じっています。下手に動けば、王国へ帰れなくなる恐れが」


「まあ。では早急に帰還しましょう。約束は取り付けましたし、成果は上々ですわね」


 ニッコリと笑うニニオに、アナは安堵と同時に薄ら寒い震えを覚えた。

 ――この人物が逆賊側でなくて、どれほど幸運だったか。


「ニニオ様の仰る通りです。すぐに王都へ戻る支度を」


「御意に」


 支度はすでに整っている。あとは二頭立ての馬車にニニオを乗せるだけ。

 気丈に振る舞う彼女の体は、カルカノ処方の気付け薬で無理をきかせているに過ぎない。負担は小さくない。王国の頭脳の一人にここで倒れられては困る。

 アナはニニオの体調と、共和国の諜報員の動きを注視しつつ、王国へ向けて出国した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハイファンタジー 戦記 シリアス 王族 貴族 内政 陰謀 魔王 男主人公 群像劇 幼馴染 成り上がり 策謀 裏切り 教会 騎士団
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ