二話 僕の日常
チャイムがなった。
学校全体にそれは響き渡る。
始業時間、五分前だ。
「おー。真面目くーん。また本なんて読んじゃってー。昨日よくもサボってくれたねー。俺はカラオケしたかったぜー?お前とー」
今教室入って来たヤンキーが、肩を組んでくる。
無視して、本を読む。
「••••あいつも来なかったしよ。ちっ、おい。無視すんなよおい」
取り巻きのヤンキーは、僕の椅子を蹴る。
少し、揺れた。
「おーい。お前ら。授業を始めるぞ。席に座れ」
「ほいほーい。先生ー。また昼休みなー。真面目くーん」
先生の注意で、ヤンキー達は席に戻っていく。
そんな朝。
これが僕の日常、のはずだった。
「前回の続きから。覚えてるかな?ここで彼は不安を和らげようと、強い握手をして、」
先生が、授業を始める。
直後、鞄から半透明の液体がにゅっと、出て来た。
「君達は、画一的な教育システムを取っている、と。同じ部屋にまとめて。なるほど。興味深い」
液体から小さい声が聞こえる。
その液体は様々な形に変形もしていた。
「は、話さないで、、バレたくないから、、」
「君は、周りに見られたくないと。分かった。気を付けると、しよう」
小さく、注意する。
美少女は、学校に着いてきたがったのだ。
僕はそれを、許可してしまった。
つい。
「おい。そこ。話さない、、と、珍しいな。さっきまで先生が言っていた事、分かるか?」
「え、あ、あの、あの、」
「どうしたんだー?本を読み過ぎて、先生のクソみたいな授業が退屈になったかー?」
ヤンキーの茶化しで、クラスに笑いが起こる。
僕の顔が、熱くなった。
「ごほん。で、だ。分かるか?」
「え、あ、あの、え、」
「君。あの成体は、幼体の気持ちに、焦点を当てていたよ。小さい群れに居られなくて、寂しいと」
耳元に細い液体が流れてくる。
そこから、小さく言葉が聞こえた。
「あ、あの、孤児が一人で寂しかったという話。ですか、?」
「よく聞いているな。だけれど、授業中に話すのは駄目だ。次は気をつけるんぞ」
「俺と対応違くすぎねー?酷いわー差別だわー先生ー」
「普段の言動の差だ。当然だ」
またクラスで、笑い声が起こる。
僕はまた少し、顔を赤くする。
◾️◾️◾️◾️◾️
チャイムがとっくになり終わった、昼休み。
僕は校舎の裏に、やって来た。
小さい階段に座り、弁当を食べる。
「慣れれば、中々。作ってくれた君に感謝だ」
隣には、美少女が座っていた。
手で僕の弁当を食べる。
褒められて、僕は照れた。
「特に美味しかった物、ある?また作るよ」
「個人的な好みを言うならば、この小規模な木と白い粒の集合体」
ブロッコリーと白米を、美少女が指差す。
それは、料理もクソもないやつ。
「おーい!真面目くーん!こんな所で何やってんだー!?」
突如、声が聞こえた。
ヤンキー二人が歩いてくる。
片方は手も振った。
「君は、見られたくなかったか。失礼するよ」
美少女は液体になり、鞄に戻る。
僕もすぐに弁当を片付けた。
教室に戻る準備だ。
「おーい、何やってんだー。真面目くーん。一人飯かー?だったら一緒に食おうぜー」
ヤンキーがまた、肩を組んでくる。
僕はそれを無視して、立ち上がった。
「おー。冷たいなー。今日は不機嫌かー」
「••••おい。無視すんな。こいつが話しかけてんだろ」
もう一人のヤンキーに肩を掴まれる。
強く掴まれて、痛かった。
「痛い、やめろよ、」
僕は少し、肩を捻る。
次の瞬間、ヤンキーは吹き飛ばされた。
「おーい。大丈夫かー?吹き飛ばされてー。どうしたー?」
「••••は?ふざけんなよ、おい」
こんなパワーは僕に無かった。
目を見開いて、肩を見る。
半透明の液体がまとわりついていた。
「おーい。辞めろ。洒落になんねぇぞ」
「ふざけんなよ。おい!」
ヤンキーの一人が殴りかかる。
そんな中、液体が薄く体の半分にまで広がっていく。
「暴力は好まないね。特に幼体には危険だ。少し借りるよ」
耳元で囁かれる。
体が勝手に動く。
「ぐ、ちっ、おい、なんだその液体、、」
ヤンキーのパンチを、僕の片手で止める。
そして、手をひねった。
直後、ヤンキーは地面に倒れ伏す。
「おおー!!やべぇな!とんでもないパワー!才能あんじゃね!?あいつボクシングやってんだぜ!?」
「ふ、ふふん、僕の勝ち。二度と喧嘩を売るなよ」
晴天の空の下。
僕は早足で、その場を去る。
美少女の事がバレてしまうのも、怖かった。
「あの、僕を、庇ってくれてありがとう。助かった」
「君の感謝は必要ない。幼体同士の喧嘩は、非常に危険なものさ。明日以降も任せてくれて、構わない」
「まだついてくる気なんだ、、」
◾️◾️◾️◾️◾️
学校で、チャイムがなる。
そんな音が、聞こえた。
下校時間だ。
僕は帰路につく。
「彼方此方に流れる人間の波。君にはまた礼を言おう。貴重なものだ。記録に残せないのが勿体ない」
横を歩く美少女は、笑顔だ。
日差しも相まり、眩しかった。
「僕も、、またありがとう。助けてくれて、」
ヤンキー共にあんな目で見られたのも、気持ちよかった。
運動が出来る、あいつらに。
刺激があった。
「、、良い。当然の事さ」
表面だけ液状化した手で、頬を撫でられる。
少し、くすぐったかった。