第二話 お嫁にしてください!
二人で食卓を囲み、食事を嗜む。
メニューは和食一辺倒であり、鯖の塩焼き、味噌汁、漬物、白米とどちらかというと朝に食べたくなるものだが、味噌汁の温かさが身に染みて疲れを癒してくれたため、「たまにはこういうのもありだな」と思うのだった。
「・・・それで、神様が一体僕に何の用なんですか」
「あはは、まだ疑ってますね?」
「半分は・・・」
「ベタな話ですよ」
イナリはそう言うと、昔話を始めた。
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むかしむかし、現代よりももっとむかしのことでした。
ある少年が、山の奥の寂れた祠を尋ねました。
「そこには悪い狐が大昔に封印されたんだよ」
母親から言い聞かされていた彼でしたが、迷子になりうっかりその祠を尋ね、
なんとあっけなく封印を解いてしまったのです。
煙がもくもくと上がり、中から出てきた狐は言いました。
「助けてくれてありがとう!君の名前は?」
少年と狐はすぐに仲良くなり、秘密の遊びを時々するようになりました。
しかし、あっという間に少年は黄泉に逝ってしまいました。
■
「それで、その少年が僕だったと」
「探すの大変だったんですよ?今朝の件が無ければ来世になっても探していたかもしれませんし」
「今朝の件・・・」
手の主の言葉が脳内に過る。
「助けたのはもちろんこの僕ですよ!神通力ってやつです!」
「なるほど・・・でも、どこにも君はいなかったよ?」
「神様なんて人には基本見えませんからね!見せようと思えば姿を現すことができるって感じで!」
味噌汁を飲み、息を吐く。
「で、そんな邪悪な神様は結局僕に何をしてほしいのさ」
冗談交じりに言うと、イナリは少し頬を膨らませる。
「邪悪ってなんですかー!あの村では、狐が悪い物とされてただけですし!
僕なんもしてないですもん!」
「冗談だよ、ごめんね」
イナリはまだ少し怒っているのか、顔が少し赤い。
「本当は黄泉まで追いかけたかったんですけど、信仰が足りなくて力が出せずに追いかけられなくて・・・
その分、現代っていいですよね!八百万の神をみんなちょっとは信じてて。
おかげで力を取り戻せて、こうやって全国各地を巡ることができるんですよ!」
「そりゃあいいことだね、現代って神様にとっても便利そうでなにより」
「他人事みたいですね・・・まあ他人ですけど
それで、あなたを探していた理由は単純ですよ!」
「何かな?」
味噌汁をまた口に含む。
「ズバリ、恩返しです!そのために、僕はあなたのお嫁になりにきました!!」
「ゲホッゲホッ!?」
ココロは思わずむせかえる。
(え、なに、お嫁?恩返しはなんとなく察してたけどそこまで行くの?)
「僕をお嫁さんにしてください!」
「そ、そんなこと言われたっていきなり無理だよ!」
「こ、これでもですか・・・?」
イナリはココロに抱き着き、上目遣いを披露する。
(う、純粋な瞳・・・)
ほのかに香るいい匂いと、柔らかい肌。
ぴょこぴょこ動く獣の耳に、好奇心がくすぐられる。
しかし、ココロはそう簡単に堕とせる人間ではない。
いや、誰だってそうだ。
「わ、悪いけど心の準備が・・・」
「・・・わかりました」
あっさりと引き下がるイナリ。
心臓の鼓動がゆっくりになるのを感じる。
「その代わり!認めてもらうまで、ここに住まわせてくださいね!
もちろん、家事も僕がします!未来のお嫁さんですからね!」
ココロは一瞬迷ったが
「・・・まぁ、それくらいなら」
と受け入れるのであった。