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【AI軍事考証】王国玄冬記 ―勇者なき世界で、王殺しから始まる王国の動乱―  作者: Soh.Su-K
Ⅱ 血塗られた剣 王都大暴動

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Ⅱ-38 意志

§ 王国元老院布告 第一号


王国は、元老院の議決の下に、下記の通り布告する。


一、アブトマット並びにその随従の者らを逆賊と断ずる。

一、其の罪状は、ウィリアム国王を拉致したのちに逃亡したること。

一、右により、当人に付与された官名・称号・領地を剥奪し、領兵の動員・徴発・徴税を禁ず。

一、呼応の諸侯・兵は七日を限りに武具を捨てて出頭すべし。従わざる者は同罪に処す。


王国元老院 【院璽】


§


「申し訳ございません、ニニオ様……」


 カルカノとウィンチェスターは頭を下げていた。

 アブトマットによるヴィルの拉致と王都からの逃亡で、家臣団を含むシグ家の多くが姿を消した。スプリングフィールド城に残ったのはニニオただ一人である。


「仕方ありません、愚兄があの様な暴挙に出たのですから。猊下や丞相殿の判断は正しい」


 寝台(ベッド)に腰掛け、ニニオは淡々と告げる。

 アブトマットは急遽設けられた元老院によって逆賊に指定された。これに連座してシグ家も反乱分子と見なされ、シグ家出身のニニオ・フォン・バーテルバーグは城内での軟禁処分となった。


「私よりも、シャルロット殿の様子はどうですか。彼女が目覚めれば幾分楽になるのでは」


「仰る通りです。しかし、シャルロット殿は――」


「愚兄と同じ血が流れていると考えるだけで、目眩がしてきます……」


 ニニオはわずかに肩を落とした。だが、目は濁らない。


「嘆いている場合ではありませんね。猊下、どうか王国をお守りください」


 元老院の会議で、カルカノは国王代行としての権限が与えられた。とはいえ全権ではない。重要事は元老院の過半で裁可される。


「微力ながら、尽力いたします」


「丞相殿も、よろしくお願いします」


「はい」


 二人が退室しようとした時だ。カルカノだけがニニオに呼び止められた。


「猊下、お話がございます」


 カルカノとウィンチェスターは一度目を見合わせる。ウィンチェスターは軽く頷き、そのままニニオの部屋を出ていく。それに続いて、ニニオの侍女たちも退室した。

 扉が完全に閉まったことを確認して、ニニオは掌ほどの羊皮紙を差し出した。角は擦れて柔らかく、表には短い番地、裏には簡素な印がひとつ。


「これは……」


()()()なのです。使わずに済むのが一番ですが、使えば戻れません。民はもう『ガーランドの子』を歓迎しないかもしれない。それでも切るなら、結果で黙らせるしかない。……私は、猊下が玉座に座られても構いません。国が保てるなら。けれど決めるのは私ではない。切るか、伏せるか。判断は猊下にお任せします」


 只事ではない。カルカノは羊皮紙を懐に収め、短く礼をした。


「承知しました。内密に、そして迅速に」


 部屋を辞すと、彼は私記を一行だけ記し、封をした。

 ――僧衣の上に王冠は置かない。私は座らない。

 封書は元老院書記局に預けられ、裏には開封条件だけが記された。公にはしない。だが自らに錠を掛ける。


 すぐさま使者の支度が整えられた。書状は声高ではないが効力を持つ。

 封緘された記録保全令。礼拝堂査閲許可状。密行手形二通。秘密召喚状。いずれも印の照合で即日発効と明記されている。



「エン!どこだ、エン!」


 侍従長の声が中庭に響く。

 ここは古くからのバーテルバーグ家の居城、アーモリー城。王都がスプリングフィールドへ遷る以前、王家の東方居城として城下は栄え、今も王国屈指の大都市である。なお「東都」の通称は、さらに東の商都ベレッタに譲られて久しい。


「ここです、侍従長!」


 納屋から男が飛び出した。


「ピダーセン様がお待ちだ。急ぎなさい」


「えっ、もうそんな時間ですか!」


「仕事に集中するのは結構だが、時の鐘は待ってくれんぞ」


「申し訳ございません!」


「早く行きなさい」


「はい!」


 男の名はエンフィールド。成人を過ぎ、今年で二十一。

 黒髪黒瞳の面立ちで、肌はやや黄味がさす。共和国の血を引くのだろう。どこか異郷の気配をまとっていた。

 彼はアーモリー城主ピダーセン・フォン・バーテルバーグの小姓(ペイジ)で、住み込みで仕える。孤児として拾われた身だが、読み書きから武術まで、ピダーセン自らの手で仕込まれてきた。礼法や知識も抜かりがない。


「遅くなり申し訳ございません、ピダーセン様!」


「何をしておった」


「馬具の手入れをしておりました」


「そうか。(ハイリー)の具合はどうだ?」


「はい、今日も元気です」


「重畳。では稽古だ」


 ピダーセンがエンフィールドに木剣を渡す。


「ピダーセン様、今更なのですが私が剣術を習う意味があるのでしょうか……?」


「剣は嫌いか?」


「いえ、そんな事はないのですが……。私は小姓です、剣の技術が必要とは思えないのです」


「……、王都で大きな戦闘が起きた」


「え……?」


 ピダーセンは王都で起きた暴動について、エンフィールドに話し始めた。

 世間では『王都大暴動』などと呼ばれ、主にスプリングフィールド城を占拠した市民団体を殲滅した事に対して賛否が分かれている。

 少なくとも、大僧正であるカルカノをトップとする元老院が設立され、国王不在の間の政治を司る事には賛成の意見が多い。摂政であったアブトマットに対しては批判しかなく、国賊に指定された事は称賛されていた。


「そんな事が……。しかし、ピダーセン様は元老院に入らないのですか?」


「バーテルバーグ家の代表としてニニオを指名した」


「ニニオ様をですか?」


 これに関してはカルカノも驚いていた。

 ニニオは元々シグ家出身だが、その聡明さはピダーセンも知る所であり、何よりピダーセン自身がニニオを気に入っているのだ。

 それ故に、シグ家という事で軟禁となったニニオを心配していた。

 バーテルバーグ家代表に選んだのは、軟禁を少しでも緩和する為でもある。


「儂もいい歳だ。もう政治に興味などないし、この城から離れる気もない。お前を鍛えるのが一番の仕事になっておる」


 そう言ってピダーセンはガハハと笑った。


「では、始めるぞ」


 改めて剣を交える。

 最初の一合は受けられた。二合目で腕が痺れ、三合目で間合いが崩れる。

 齢七十を越えた老将の体はなお衰えを見せず、厚い胸板と肩が衝撃をいなし続ける。


「闇雲に振るなと、いつも言っておるだろう。相手を見ろ」


「はい!」


 エンフィールドが間合いを取り、呼吸を整えようとした隙に、ピダーセンは軽く揺さぶる。刃先の角度、足の運び、肩の沈み。小さな変化が次の一手の前触れになる。


「武器の先に目が吸い寄せられている。肩、膝、息遣い。全体をぼんやりと捉えろ」


「はい!」


「一点に焦点を結ぶほど、囮に引っかかる。輪郭で見ろ。空気の変わり目を先に感じろ」


 言葉は届くが、体は追いつかない。視線が整わぬ限り、陽動に反応し、打突が遅れる。

 視界の中心に針を立てないこと。刃先ではなく相手の輪郭と、その周りの空気を見ること。肩が沈む一拍、踵が半指浮く瞬間、衣の擦れ、吐いた息の湿り。目は一つ所を見ていても、心は東西南北とその間へ広く配る。古い兵の教えにならい、周囲を含んで捉える稽古だ。

 それでもエンフィールドは歯を食いしばり、打ち込みの間隔を半拍詰めた。汗が首筋を伝い、土の匂いが呼吸に混じる。


「難しかろうが、訓練だ。これは戦の場だけの話ではない」


 ピダーセンは木剣を受け流しながら続けた。


「世の出来事はつながって動く。点ではなく面で見れば、遅れは減る」


「はい!」


 最後の一合。エンフィールドの木剣は狙いより指一本分外れ、衝撃が掌に痺れを残した。

 痺れがまだ抜けきらぬうちに、城門の方から蹄が石を打つ音が強まる。



 見張りの声、閂の外れる響き、開門。

 聖徒騎士団の使者が馬を進め、アーモリー城へ入った。

 謁見の間で使者がピダーセンに差し出したのは連絡事項だけではない。


「記録保全令、礼拝堂査閲許可状、密行手形二通、秘密召喚状。いずれも印の照合で即日発効いたします」


 ピダーセンは受領簿に署名し、封蝋の朱を確かめる。


「バーテルバーグ家は沈黙を保つ。城内の者は外に出すな。必要な者だけ通せ。護衛を一枚増やせ」


「御意」


 侍従長が頷き、静かに合図を飛ばした。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

次回から次章『Ⅲ虚ろなる一角獣』が始まります。

もし楽しんでいただけたら、ブクマやリアクションで応援していただけると大変励みになります。

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― 新着の感想 ―
 最新話、拝読させていただきました。  ニニオさんの切り札……なんなのでしょう、すごく気になります。  “僧衣の上に王冠は置かない。私は座らない”  カルカノさんのこの覚悟は、とても素晴らしいです…
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